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44.魔王、初めてのコンビニ

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 その後、リヒトはどこかへ電話をしていた。
 どうやら職場に休みたいと相談していたようだったが、こんなに急では休めないようだった。

「あーあ、参ったな。仕事休めないや。たまたま今日はイベントがあって、ちょっと休みにくい日なんだ」

「心配するな、我は魔王だ。一人でもなんてことはない。例え今日休めたとしても明日は仕事へ行くことになるだろう? 同じことだ」

「うーん……、心配だな」

 と奴は笑った。

 そういえばウォズから逃げ偶然リヒトと再会できたものの、元の世界への帰り方がわからない。
 我は今後ずっとここにいることになるのか。
 首元には赤い魔石の首飾りがあるが、これを使って帰ることは出来るのだろうか。

「お腹すいたね? とりあえず買い物へ行こうか」

 朝方眠ったから時間の感覚が変だが、狭い部屋の扉を開けると、昼過ぎの外はまぶしいぐらい明るかった。

 奴に連れられて、揃いの部屋着のままマンションのすぐ近くにあるコンビニという商店へ向かうことになった。

 来店した我々を向かい入れるようにドアが開いた。

「店主は魔女か?」

「そんな訳ないよ。この世界には魔族はいないってば」

「何にする? ルシファーの好きそうな食べ物あるかな? パスタとかどう?」

 奴がミートソーススパゲッティを手に取った。透明な蓋越しにすぐに食べられる状態だとわかる。

 食べ物の完成品を腐らせずに販売するなんてやっぱり魔女の店なんじゃないかと店員を見るが、魔力なんてなさそうな普通の若い男だった。

「この世界の住人はこうやって食べたいものをその都度買って食べているのか?」

「別にみんなが毎食コンビニ弁当を食べてるって訳じゃないよ。あんまり体に良くないし」

「体に良くない? 毒が入っているのかっ!?」

 我が大声を出したので、店にいた他の客がこちらをちらちら見ていた。

「後で説明するから、とりあえず好きなもの選んで」

 我は奴と一緒に棚を見て回り、ボトルの赤ワインとチーズ、ライ麦パン、ソーセージなどを選んだ。

「下着とか歯ブラシとかもいるでしょう?」

 リヒトは何やらよくわからないものをかごに追加し、店員のところへ行ってやり取りをしていた。

「貴様、ちゃんと金を払ったのか?」

 外では特にそばを離れるなと言われていたからすぐ近くで見ていたのだが、奴はポケットから出した四角いものをかざしただけで、コインを店員に渡していなかった。

「払ったよ。キャッシュレス決済なんだよ」

「ん? この世界は何やら難しいな」

 買い物の仕方一つこんなに違うなんて驚いた。
 それにこの世界には魔法がないというが魔法を使っているとしか思えないようなことが度々起こった。
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