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25.交換条件

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「くっ……、情けないっ」

 エルフどもに笑い者にされるだなんて。
 悔しさのあまり、我は下を向いて唇を噛んだ。

「おっと、勝手に舌を噛んで死ぬなよっ!」

 ウォズが我の顔の前に手をかざして呪文を唱えた。
 魔法で出現したひも状の口かせで我の口は拘束されてしまった。

「んんっ」

 苦しくはないものの、これではしゃべることも出来ない。
 舌でグイグイ押してみても革製なのだろう頑丈でびくともしない。

「お前をいたぶり殺すのが俺たちの楽しみなんだからさ」

 我のあごを掴んで顔を近づけたウォズは青い瞳で微笑んだ。

「ウォズ王子、この者たちを打ち首にしましょう」

「火あぶりはいかがですか?」

 兵士たちが物騒な発言をするので、我々は焦りを感じた。

「ねえ、ウォズ。俺の話を聞いてよ」

 リヒトは縛られている身をよじってウォズに話しかけた。

「んー、なんだよ?」

「ねえ、一つお願いがあるんだ。殺されるなら俺たちは一緒に殺されたいんだ。片時も一人になりたくないんだ。俺たちは番だからね」

「お前たちそんなに仲がいいなら、なぜ送還魔法で元の世界に帰ろうとしていたんだ? さてはまた俺たちエルフ族を騙して青の魔石を奪い取ろうなんて考えているんじゃないか?」

 ウォズは苛立ちを隠せない様子だった。

「違うよ、俺は元の世界にどうしてもやり残したことがあって、一旦帰らなきゃならないんだけどすぐに戻ってくるつもりだったんだよ。俺とルシファーはすでに番だからね。俺がちゃんとこっちに戻ってこないと、アルファの俺はともかくオメガのルシファーはこの世界で惨めな思いをしちゃうからさぁ」

 リヒトはどうしてこんな嘘をつくのか。我々は番にはなっていないし、おまけにリヒトがこの世界に戻ってくる計画なんてないのに。

「ああ、どおりで赤の魔石の首飾りで首を覆っていると思ったら、魔王のくせに首につけられてしまった恥ずかしい人間の歯形を隠している訳か。こりゃ傑作だっ」

 ウォズはお腹を抱えて笑った後、

「ははーん、なるほど。もしリヒトが戻ってこなければ番を解消された状況と同じという訳か。魔王が番のアルファに捨てられ一人で生きる惨めな姿は見ものだな。うーん、簡単に殺してしまうのが惜しくなってきたな……」

 とつぶやきながら考えを巡らせ、エルフ王の耳元へ顔を近づけ何やら相談を始めた。

 アルファは番を解消することによって別のオメガを見つけて番になることも可能だが、オメガは一度番を解消されると次に新たなパートナーを探すのは難しいと言われている。
 それどかろか番を解消されたオメガは後も訪れる発情期も経済的な問題もたった一人でどうにかしなければならないのだ。

 なるほど段々とリヒトの狙いが見えてきた、と我は黙って聞いていた。

「わかった、こうしよう。我々でリヒトを元の世界に戻してやってもいい。ただしタダでという訳にはいかない。すでに群衆はお前らの公開処刑を楽しみにしていたのだから。リヒトを元の世界へ送還し魔王を生きたまま解放してやる代わりに今夜の祭りに参加してもらおう」

 ゆっくりと近づいてきたウォズは、にやりと顔を歪ませて言った。

「……祭り?」

 打ち首や火あぶりにされるよりマシだとリヒトは安堵した表情で聞いた。
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