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16.貴様は魔王城で暮らせ

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「壊した鎧のお詫びに来たっていうのは口実だよ。本当は俺、ルシファーに会いたくて仕方なかったんだ」

 我も同じだ、貴様のことばかり考えていた。なんて正直に言うのは気恥ずかしくて、我は代わりに皮肉を言った。

「フン、男娼の貴様のそんなセリフ誰が信じるか」

 裸のまま隣に寝そべり、我の長い髪をすいていたリヒトは指を止め、

「……男娼じゃないよ、枕営業は何年もしてなかったってば」

 と口を尖らせた。

「そういえば首飾りが偽物だなんて王国の関係者は誰一人気づいていないよ。俺をこの世界に召喚した国王のお付きのウォズという召喚師以外はね」

「ウォズ?」

 王国側に召喚師がいたなんて初耳だ。そもそも大した魔力を持たない人間が召喚師になんてなれるのか。

「お前は魔王の弱点だから魔王を討伐しろって言われたけど、俺は誰かを暗殺するなんて嫌だから断ったんだ」

 元の世界に帰してくれとウォズに言ったけど、その夜魔王の手下が召喚魔法に必要な赤の魔石を奪って行ったんだ。もし赤の魔石を取り返して来たら元の世界に戻してやると約束してくれた。

 俺が魔王城から首飾りを持ち帰ると国王は秘宝が戻って来たと大喜びだったけど、ウォズはその首飾りは偽物だと言った。でも誰もウォズの言うことを信じずお祭り騒ぎを始めたからウォズは怒って城を飛び出して行った。

「ウォズがいなくなったせいで俺は元の世界に戻る手段がない状態なんだよね」

 我は自分の首元の魔石に触れた。確かに強い魔力を放つこの石には何か特別な力があるように感じていたが、召喚魔法に使える道具だったとは知らなかった。

「そうかっ! 貴様には帰る世界があるのかっ!」

 現状から脱する糸口を見つけた我は嬉しくて大声を上げた。

 本来この世界にいないはずのリヒトが現れたせいで我がオメガになってしまったのなら、リヒトを元の世界へ送り返せば、我は再びアルファに戻ることが出来るのではないだろうか。

 どうしてそのことに今まで気付かなかったのか。ここ数日ひどい発情に苦しんでいて頭がろくに働かなかったせいだ。

「ルシファーがいるから俺はもう一生この世界で生きてもいいんだけど。元の世界には何の未練もないし」

 リヒトは我の背中へ腕を回して抱きつこうとしたが、我は拒絶するように奴の胸を押した。

「いや、貴様は絶対にその世界へ帰るべきだっ! 元の世界へ戻れるよう、我が手を貸してやろう。その間、貴様は魔王城で暮らせ」

 貴様がどこにいるのかもわからない状況では、いざ貴様を元の世界に送り返す準備が整っても意味がないからな、と我は言った。

 こうしてリヒトは魔王城で暮らすことになった。
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