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第九章 甘い生活(麗夜side)
57.両親へ挨拶(最終話)
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どうやら俺が思った通り、蒼の両親は年宏叔父さんから借金なんてしていないだろう。
それどころか、遺産の分け前がない と知った年宏さんは蒼の家の玄関の陶器の置物を傘で叩き割って出て行ったにもかかわらず、その後も何度か「金を貸してくれ」と蒼の両親の元を訪れていた様子が記されていた。蒼の両親は優しいのだろう、とうとう金を貸してしまっていたらしかった。
「うそ、借金をしていたのはむしろ年宏叔父さんの方じゃないですか!?」
真相を知った蒼は愕然としていた。
***
後日、蒼は入院中の叔父さんの元へ証拠の品としてお父さんの手帳を持って問いただしに行った。
俺は病室まではいかずに病院のロビーで蒼が戻ってくるのを待っていた。
「開き直ってました……、遊ぶ金が欲しかったんだって。働いていなくて生活保護で暮らしていたらしいんですけど。僕が月々渡していた5万なり10万なりの金もすぐになくなって、闇バイトで見つけたやたら高時給の仕事に手を出したら、特殊詐欺の片棒を担いでいたって……」
怒りを通り越して呆れているのだろう。車の中で蒼は淡々と俺に病室での叔父さんとの会話を聞かせた。
「それでも言うことだけはいいんです。若いうちの苦労は買ってでもしろってことわざがあるだろう、だから俺に感謝しなって……」
「頭に来たときは怒っていいんだよ、蒼」
「怒るどころか、騙されていた僕も悪いんで何も言い返せませんでした……」
もしも俺が蒼の立場だったらそんな風に穏やかではいられないだろう。大学から社会人1年目という本来楽しいはずの青春の大事な時期を叔父さんの嘘の借金の返済のために貧乏生活を強いられたのだから。
それでも俺としてはそのおかげでこうして蒼と出会えて結ばれたわけだから叔父さんを恨むわけにはいかない。もしかしたら蒼もそう思っているのだろうか。
丘の上にある霊園の駐車場へ俺は車を停めた。ジャケットのポケットからリングケースを取り出す。
「蒼、左手を出して」
彼は少し頬を染めて俺の手の平に左手を乗せた。
薬指にリングをゆっくり差し込んだ。
シンプルなデザインの指輪が蒼の白くて長い指にとてもよく似合っていて俺はうっとりした。
俺が左手を差し出すと、蒼も俺にリングをはめてくれた。蒼とペアリングをはめられるなんて夢みたいだ。
トランクから花束を出して車を降りた。青い空にところどころ雲が浮かぶ穏やかな暖かい日だった。
墓地の中を二人で進んで行く。
「いつもお墓参りは一人で来ていましたから、誰かと一緒って初めてでなんだか変な感じです」
蒼は嬉しそうにそう言った。
交通事故で亡くなった蒼のお父さんとお母さんが眠る、先祖代々のお墓へ俺たちはパートナーになったことを報告に来たのだ。
線香とユリやリンドウの入った仏花の花束をお供えして、俺は蒼の隣に並んで手を合わせた。
おわり
それどころか、遺産の分け前がない と知った年宏さんは蒼の家の玄関の陶器の置物を傘で叩き割って出て行ったにもかかわらず、その後も何度か「金を貸してくれ」と蒼の両親の元を訪れていた様子が記されていた。蒼の両親は優しいのだろう、とうとう金を貸してしまっていたらしかった。
「うそ、借金をしていたのはむしろ年宏叔父さんの方じゃないですか!?」
真相を知った蒼は愕然としていた。
***
後日、蒼は入院中の叔父さんの元へ証拠の品としてお父さんの手帳を持って問いただしに行った。
俺は病室まではいかずに病院のロビーで蒼が戻ってくるのを待っていた。
「開き直ってました……、遊ぶ金が欲しかったんだって。働いていなくて生活保護で暮らしていたらしいんですけど。僕が月々渡していた5万なり10万なりの金もすぐになくなって、闇バイトで見つけたやたら高時給の仕事に手を出したら、特殊詐欺の片棒を担いでいたって……」
怒りを通り越して呆れているのだろう。車の中で蒼は淡々と俺に病室での叔父さんとの会話を聞かせた。
「それでも言うことだけはいいんです。若いうちの苦労は買ってでもしろってことわざがあるだろう、だから俺に感謝しなって……」
「頭に来たときは怒っていいんだよ、蒼」
「怒るどころか、騙されていた僕も悪いんで何も言い返せませんでした……」
もしも俺が蒼の立場だったらそんな風に穏やかではいられないだろう。大学から社会人1年目という本来楽しいはずの青春の大事な時期を叔父さんの嘘の借金の返済のために貧乏生活を強いられたのだから。
それでも俺としてはそのおかげでこうして蒼と出会えて結ばれたわけだから叔父さんを恨むわけにはいかない。もしかしたら蒼もそう思っているのだろうか。
丘の上にある霊園の駐車場へ俺は車を停めた。ジャケットのポケットからリングケースを取り出す。
「蒼、左手を出して」
彼は少し頬を染めて俺の手の平に左手を乗せた。
薬指にリングをゆっくり差し込んだ。
シンプルなデザインの指輪が蒼の白くて長い指にとてもよく似合っていて俺はうっとりした。
俺が左手を差し出すと、蒼も俺にリングをはめてくれた。蒼とペアリングをはめられるなんて夢みたいだ。
トランクから花束を出して車を降りた。青い空にところどころ雲が浮かぶ穏やかな暖かい日だった。
墓地の中を二人で進んで行く。
「いつもお墓参りは一人で来ていましたから、誰かと一緒って初めてでなんだか変な感じです」
蒼は嬉しそうにそう言った。
交通事故で亡くなった蒼のお父さんとお母さんが眠る、先祖代々のお墓へ俺たちはパートナーになったことを報告に来たのだ。
線香とユリやリンドウの入った仏花の花束をお供えして、俺は蒼の隣に並んで手を合わせた。
おわり
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薫さん お疲れ様でした。
アー終わっちゃったのか⁉️ちょっとがっくりです。又、新しい投稿も、期待して待っています。
感想ありがとうございます。
またそのうち続きを書くかもしれません(^^)
こんばんは、毎日更新楽しみにしています。けなげな蒼とスパダリ麗夜さん&どきどきの玩具、最高です♡
さて、ごめんなさい、ひとつだけお願いがあります。リイさんのことです。リイさん(外国人)=犯罪者みたいな感じにならないで欲しいと思います。蒼とリイさんの関係はすごく良かったと思うし、ちはるが言ってることが本当かどうかもわからないんですけど、私は中国人とか外国人の友人が多く、友人たちがそのようなステレオタイプを作品や報道を通じて持たれてしまうことをとても悲しく思っています。確かに悪い外国人もいると思いますが、同じように悪い日本人もいると思います。衣草さんが外国人に対して偏見を持っているとは思っていません。今後の展開がどうなるかは衣草さんのものなので、1ファンがとやかく言えることではないと思っていますが、なんとかリイさんの無実?が描かれると良いなと希望します。
今後とも応援しています&心から更新楽しみにしています。作家さんを尊敬しています。
感想ありがとうございます。
ひばりさんのおっしゃる通り、リイさんは蒼にとって大事な友達です(^^)
異国の地で逞しく生きるリイさんの姿に蒼は励まされてきたのですから。
リイさんがどうして追われてしまったのか、完結までに記したいと思います。