上 下
55 / 57
第九章 甘い生活(麗夜side)

55.蒼のお父さんの手帳

しおりを挟む
「うわ、どうして……」
 書斎の本棚や机の引き出しが引っ掻き回されて部屋の中がひどく荒れ果てていた。まるで泥棒が入ったみたいだ。
 叔父さんが血眼で遺書などないか探したのだろう。
 これでは今更探したって何も出てこないだろう、と俺は肩を落としたが……。

「そういえば父さんはスマホが普及してからも紙の手帳をいつも大事に持ち歩いていたなぁ……。父さんは手帳の使い方も少し変わっていて、仕事のスケジュールなんかも書きますけど、後ろの方のページに解決したい問題なんかを書き出して、頭の中を整理するのに使っていたんです。同じことをずっと考えていると泥沼にはまるみたいにどんどん思い悩んで苦しくなってしまうけど、紙に書き出してみると案外簡単に解決の糸口が見つかるし、何より一度書いて頭の中を空にすると楽になるからやってみるといいよっていつだか僕に教えてくれました」
 それは俺もわかる気がする。
「その手帳はどこに?」
「うーん、どこでしょうね……」

 しばらく首を傾げて考え込んだ後、
「そうだ、屋根裏部屋かもしれません」
 蒼は自分が使っていたという部屋に俺を案内した。
「僕の部屋は荒らされてないや。ここで暮らしていたときのままです。ふふ、……懐かしい」

 隅に立てかけてあった長い棒を蒼は手に取り、棒の先の鍵のような部分を天井の金具へかけた。
 天井の一部分ががばっと開いて、折りたたまれていたはしごが伸びてきた。
「ここから屋根裏部屋に上がれるんです。父さんと一緒に星を見るための秘密基地だったんです」

 ギシギシ軋むはしごを慎重に登って、べニア板や梁が剥き出しの中腰でしか進めない狭い屋根裏には望遠鏡が置かれていた。
 小さな棚に古い漫画雑誌やプラモデルなんかも置かれている。その棚で隠れた奥の場所にお父さんの手帳が並べてあった。
「やっぱり。僕たちは母さんに見られたくないものをみんなここへ持ち込む癖があったんです、男同士の秘密だって言って」

 30冊近くある手帳を抱えて蒼ははしごを降りた。もちろん俺も半分運ぶのを手伝った。
「見てもいいのかな?」
「父さんがなんて言うかはわかりませんが、いいですよ、僕が許可します。だって僕たちの屋根裏部屋に置いていたってことは大人になった僕に見てほしい気持ちがあったってことですもんね」

 彼の部屋で俺たちはその手帳をしらみつぶしに見て行った。
 紙も黄ばんだ古い手帳を破らないように慎重にめくる。蒼の言う通り、手帳の後ろのメモページに悩み事が記されていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

カントボーイ専門店でとろとろになるまで愛される話

BL / 完結 24h.ポイント:653pt お気に入り:480

最愛の推しを殺すモブに転生したので、全力で救いたい!

BL / 完結 24h.ポイント:994pt お気に入り:2,308

催眠アプリ(???)

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:19

ここから【短編集】

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:15

【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集

BL / 連載中 24h.ポイント:1,022pt お気に入り:48

サンコイチ

BL / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:74

凌辱夫を溺愛ルートに導く方法

BL / 完結 24h.ポイント:974pt お気に入り:3,636

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:312pt お気に入り:4,058

孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる

BL / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:709

処理中です...