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第九章 甘い生活(麗夜side)
53.叔父さんの逮捕
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俺は約束通り蒼の借金を肩代わりしてやることにした。
金に不自由していない俺にとって1000万円なんてはしたかねだからポンと払ってやってもよかったけど、なんだかいろいろと引っかかるところがあったので迷っていた。
俺が思うに蒼の両親は叔父さんから借金なんてしていないだろう。アパートから俺のマンションの部屋へ荷物を全て運んだ際に古い家族写真を見せてもらったが、蒼の両親は蒼と同じくまじめで実直な人だったらしい。
一方の叔父さんというのは、アパートの前で一度だけ見かけた際にも感じたが、あまり誠実な生き方をしている人間には見えなかった。外見で決めつけるのはいけないかもしれないが、長年社長業をしてきてたくさんの人に会って来たから、俺の人を見る目は節穴ではないと思っている。
なんとなくの違和感……、これって案外あてになるものだ。
だから俺は蒼のために亡き両親の身の潔白を証明してやりたいなと思っていた。
一度蒼と一緒に蒼がかつて両親と共に暮らしていた家で暮らす叔父さんの元を尋ねようと思っていたが、叔父さんがいる前で自宅をあれこれ物色するなんてことはできないだろうし、どうしたものかと思っていた。
しかし事態は思わぬ急展開を迎えた。
***
休日、俺たちは自宅のリビングでコーヒーを飲んでいた。前日、俺が横浜まで出張へ行った際に蒼へのお土産として買ってきた月餅を一緒に食べていたのだ。
自宅の電話機が鳴ったのは珍しいことだった。
今の時代、ほとんどの用事は携帯電話でことが足りるが、会社の社長をしているとなると何かの契約などの際に固定電話の番号が必要なこともあり、大した額じゃないからと契約している。
「はい、もしもし……」
黒ゴマの香ばしい餡の月餅をコーヒーで流し込んで、俺は受話器を取った。秘書か会社の関係者ならスマホにかけてくるはずだから誰だろう……。
「藤崎さんのお宅でしょうか?」
「ええ、そうです」
「警察です。野々原年宏さんのことでお電話しております。野々原蒼さんはご在宅でしょうか?」
警察から? おまけに叔父さんのことだなんて、なんだろうか……。
「え、そうですかっ! ……えっ! ……ええっ!? ……わかりました、ご迷惑をおかけしてすみません」
電話の最中に蒼の顔はどんどんと青ざめて行った。
「大変です、麗夜さん。警察から叔父さんが逮捕されたって……」
電話を切るなり、蒼は取り乱していた。
「落ち着いて、何があったって言われたの?」
俺はコードレスの受話器を受け取り、彼をソファーへ座らせた。
「特殊詐欺のグループが逮捕されて、その中に年宏叔父さんが含まれていたそうで……。おまけに警察から逃げようとした際に大けがをして、入院が必要な状態みたいです」
金に不自由していない俺にとって1000万円なんてはしたかねだからポンと払ってやってもよかったけど、なんだかいろいろと引っかかるところがあったので迷っていた。
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一方の叔父さんというのは、アパートの前で一度だけ見かけた際にも感じたが、あまり誠実な生き方をしている人間には見えなかった。外見で決めつけるのはいけないかもしれないが、長年社長業をしてきてたくさんの人に会って来たから、俺の人を見る目は節穴ではないと思っている。
なんとなくの違和感……、これって案外あてになるものだ。
だから俺は蒼のために亡き両親の身の潔白を証明してやりたいなと思っていた。
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しかし事態は思わぬ急展開を迎えた。
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休日、俺たちは自宅のリビングでコーヒーを飲んでいた。前日、俺が横浜まで出張へ行った際に蒼へのお土産として買ってきた月餅を一緒に食べていたのだ。
自宅の電話機が鳴ったのは珍しいことだった。
今の時代、ほとんどの用事は携帯電話でことが足りるが、会社の社長をしているとなると何かの契約などの際に固定電話の番号が必要なこともあり、大した額じゃないからと契約している。
「はい、もしもし……」
黒ゴマの香ばしい餡の月餅をコーヒーで流し込んで、俺は受話器を取った。秘書か会社の関係者ならスマホにかけてくるはずだから誰だろう……。
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「ええ、そうです」
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警察から? おまけに叔父さんのことだなんて、なんだろうか……。
「え、そうですかっ! ……えっ! ……ええっ!? ……わかりました、ご迷惑をおかけしてすみません」
電話の最中に蒼の顔はどんどんと青ざめて行った。
「大変です、麗夜さん。警察から叔父さんが逮捕されたって……」
電話を切るなり、蒼は取り乱していた。
「落ち着いて、何があったって言われたの?」
俺はコードレスの受話器を受け取り、彼をソファーへ座らせた。
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