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第八章 彼の気持ち(蒼side)

47.リイさんのその後

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「麗夜さん、……あのっ」
 言葉を整理して麗夜さんに伝えようとしたとき、彼のスマホが鳴った。

「ちょっと、ごめんね……」
 アラビアータを食べていたフォークを皿へ置いて、麗夜さんは僕の目の前に座ったまま電話に出た。
「はい、もしもし……。うん……。お、それはよかった。わかった、すぐ準備するから」

 電話を切るとすぐにテーブルの空きスペースにノートパソコンを置いて開き、電源を入れた。
 こんなときに仕事? 彼に取って仕事は大事なものだとわかっているけど、僕は今まさに真剣に麗夜さんへ自分の気持ちを伝えようとしていたのに……。
 僕は少しだけモヤモヤしながらパソコンを操作している麗夜さんを見ていた。

「ほら、蒼、来て」
 麗夜さんは僕を手招きした。
 僕はおずおずと席を立ち、彼の隣に行って画面を見た。
 ビデオ通話だろうか、読み込み中のマークが消えてパソコンの画面にある人物が映り込んだ。

「リイさんっ!?」
 それは間違いなくつい先日まで隣人だったリイさんだった。
「蒼、無事で良かった。蒼のことずっと心配でした」

 リイさんの背後にはずいぶんと豪華な装飾品と家族らしき人たちが映り込んでいた。彼の身なりも日本にいた頃よりずっといい。

「リイさんも無事なの!? 無事に国に帰れたんだね! よかった……。あれからアパートに変な人たちが来たんだよ、大丈夫だった?」
「ごめんなさい、蒼に本当のこと言っていませんでした。私の家は代々続く歴史ある料理店です。我が家の大事な秘伝のレシピ、盗まれました。売られて日本にあると知り、私は取り返しに日本へ行きました。海外の盗品を転売する業者から盗み返しました、だから私は追われていました。でももう大丈夫。奴らはここまで追ってきません、何も心配ありません」
 リイさんはボロボロの書物を画面越しに僕に見せた。
 料理の修行のために日本へ来ていると言っていたのはカモフラージュだったのか。

「日本へたった一人で行った私のことが心配で父は体調崩しました。でも秘伝のレシピ持ち帰ったら、この通り元気です」
 隣にいるお父さんの頬はこけているけど、にこにこと笑っている。
「よかったね、リイさん……」

「そうだ、私の許婚、紹介しましょう」
 リイさんは家族たちの一番後ろにいたきれいで優しそうな女性を呼んで僕へ見せた。
「結婚します。レシピ持ち帰ったらそうする約束でした。だから頑張れた」
 リイさんは僕に満面の笑みを向けた。

 よかった、本当に。彼が無事で。幸せそうで……。
「蒼、遠いけどいつか私のお店へ会いに来てください。いっぱいご馳走します」
「うん、そのうち必ず行くよ。リイさん、元気で」
「蒼も。お幸せに」
 お幸せには結婚するリイさんでしょ、と思いながらも僕は嬉し涙をこらえながら、ビデオ通話を終えた。
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