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第七章 見知らぬ美青年(麗夜side)

38.ちはるの目的

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「そんなぁ……。藤崎さん、野々原なんてひいきにしないで僕のパパになって」
 ちはるは身を起こしてベッドから抜け出そうとした俺にしがみついた。

「君、野々原蒼を知っているのかい?」
「知っているも何も、野々原は同じ会社の同僚だよ。藤崎さんが野々原にお客を紹介するから、契約ゼロで営業二課の底辺だったあいつが契約取れるようになっちゃったんだ。そんなのずるいよ。お願い、野々原じゃなくて僕にお客を紹介してっ」
 俺の胸に擦りつけていた顔を上げると、彼の目には涙が浮かんでいた。そうか、蒼から俺を奪い取ろうとしているのか。
 目が覚めたら俺を襲っていたこの子の目的がようやくわかって俺は少し安堵した。

「……いっぱい、サービスするから」
 ちはるは上目遣いでこちらを見ながら、俺の胸板を指先でクルクルと弄んだ。
 確かにこの子は美人だ。今まで自分の色香を利用して裏から手を回していいように生きてきたのだろう。

「ごめんね、俺は蒼じゃないとダメなんだ」
 あまりにきっぱりと言ったから、ちはるはあからさまにイラっとして口を尖らせた。
「あんな地味で貧乏くさい野々原の何がいいの? よく考えてよ、僕の方がいいに決まってるじゃん」
「……少なくとも蒼はそんなこと言わないよ?」
 蒼はいつだって不平不満何一つ口にせず、控えめで健気だ。
 両親の事故死に続いて身に降りかかった借金苦。彼には何の落ち度もないのに、誰にも八つ当たりせず運命を受け入れて慎ましく生きている。そんな蒼だからこそ俺は彼を支えてあげたくてたまらないのだ。

 ちはるは俺の上から退いて、下着を穿いた。俺もゆっくり起き上がって乱された衣服を整える。
「ふん、なんだよ。企業リスト作成担当の主任を誘惑して、野々原の営業先リストを契約が取れなさそうな受付のブロックの強い会社ばっかりに変えさせてたっていうのに。あんたの会社が野々原のリストに紛れ込んでいたのが、僕の運の尽きだったのか、ちぇっ」
 イライラした様子で腕を組んで俺に悪態をついた。
「おいおい、そんなことをしていたのかい? 蒼が契約取れたって取れなくたって関係ないだろ。君は君で頑張ればいいだけの話だ」

 向き不向きもあるけど、営業の仕事は努力や工夫をした分、数字に表れてしっかり成績として自分に帰って来る。ちはるがそんなに仕事を熱心にやっているなら、蒼との実力の差は歴然であろうと思うが……まさか?
「うるさいなっ、それじゃ面白くないんだっ! 僕だけが優秀だって褒められたいんだよっ! 僕がどんな気持ちでおっさん相手に枕営業してきたと思ってんだっ! 引き立て役がいないとつまんないだろっ!」

「……君は努力をしたわけじゃなく、上っ面の成績のために枕で契約を取ってきたのかい?」
 俺は呆れて呟いた。
「説教するなよ! あんただって同じだろっ! 僕があんたらの関係に気づいてないと思うなよ」
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