34 / 57
第六章 お金のための関係 (蒼side)
34.叔父さんのこと
しおりを挟む
実は僕は年宏叔父さんのことをよく知らない。
母の弟であることは確かなんだけど、両親が生きている当時も家に遊びに来るなんてことは一度もなくて、ずっと疎遠な人だった。
両親の葬儀に来たときも一人で来たから独身っぽいけど、何の仕事をしているのかもわからない。
あるとき、僕が大学の帰りに友達と歩いていると、平日の昼間だというのに叔父さんがふらっとパチンコ屋から出てくるのを見たことがあった。
「あ、叔父さんだ」
僕がそう言うと一緒にいた友達が眉をひそめた。
「叔父さんって……、お前の両親がした借金を返せって言ってる叔父さんのか?」
「うん、そうだよ。就職したら月5万円ずつ返す約束なんだ」
はーっ、と言いながら友達は頭を抱えた。
「……おいおい、大丈夫かよ」
大丈夫って何が? と僕はポカンとしていた。
「……しっかりしろよ、チンピラみたいな人じゃん。まともなサラリーマンだったお前の両親があの人から金を借りると思うか? あの人何の仕事してるんだよ?」
「さあ? でも母さんの弟だし、身内同士でお金を貸し借りすることもあるんじゃないかな?」
「うーん、どうだろう……。返済する前に、ちゃんと借用書見せてもらえよ」
友達に言われて僕は叔父さんに借用書が見たいとお願いしてみたが、
「そんなもん、あるわけないだろ」
と一蹴された。借金の証拠になるようなものは何一つないと言ったのだ。
「それなら返済しなくていいんじゃないか」
アルバイト先の先輩からもそうアドバイスされた。
でも僕は突然交通事故で両親を失ってひどく心細かったから、唯一の肉親である叔父さんとの繋がりを絶ちたくなかったのだ。
きっと悪い人じゃない。その証拠に僕が借金を返済すると言ったら代々の墓に両親の遺骨を納めてくれたのだから。
500万円だと思っていた借金が実は1000万円だった。そう言われたときはショックだったけど、学生の僕に1000万円返せと言わずに500万円と言っていたのは実は叔父さんの優しさなのかもしれない……。
叔父さんはきっといい人なんだ。
そう思って自分を納得させようとしているが、暗い道の側溝のふたにつまずきそうになって、はっと現実に引き戻された。
心の奥底じゃ僕だってみんなが言う通り叔父さんに騙されている、カモにされているってわかっている。僕がかつて両親と暮らしていた家に着いても中に入れてもらえない。でも僕にはそこ以外に行く当てなんてないんだ。
僕は実家を目指して歩いている間に夜が明けてくれることを願っていた。あのアパートでまた誰か来るんじゃないかってビクビクしながら朝を待つよりマシだったから。
歩いているうちに空気が冷え込んできて体がぶるっと震えた。
優しい両親が生きていたらなぁ……。
そう思うと、自分の境遇があまりにみじめで滑稽で、涙が溢れてきた。泣いたって仕方ないってわかっているのに。
車道を通る一台の車が減速して、ウィーンと窓が開いた。
何事だろう、と僕は身を強張らせた。さっきアパートに侵入してきた人たちが僕を生かしておけないと追いかけてきたのかも、と想像してゾッとした。
母の弟であることは確かなんだけど、両親が生きている当時も家に遊びに来るなんてことは一度もなくて、ずっと疎遠な人だった。
両親の葬儀に来たときも一人で来たから独身っぽいけど、何の仕事をしているのかもわからない。
あるとき、僕が大学の帰りに友達と歩いていると、平日の昼間だというのに叔父さんがふらっとパチンコ屋から出てくるのを見たことがあった。
「あ、叔父さんだ」
僕がそう言うと一緒にいた友達が眉をひそめた。
「叔父さんって……、お前の両親がした借金を返せって言ってる叔父さんのか?」
「うん、そうだよ。就職したら月5万円ずつ返す約束なんだ」
はーっ、と言いながら友達は頭を抱えた。
「……おいおい、大丈夫かよ」
大丈夫って何が? と僕はポカンとしていた。
「……しっかりしろよ、チンピラみたいな人じゃん。まともなサラリーマンだったお前の両親があの人から金を借りると思うか? あの人何の仕事してるんだよ?」
「さあ? でも母さんの弟だし、身内同士でお金を貸し借りすることもあるんじゃないかな?」
「うーん、どうだろう……。返済する前に、ちゃんと借用書見せてもらえよ」
友達に言われて僕は叔父さんに借用書が見たいとお願いしてみたが、
「そんなもん、あるわけないだろ」
と一蹴された。借金の証拠になるようなものは何一つないと言ったのだ。
「それなら返済しなくていいんじゃないか」
アルバイト先の先輩からもそうアドバイスされた。
でも僕は突然交通事故で両親を失ってひどく心細かったから、唯一の肉親である叔父さんとの繋がりを絶ちたくなかったのだ。
きっと悪い人じゃない。その証拠に僕が借金を返済すると言ったら代々の墓に両親の遺骨を納めてくれたのだから。
500万円だと思っていた借金が実は1000万円だった。そう言われたときはショックだったけど、学生の僕に1000万円返せと言わずに500万円と言っていたのは実は叔父さんの優しさなのかもしれない……。
叔父さんはきっといい人なんだ。
そう思って自分を納得させようとしているが、暗い道の側溝のふたにつまずきそうになって、はっと現実に引き戻された。
心の奥底じゃ僕だってみんなが言う通り叔父さんに騙されている、カモにされているってわかっている。僕がかつて両親と暮らしていた家に着いても中に入れてもらえない。でも僕にはそこ以外に行く当てなんてないんだ。
僕は実家を目指して歩いている間に夜が明けてくれることを願っていた。あのアパートでまた誰か来るんじゃないかってビクビクしながら朝を待つよりマシだったから。
歩いているうちに空気が冷え込んできて体がぶるっと震えた。
優しい両親が生きていたらなぁ……。
そう思うと、自分の境遇があまりにみじめで滑稽で、涙が溢れてきた。泣いたって仕方ないってわかっているのに。
車道を通る一台の車が減速して、ウィーンと窓が開いた。
何事だろう、と僕は身を強張らせた。さっきアパートに侵入してきた人たちが僕を生かしておけないと追いかけてきたのかも、と想像してゾッとした。
9
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる