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第六章 お金のための関係 (蒼side)

31.一人ぼっち……

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 自宅アパートに帰り、狭くて家具もろくにない部屋の畳に座ってヒザを抱えた。
 あんな写真一枚でこんなにも気持ちが落ち込むなんて、僕は麗夜さんに恋していたんだ。

 優しいし僕にレベルを合わせて会話してくれるから、どうも親しみを感じて好意を抱いていたけれど、彼からすればただの社交辞令と気まぐれだったのかもしれない。会社を経営しているぐらいの人だから、コミュニケーション能力は抜群に高いのだろう。
 お金も名誉もある人だから、麗夜さんはみんなからモテモテなんだ。僕だけに優しいなんて勘違いもいいところだ。

 ピンポーンと玄関チャイムが鳴った。
 僕は目尻に浮かんでいた涙を指先で払って、無理に普通の表情を作って玄関を開けた。

 部屋の外にはお隣のリイさんがいた。
「いたいた、よかった。私、国へ帰るよ」
 彼は大きなリュックを背負い、スーツケースを引いていた。

「え、帰るって? また戻ってくるんでしょう?」
 これまでも何度か彼は国へ帰って、中国のお土産を僕にくれることがあった。
「ううん、もう来ないよ。父が具合悪くなって故郷でお店継ぎます」
 彼の実家は料理店で、修行のために日本に来ているのだという話は以前から聞いていた。

「そんな急な……」
「ごめんね、急に決まったことです」
 ショックを隠し切れない僕にリイさんは心底申し訳なさそうに謝った。

「そうだ、これ。魔除けのお守りです。蒼にあげます、仲良くしてくれたお礼」
 彼はガラス細工でできた唐辛子がじゃらじゃらとたくさんついている飾りを僕に手渡した。
「え、くれるの? ありがとう。僕からは餞別を何も用意していないんだけど……」
 知らなかったとはいえ、お返しが何もないことを僕は申し訳なく思った。
「いいの、幸運を祈ります」
 リイさんは眉をひそめて苦笑いした。

「いつの飛行機で?」
「今夜。これから空港へ行きます」
 本当に突然の話に驚きながらも、僕は彼をアパートの前の道のバス停まで見送った。
「今までありがとう」
「こちらこそ今までありがとう」

 リイさんは廃墟みたいなこのアパートで自分以外の唯一の居住者だった。僕が就職を機にここに引っ越してきて半年ちょっと、このボロアパートで極限の貧乏生活に耐えてこられたのは同じように苦労しているリイさんが隣に暮らしていたからだった。
 寒い季節はすきま風が吹き込むし、夏は蚊も侵入してくる。おまけに梅雨時期なんて湿気がひどくてお世辞にも暮らしやすいとは言えないアパートだけど、朝起きたときも深夜も隣から誰かの生活音がするだけで、ふと安心できた。
 事故で両親を失った僕と、家族の元を離れて一人で異国の地へ修行に来ている彼とは通じるものもあったから、お互いの部屋へ行って話すこともあった。
 正直、これからこのボロアパートに本当に一人きりで住まないといけないと思うと心細い。
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