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第三章 僕の借金苦 (蒼side)

13.年宏叔父さん

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 麗夜さんの車から降りると、僕は車が見えなくなるまで見送った。
 また彼に助けられてしまった。麗夜さんって本当に優しい。

 この前、ホテルであんなことをされて、僕はどんな顔で麗夜さんに会えばいいのかわからず、結局納品にも立ち会わなかった。
 僕にとってセックスなんて初めてだった。誰かの肌のぬくもりを感じることも優しくキスされることも、全部初めてだったんだ。
 僕とは反対に彼はかなり慣れた様子だったけど。

 あれはただの新製品のテスターで、引き受けた人みんなにやっていることだったのだろうか。それともまさか、僕だけに……?
 そんなわけない、麗夜さんが僕のことを気に入る要素なんて何一つないじゃないか。
 大学の就活の頃から着ている安物のスーツと革靴、高校入学祝いに父さんが買ってくれた腕時計を未だに身につけている僕は営業マンとして全然イケてない。

 ホテルで僕がいつの間にか眠ってしまっていた間に麗夜さんは「仕事があるから先に帰るね」とメモを残して帰っていた。
 それきり連絡もないし、今後契約更新の際ぐらいしか会うこともないだろうと思っていたんだけど、結局麗夜さんの方からたまたま公園にいた僕に声をかけてきて、また僕を助けてくれた……。

 両親を失ってから甘えられる存在なんていなかったから、頼れるとか安心できるとかこういう胸が温かくなる感情、すごく久しぶりだ……。
 また連絡してくれるって言っていたな……正直、嬉しい。



 僕が部屋の中でジャケットを脱いでネクタイを解いていると、玄関のチャイムが鳴った。
 誰だろう、お隣のリイさんかな、とドアをあけた。

「よお……」
 そこにいたのは僕の母の弟である年宏叔父さんだった。
「年宏叔父さん……」
 僕の両親が生前にしていたという500万円の借金を、叔父さんは毎月僕の元に回収しに来る。

 両親の死後、僕は両親とずっと一緒に暮らしていた戸建ての家を売却して借金の返済に充てようとした。
 年宏叔父さんに相談すると知り合いだという不動産業者を紹介してくれたけれど、駅から遠い立地の中古住宅なんて簡単には売れないらしく、売却したいならその前にリフォームが必要で、それにはかなりの費用がかかると言われてしまった。

 僕は自宅の売却を諦めた。けれど、僕一人でその一軒家に住み続けるには広すぎるし、なにより両親と暮らした家で一人きりで生活するのは寂しかった。困っていると年宏叔父さんが現状のまま僕の代わりにその家に住んでやってもいいと提案してくれた。思い出の残る家だから、そのまま誰かに住んでもらえるなら僕としてもその方がよかったので、叔父さんに家を譲ることにした。

 僕は大学の近くの安いアパートに引っ越し、就職してからは会社近くのこのアパートの部屋を借りて住んだ。
 アパートの家賃がいくら安いとはいえ、叔父さんへの返済が月5万円、奨学金の返済が月3万円、それに家賃が3万円、就職して1年目の僕の給料は手取り13万円なので、食費・光熱費その他の雑費を月2万円以内に抑えなければならないギリギリの極貧生活だ。

 僕は引き出しから封筒を取り出して中身の5万円を確認して叔父さんに渡した。
「今月の分です、ありがとうございました」
 まだ昼間だというのに叔父さんからはお酒のにおいがしていた。
 封筒の中の札を数えて、彼は「確かに」と頷いた。
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