4 / 57
第一章 今日中に契約を取ってこないとクビだ! (蒼side)
4.高級ホテルの一室で
しおりを挟む
僕が会社へ戻ると営業二課のメンバーはとっくに定時は過ぎているというのにまだ仕事をしていた。
鬼塚課長の席まで歩いて行って、彼が取引先との電話を終えたタイミングで話しかけた。
「鬼塚課長、契約取れましたっ!」
「そうか、よかったな」
彼は手元の書類に視線を落としたまま返事した。
「15台、おまけに全て高機能モデルです」
そう言った瞬間、課長だけじゃなく、その場にいた全員が仕事の手を止めて僕の顔を見つめた。
驚いて当然だろう。入社してから半年間ずっと契約ゼロの僕が、1日にして15台も契約を取って来たのだから。
「すごいじゃないかっ、野々原。どうしたんだ?」
いつも怒鳴りつけてくる彼が僕の肩をパシパシと叩いた。
「いやぁ、お前ならやればできると思ったんだ」
「はあ、契約が取れた会社の名前は美……」
「ああ、会社名なんてどうでもいい。どんな会社だって契約取れればこっちのもんだからな。ほら、さっさと事務処理しろ」
僕は急いで机に向かった。21時からさっきの社長との約束があるし。
***
藤崎社長に指定された都内屈指の高級ホテルへ向かった。
借金苦のため、4畳半一間のボロアパートで質素に暮らしている僕にとって、こんな豪華な場所は場違いでなんだか落ち着かない。キョロキョロしているとラウンジに社長の姿を見つけた。
「藤崎社長、お待たせして申し訳ありません」
「ううん、俺も今来たところだよ。じゃあ行こうか」
てっきりホテルのカフェで話をするのかと思ったのに、社長は僕を連れてエレベーターで上の階へ向かった。新製品のテスターをしてほしいということだったけど、もしかして上の階のバーへ行くのだろうか。そう思っていたのに、連れてこられたのはなぜか客室だった。
「誰もいない静かな場所がよかったから、部屋を取っておいたんだ」
戸惑う僕に彼はなんてことないというふうにそう言った。
新製品のテスターのためにこんな高級ホテルの部屋を予約するなんて、やっぱり会社の社長となるとやることが違うんだなと僕は思った。
窓の向こうのキラキラと輝く都内の夜景が広がっていた。
「この部屋、なかなかいいでしょ? まず君の初めての契約を記念して何か飲もうか。シャンパンでいい?」
彼は冷蔵庫を開けてボトルを取り出した。
「え、あ、はいっ」
針金を緩めてポンと栓を開け、シュワシュワと気泡の弾ける淡い色の液体をグラスに注ぎ、僕に差し出した。
「契約、おめでとう。乾杯」
「あ、ありがとうございます、おかげさまですっ」
そう言えば、藤崎社長の会社、美麗クリエイションってどんなものを作っている会社で、僕は何のテスターをするんだろう。ここへ来るまでに調べておこうと思っていたのに、初めて契約が取れてバタバタしていたせいですっかり忘れてしまっていた。
「ところで、僕がテスターする新製品ってどんなものですか?」
藤崎社長は高級ブランドのビジネスバッグを開けた。
「じゃーん。これだよ」
にっこり笑った彼が差し出したのはピンク色のプラスチック製品だった。T字型の長い部分が場所により細くなったり太くなったりしていて緩やかにくねっている。
これは何に使うものだろうか? おしゃれなオブジェ? もしくはツボ押しアイテムだろうか?
「えっと……これって……?」
「大丈夫、俺に任せて。新製品だから使い方を教えてあげる」
鬼塚課長の席まで歩いて行って、彼が取引先との電話を終えたタイミングで話しかけた。
「鬼塚課長、契約取れましたっ!」
「そうか、よかったな」
彼は手元の書類に視線を落としたまま返事した。
「15台、おまけに全て高機能モデルです」
そう言った瞬間、課長だけじゃなく、その場にいた全員が仕事の手を止めて僕の顔を見つめた。
驚いて当然だろう。入社してから半年間ずっと契約ゼロの僕が、1日にして15台も契約を取って来たのだから。
「すごいじゃないかっ、野々原。どうしたんだ?」
いつも怒鳴りつけてくる彼が僕の肩をパシパシと叩いた。
「いやぁ、お前ならやればできると思ったんだ」
「はあ、契約が取れた会社の名前は美……」
「ああ、会社名なんてどうでもいい。どんな会社だって契約取れればこっちのもんだからな。ほら、さっさと事務処理しろ」
僕は急いで机に向かった。21時からさっきの社長との約束があるし。
***
藤崎社長に指定された都内屈指の高級ホテルへ向かった。
借金苦のため、4畳半一間のボロアパートで質素に暮らしている僕にとって、こんな豪華な場所は場違いでなんだか落ち着かない。キョロキョロしているとラウンジに社長の姿を見つけた。
「藤崎社長、お待たせして申し訳ありません」
「ううん、俺も今来たところだよ。じゃあ行こうか」
てっきりホテルのカフェで話をするのかと思ったのに、社長は僕を連れてエレベーターで上の階へ向かった。新製品のテスターをしてほしいということだったけど、もしかして上の階のバーへ行くのだろうか。そう思っていたのに、連れてこられたのはなぜか客室だった。
「誰もいない静かな場所がよかったから、部屋を取っておいたんだ」
戸惑う僕に彼はなんてことないというふうにそう言った。
新製品のテスターのためにこんな高級ホテルの部屋を予約するなんて、やっぱり会社の社長となるとやることが違うんだなと僕は思った。
窓の向こうのキラキラと輝く都内の夜景が広がっていた。
「この部屋、なかなかいいでしょ? まず君の初めての契約を記念して何か飲もうか。シャンパンでいい?」
彼は冷蔵庫を開けてボトルを取り出した。
「え、あ、はいっ」
針金を緩めてポンと栓を開け、シュワシュワと気泡の弾ける淡い色の液体をグラスに注ぎ、僕に差し出した。
「契約、おめでとう。乾杯」
「あ、ありがとうございます、おかげさまですっ」
そう言えば、藤崎社長の会社、美麗クリエイションってどんなものを作っている会社で、僕は何のテスターをするんだろう。ここへ来るまでに調べておこうと思っていたのに、初めて契約が取れてバタバタしていたせいですっかり忘れてしまっていた。
「ところで、僕がテスターする新製品ってどんなものですか?」
藤崎社長は高級ブランドのビジネスバッグを開けた。
「じゃーん。これだよ」
にっこり笑った彼が差し出したのはピンク色のプラスチック製品だった。T字型の長い部分が場所により細くなったり太くなったりしていて緩やかにくねっている。
これは何に使うものだろうか? おしゃれなオブジェ? もしくはツボ押しアイテムだろうか?
「えっと……これって……?」
「大丈夫、俺に任せて。新製品だから使い方を教えてあげる」
17
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる