69 / 69
第十三章 真相(朋美side)
68.証拠の品(最終話)
しおりを挟む
「証拠はそれだけじゃありません。瀬戸さんがよく爪につけているネイルアートで使うストーンが封筒の中に入っていました。このサロンで爪にネイルアートを施しているのは瀬戸さんだけですから」
蓮くんは封筒からキラっと光る小さな粒を取り出して瀬戸さんに見せた。
「……うっうそ、……私としたことがっ!」
みるみるうちに真っ青になった顔で瀬戸さんは唇を噛んだ。
「社長が野村みわばっかり、えこひいきするのが悪いのよ! どうしてこんな地味な女を店長に選んだの!? 華のある私の方がいいに決まってるのに!」
彼女は叫びながらドシドシと地団駄を踏み、次に私を指さした。
「世の中、不平等よ! あなただって社長夫人だからって調子乗って、普通の主婦のくせにインフルエンサーとして世間から評価されて、レシピ本まで出してちやほやされて……、子供まで生まれて……。なんで一生懸命頑張っていて才能もある私は誰からも認められないのよ、おかしいじゃない! どうして私だけ評価されないの? 何もないの!?」
ああ、この人があの手紙を送った理由は、自分より評価されているみわさんへの嫉妬と、自分を評価しない社長への腹いせ、そして私への八つ当たりだったのか、と理解した。
「私は野村みわより、社長の奥さんより、美人で優秀だっていうのに、どうして私だけ人生上手くいかないの……!? そんなのおかしい!」
蓮くんはカモミール製油と書かれた小瓶を瀬戸さんに見せた。
「瀬戸さんのロッカーに入っていたみたいだけど、もしかしてこれをまた野村さんの飲み物などに混入させようとしていたんじゃないですか?」
瀬戸さんは苦虫を嚙み潰したような表情をした。
「そうよ! 数年前に別のサロンで同僚だったときも彼女の飲み物や彼女の使うオイルにたっぷりとカモミール製油を入れてやったんだから」
「な、なんてことを……。私の流産は仕組まれたものだったの? せっかく授かった赤ちゃんを流産して、私と夫がどれほど傷ついたか……」
みわさんは口元を覆った。
カモミールは特に妊娠初期に摂取すると流産の危険性があると言われているのだ。
「フン! ここまで話したから言うけど、あんたのSNSにアンチコメントをしていたのも私よ!」
瀬戸さんは私を睨みつけ、吐き捨てるように言った。
「えっ……、でもあれは裏掲示板で男性に雇われていた人だってダイレクトメールが……」
「それも私がテキトウに考えて送ったの。もしかして社長から私がアンチの正体だって疑われているんじゃないかと思って。そんなことでクビになったら割に合わないから裏で手を引く人間がいるかのように装ったのよ。奥さんにストーカーがいるって話は社長から聞いていたから」
瀬戸さんは開き直ったようにそう言った。
そして、
「辞めてやるわ、こんなサロン」
と事務室を出て行こうとした。
「待って。瀬戸さん」
私はドアを開けようとした彼女の後姿に声をかけた。
「結婚したから、子供を産んだから、出世したから、有名になったから、だから幸せってことは何一つないわっ! 世の中のものは全て対価交換なのよ、チャンスを掴んでいる人はそれと同じだけの苦労をしているわ。えこひいきやラッキーなんかで幸せになれることなんてないから、誤解しないで」
「……何よ、偉そうにっ!」
瀬戸さんは私を睨みつけて出て行った。
***
蓮くんの車で一緒に帰宅する途中、私は彼に話しかけた。
「あのストーンが役立ってよかったわ」
実は手紙の封筒の中にネイルアートで使うストーンが入っていたのは嘘だった。手紙に香水の匂いがついていたのは本当だったが、それだけで瀬戸さんを問い詰めるのは不可能だと判断した蓮くんが、ネイルアートが好きな友達からオーソドックスなクリアのクリスタルカットの小さなストーンを借りてきてほしいと私に言ったのだ。
私はすぐに加奈子に連絡して事の次第を話してストーンを借りた。
だからあのとき瀬戸さんに見せたストーンは瀬戸さんのものではなく加奈子のものなのに、犯人だとバレかかっていて焦っていた彼女は自分のものだとすんなり認めてしまったのだ。
蓮くんの不倫疑惑は瀬戸さんの作り話だったとわかり、私はとても安心した。
私は大好きな蓮くんなしでは生きていけないから……。
私は彼に自分の本音を語った。
「浮気を疑ったりしてごめんなさい、よく考えれば蓮くんがそんな人じゃないってわかったはずなのに……」
「あんな手紙と写真が来たら疑って当然です。疑われるような行動をしていた僕も悪いですし。そうだ、この際ですし、僕に対して不思議に思っていることがあったら、なんでも聞いてください」
赤信号で車を止めた彼はちらっと私の顔を見た。
「大したことじゃないけど、蓮くんは私が妊娠してからますます体を鍛えていたじゃない……? 筋トレしたりプロテインを飲んだりして。それってどうして?」
そのことが私にとって浮気を疑わせた一因であった。
「ふふ、そんなの決まっているじゃないですか。朋美さんにとって、生まれてくる娘にとって、格好いいパパでありたいと思ったからです」
照れくさそうに微笑みながら即答した彼に、私はキュンと胸がときめいて、顔を熱くした。
ふふ、と微笑んだ彼が助手席の私にちゅっと優しいキスをした。
おわり
蓮くんは封筒からキラっと光る小さな粒を取り出して瀬戸さんに見せた。
「……うっうそ、……私としたことがっ!」
みるみるうちに真っ青になった顔で瀬戸さんは唇を噛んだ。
「社長が野村みわばっかり、えこひいきするのが悪いのよ! どうしてこんな地味な女を店長に選んだの!? 華のある私の方がいいに決まってるのに!」
彼女は叫びながらドシドシと地団駄を踏み、次に私を指さした。
「世の中、不平等よ! あなただって社長夫人だからって調子乗って、普通の主婦のくせにインフルエンサーとして世間から評価されて、レシピ本まで出してちやほやされて……、子供まで生まれて……。なんで一生懸命頑張っていて才能もある私は誰からも認められないのよ、おかしいじゃない! どうして私だけ評価されないの? 何もないの!?」
ああ、この人があの手紙を送った理由は、自分より評価されているみわさんへの嫉妬と、自分を評価しない社長への腹いせ、そして私への八つ当たりだったのか、と理解した。
「私は野村みわより、社長の奥さんより、美人で優秀だっていうのに、どうして私だけ人生上手くいかないの……!? そんなのおかしい!」
蓮くんはカモミール製油と書かれた小瓶を瀬戸さんに見せた。
「瀬戸さんのロッカーに入っていたみたいだけど、もしかしてこれをまた野村さんの飲み物などに混入させようとしていたんじゃないですか?」
瀬戸さんは苦虫を嚙み潰したような表情をした。
「そうよ! 数年前に別のサロンで同僚だったときも彼女の飲み物や彼女の使うオイルにたっぷりとカモミール製油を入れてやったんだから」
「な、なんてことを……。私の流産は仕組まれたものだったの? せっかく授かった赤ちゃんを流産して、私と夫がどれほど傷ついたか……」
みわさんは口元を覆った。
カモミールは特に妊娠初期に摂取すると流産の危険性があると言われているのだ。
「フン! ここまで話したから言うけど、あんたのSNSにアンチコメントをしていたのも私よ!」
瀬戸さんは私を睨みつけ、吐き捨てるように言った。
「えっ……、でもあれは裏掲示板で男性に雇われていた人だってダイレクトメールが……」
「それも私がテキトウに考えて送ったの。もしかして社長から私がアンチの正体だって疑われているんじゃないかと思って。そんなことでクビになったら割に合わないから裏で手を引く人間がいるかのように装ったのよ。奥さんにストーカーがいるって話は社長から聞いていたから」
瀬戸さんは開き直ったようにそう言った。
そして、
「辞めてやるわ、こんなサロン」
と事務室を出て行こうとした。
「待って。瀬戸さん」
私はドアを開けようとした彼女の後姿に声をかけた。
「結婚したから、子供を産んだから、出世したから、有名になったから、だから幸せってことは何一つないわっ! 世の中のものは全て対価交換なのよ、チャンスを掴んでいる人はそれと同じだけの苦労をしているわ。えこひいきやラッキーなんかで幸せになれることなんてないから、誤解しないで」
「……何よ、偉そうにっ!」
瀬戸さんは私を睨みつけて出て行った。
***
蓮くんの車で一緒に帰宅する途中、私は彼に話しかけた。
「あのストーンが役立ってよかったわ」
実は手紙の封筒の中にネイルアートで使うストーンが入っていたのは嘘だった。手紙に香水の匂いがついていたのは本当だったが、それだけで瀬戸さんを問い詰めるのは不可能だと判断した蓮くんが、ネイルアートが好きな友達からオーソドックスなクリアのクリスタルカットの小さなストーンを借りてきてほしいと私に言ったのだ。
私はすぐに加奈子に連絡して事の次第を話してストーンを借りた。
だからあのとき瀬戸さんに見せたストーンは瀬戸さんのものではなく加奈子のものなのに、犯人だとバレかかっていて焦っていた彼女は自分のものだとすんなり認めてしまったのだ。
蓮くんの不倫疑惑は瀬戸さんの作り話だったとわかり、私はとても安心した。
私は大好きな蓮くんなしでは生きていけないから……。
私は彼に自分の本音を語った。
「浮気を疑ったりしてごめんなさい、よく考えれば蓮くんがそんな人じゃないってわかったはずなのに……」
「あんな手紙と写真が来たら疑って当然です。疑われるような行動をしていた僕も悪いですし。そうだ、この際ですし、僕に対して不思議に思っていることがあったら、なんでも聞いてください」
赤信号で車を止めた彼はちらっと私の顔を見た。
「大したことじゃないけど、蓮くんは私が妊娠してからますます体を鍛えていたじゃない……? 筋トレしたりプロテインを飲んだりして。それってどうして?」
そのことが私にとって浮気を疑わせた一因であった。
「ふふ、そんなの決まっているじゃないですか。朋美さんにとって、生まれてくる娘にとって、格好いいパパでありたいと思ったからです」
照れくさそうに微笑みながら即答した彼に、私はキュンと胸がときめいて、顔を熱くした。
ふふ、と微笑んだ彼が助手席の私にちゅっと優しいキスをした。
おわり
12
お気に入りに追加
234
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる