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第十三章 真相(朋美side)

68.証拠の品(最終話)

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「証拠はそれだけじゃありません。瀬戸さんがよく爪につけているネイルアートで使うストーンが封筒の中に入っていました。このサロンで爪にネイルアートを施しているのは瀬戸さんだけですから」
 蓮くんは封筒からキラっと光る小さな粒を取り出して瀬戸さんに見せた。

「……うっうそ、……私としたことがっ!」
 みるみるうちに真っ青になった顔で瀬戸さんは唇を噛んだ。
「社長が野村みわばっかり、えこひいきするのが悪いのよ! どうしてこんな地味な女を店長に選んだの!? 華のある私の方がいいに決まってるのに!」

 彼女は叫びながらドシドシと地団駄を踏み、次に私を指さした。
「世の中、不平等よ! あなただって社長夫人だからって調子乗って、普通の主婦のくせにインフルエンサーとして世間から評価されて、レシピ本まで出してちやほやされて……、子供まで生まれて……。なんで一生懸命頑張っていて才能もある私は誰からも認められないのよ、おかしいじゃない! どうして私だけ評価されないの? 何もないの!?」

 ああ、この人があの手紙を送った理由は、自分より評価されているみわさんへの嫉妬と、自分を評価しない社長への腹いせ、そして私への八つ当たりだったのか、と理解した。

「私は野村みわより、社長の奥さんより、美人で優秀だっていうのに、どうして私だけ人生上手くいかないの……!? そんなのおかしい!」

 蓮くんはカモミール製油と書かれた小瓶を瀬戸さんに見せた。
「瀬戸さんのロッカーに入っていたみたいだけど、もしかしてこれをまた野村さんの飲み物などに混入させようとしていたんじゃないですか?」
 瀬戸さんは苦虫を嚙み潰したような表情をした。
「そうよ! 数年前に別のサロンで同僚だったときも彼女の飲み物や彼女の使うオイルにたっぷりとカモミール製油を入れてやったんだから」

「な、なんてことを……。私の流産は仕組まれたものだったの? せっかく授かった赤ちゃんを流産して、私と夫がどれほど傷ついたか……」
 みわさんは口元を覆った。
 カモミールは特に妊娠初期に摂取すると流産の危険性があると言われているのだ。

「フン! ここまで話したから言うけど、あんたのSNSにアンチコメントをしていたのも私よ!」
 瀬戸さんは私を睨みつけ、吐き捨てるように言った。
「えっ……、でもあれは裏掲示板で男性に雇われていた人だってダイレクトメールが……」
「それも私がテキトウに考えて送ったの。もしかして社長から私がアンチの正体だって疑われているんじゃないかと思って。そんなことでクビになったら割に合わないから裏で手を引く人間がいるかのように装ったのよ。奥さんにストーカーがいるって話は社長から聞いていたから」
 瀬戸さんは開き直ったようにそう言った。

 そして、
「辞めてやるわ、こんなサロン」
 と事務室を出て行こうとした。
「待って。瀬戸さん」
 私はドアを開けようとした彼女の後姿に声をかけた。

「結婚したから、子供を産んだから、出世したから、有名になったから、だから幸せってことは何一つないわっ! 世の中のものは全て対価交換なのよ、チャンスを掴んでいる人はそれと同じだけの苦労をしているわ。えこひいきやラッキーなんかで幸せになれることなんてないから、誤解しないで」

「……何よ、偉そうにっ!」
 瀬戸さんは私を睨みつけて出て行った。


***


 蓮くんの車で一緒に帰宅する途中、私は彼に話しかけた。
「あのストーンが役立ってよかったわ」

 実は手紙の封筒の中にネイルアートで使うストーンが入っていたのは嘘だった。手紙に香水の匂いがついていたのは本当だったが、それだけで瀬戸さんを問い詰めるのは不可能だと判断した蓮くんが、ネイルアートが好きな友達からオーソドックスなクリアのクリスタルカットの小さなストーンを借りてきてほしいと私に言ったのだ。
 私はすぐに加奈子に連絡して事の次第を話してストーンを借りた。

 だからあのとき瀬戸さんに見せたストーンは瀬戸さんのものではなく加奈子のものなのに、犯人だとバレかかっていて焦っていた彼女は自分のものだとすんなり認めてしまったのだ。

 蓮くんの不倫疑惑は瀬戸さんの作り話だったとわかり、私はとても安心した。
 私は大好きな蓮くんなしでは生きていけないから……。

 私は彼に自分の本音を語った。
「浮気を疑ったりしてごめんなさい、よく考えれば蓮くんがそんな人じゃないってわかったはずなのに……」
「あんな手紙と写真が来たら疑って当然です。疑われるような行動をしていた僕も悪いですし。そうだ、この際ですし、僕に対して不思議に思っていることがあったら、なんでも聞いてください」
 赤信号で車を止めた彼はちらっと私の顔を見た。

「大したことじゃないけど、蓮くんは私が妊娠してからますます体を鍛えていたじゃない……? 筋トレしたりプロテインを飲んだりして。それってどうして?」
 そのことが私にとって浮気を疑わせた一因であった。

「ふふ、そんなの決まっているじゃないですか。朋美さんにとって、生まれてくる娘にとって、格好いいパパでありたいと思ったからです」
 照れくさそうに微笑みながら即答した彼に、私はキュンと胸がときめいて、顔を熱くした。
 ふふ、と微笑んだ彼が助手席の私にちゅっと優しいキスをした。

 おわり
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