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第十三章 真相(朋美side)

66.不倫相手

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 産婦人科で産後一ヶ月の健診を終えた私は、すうすう眠っている小さな娘のモエを抱えて待合室のソファーへ座っていた。

 本当は蓮くんも一緒に来るはずだったのに、今朝になって急に仕事に行かなければならなくなってしまったと言って出かけて行った。
 とはいえ、いつも進んで家事や育児をやってくれる彼には感謝しかない。だから今日一緒に来られなくても、そんな日もある、彼は経営者で忙しいのだから、と私の中でちゃんと割り切ることができる。

「小宮朋美さん」
 受付のスタッフに名前を呼ばれて会計を済ませると、後ろから一人の女性が声をかけてきた。
「……あの、すみません」
 振り返ると、眼鏡をかけたすらりと細い女性が立っていた。

 あれ、誰だったかな……? なんだか見たことあるような、ないような……。
 私と同年代か少し若そうなその女性は私にニコッと微笑んでいる。

「小宮社長の奥さんですよね……?」
「えっ……、ええ、そうですが……」
 蓮くんの仕事関係の人か、と私もとっさに作り笑顔を浮かべた。
「急にお声がけして、すみません。私、野村みわって言います」
 彼女は人懐っこい顔でにっこり笑った。

 の、野村みわ、さん……!?
 どこかで見たことがある気がしたわけだ。あの不倫疑惑の写真の女性じゃないか!
 写真では下ろしていたサラサラの長い髪を、今は後ろでひっつめにして眼鏡をかけているからわからなかった。
 切迫早産の一件以来、私は努めてあの手紙と写真のことを考えないようにしていたのだ。今の私に一番大事なのは娘のモエなのだから……。

「えっとっ……」
 私はぎょっとしながら、眠っているモエを抱く腕に力を込めた。
 彼女はぺたんこなお腹に手を当てている。
 産婦人科にいるってことは、まさか彼女も子供を身ごもっているのだろうか……。それって、まさか蓮くんの子!?
 私は軽いめまいを感じた。

「私のことなんて、わからないですよね。私、社長から奥さんの話をよく聞いているし、奥さんのSNSのレシピの投稿もいつも欠かさずチェックしているので、一方的に身近な方だと錯覚してしまって……、ふふ、失礼しました」
 申し訳なさそうにいう彼女から敵意や嫌味は一切感じない。それどころか礼儀正しさのにじみ出るとても感じのいい彼女に私は好感さえ抱いた。
 ……なぜだかわからないけど、彼女はきっと蓮くんの不倫相手なんかじゃない気がしてならない。

 彼女の白い指先に目をやると、左手の薬指に指輪が光っていた。彼女は既婚者……?
 眠っているモエへ優しい眼差しを向け、「ふふ、可愛い……」と彼女は呟いていた。

「野村さんって……、えっと、確か店長さんですよね?」
「はいっ、そうです! でも、私を信用して新店舗の店長を任せてもらっていたのに、オープンして一年も経たないうちに妊娠して、社長には迷惑かけてしまって……。長年、子供を望んでいてやっとできた待望の赤ちゃんなので、うちの旦那は大喜びなんですけどね」
 彼女は眉尻を下げ、困った顔をした。

「社長が私の代わりに責任者として店に出ないといけなくなって、妊娠中だった奥さんにも迷惑かけちゃって、すみません」
 これって、どういうこと?
 みわさんは既婚者で旦那さんとの子を妊娠しているの?

「もしかして野村さんって、何ヶ月か前、蓮くん……いえ、うちの主人に、仕事帰りに車で送ってもらったことってないかしら?」
「ええ、あります。……つわりがひどくて、社長に車で送っていただいたんです。……いつもお世話になっているので、私、奥さんに一言お礼が言いたくて、今お声がけさせてもらったんです。今日だって私がどうしても病院へ行かなければならなくなった都合で社長が代わりに仕事をしてくれていて……」
 なんとなく見えてきた。どうやら私と加奈子が予想していた展開とは違うみたいだ……。
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