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第十二章 臨月から出産(蓮side)
63.外出の理由
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朋美さんのお腹もだいぶ大きいというのに、ここのところ僕の外出が多くなってしまっていたのは、新店舗の店長を任せている野村さんが妊娠したからだった。
いつも元気な野村さんがどうも体調がすぐれない様子だったので僕が心配で声をかけると、彼女は妊娠の事実を僕に打ち明けた。
以前から旦那さんと不妊治療をしていると聞いてきたから、僕はまずおめでとうと伝え、体調が悪かったら遠慮せず休んでと言った。
彼女はハキハキした明るい人で責任感が強いから、
「まだ産休じゃないし、つわりなんかで休むのは申し訳ない」
と言っていたが、朋美さんのつわりの大変さをそばで見ていた僕としては野村さんに無理して働いてほしくはなかったのだ。
数年前に一度流産している野村さんは妊娠をすぐに職場のスタッフたちに知らせるのを躊躇っているようだった。
妊娠初期は流産のリスクも高いみたいだから、彼女の気持ちを汲んで、
「安定期に入るまではサロンのスタッフたちに妊娠したことを言わなくてもいいと思います」
と僕は提案した。
色々なことを考えて悩んでいたのだろう、彼女は心底安堵した顔をした。
「気分が悪いときは僕が代わりに店長の仕事をするので、僕に直接連絡して有休を取ってくださいね。遠慮はしないで」
「すみません、社長の奥さんも妊娠中で大変なときに……」
「ふふ、大丈夫ですよ。最近は妻の体調もいいので」
野村さんは僕がそう言ってもほとんど休まず頑張ってくれていたけど、それでもどうしてもつらいときは早退するようになった。
ある夜、サロンの営業が終わった後、野村さんの代わりに事務室で売り上げの集計作業をしていた僕の元へ、店のスタッフである瀬戸さんがやって来た。
「あれ、社長がこんな時間までいるなんて……。それ、店長の仕事じゃないですか?」
「お疲れさまです、瀬戸さん」
野村さんと同い年でマッサージ師としてのキャリアもほぼ互角である瀬戸さんはちょっとプライドの高い人で、前々から僕が新店舗の店長に瀬戸さんではなく野村さんを選んだことを面白くないと思っているような節があった。
「もしかして店長また早退したんですか? 社長、店長ってなんか最近変じゃないですか?」
瀬戸さんは僕を問い詰めるように尋ねた。
派手な彼女からはきつい香水の匂いがした。マッサージオイルの匂いと混ざって不快に思うお客さんもいるから香水はつけないよう店の規則にも書かれているのに彼女はそれを守っていない。爪も短く切るように書いてあるのに、何度言っても長いままだ。
瀬戸さんはいつでも自分が正しいと思っていて、他人の意見を聞き入れないところがある。
「変って何がですか? ……瀬戸さんは店長に何か用事があったんですかね? 僕で良ければ代わりに聞きますよ」
僕はにこっと瀬戸さんに微笑みかけた。
「別に用はないけど、なんか最近、店長サボりがちだなーって思って。こっちは毎日仕事頑張ってるのにちょっと不公平かなーって」
瀬戸さんは疑いの眼差しを僕へ向けた。
彼女が陰で頻繁に「社長がまた野村さんをえこひいきしてるー」と言っているのは、僕もだいぶ前から把握している。瀬戸さんは愚痴っぽい。それと対照的に野村さんは誰かの悪口や仕事への文句など絶対に言わない人なんだけど。
「瀬戸さんも自分の有休は自由に取ってもらって大丈夫ですからね」
とは言っても、周囲のことを考えない瀬戸さんは有休なんてすぐに使ってしまって、もうほとんど残ってないみたいだけど。
身勝手な彼女のせいで店長の野村さんがどれほど苦労してきたか。
「言われなくても自由に使ってまーす」
口を尖らせながら彼女は事務室を出て行った。
いつも元気な野村さんがどうも体調がすぐれない様子だったので僕が心配で声をかけると、彼女は妊娠の事実を僕に打ち明けた。
以前から旦那さんと不妊治療をしていると聞いてきたから、僕はまずおめでとうと伝え、体調が悪かったら遠慮せず休んでと言った。
彼女はハキハキした明るい人で責任感が強いから、
「まだ産休じゃないし、つわりなんかで休むのは申し訳ない」
と言っていたが、朋美さんのつわりの大変さをそばで見ていた僕としては野村さんに無理して働いてほしくはなかったのだ。
数年前に一度流産している野村さんは妊娠をすぐに職場のスタッフたちに知らせるのを躊躇っているようだった。
妊娠初期は流産のリスクも高いみたいだから、彼女の気持ちを汲んで、
「安定期に入るまではサロンのスタッフたちに妊娠したことを言わなくてもいいと思います」
と僕は提案した。
色々なことを考えて悩んでいたのだろう、彼女は心底安堵した顔をした。
「気分が悪いときは僕が代わりに店長の仕事をするので、僕に直接連絡して有休を取ってくださいね。遠慮はしないで」
「すみません、社長の奥さんも妊娠中で大変なときに……」
「ふふ、大丈夫ですよ。最近は妻の体調もいいので」
野村さんは僕がそう言ってもほとんど休まず頑張ってくれていたけど、それでもどうしてもつらいときは早退するようになった。
ある夜、サロンの営業が終わった後、野村さんの代わりに事務室で売り上げの集計作業をしていた僕の元へ、店のスタッフである瀬戸さんがやって来た。
「あれ、社長がこんな時間までいるなんて……。それ、店長の仕事じゃないですか?」
「お疲れさまです、瀬戸さん」
野村さんと同い年でマッサージ師としてのキャリアもほぼ互角である瀬戸さんはちょっとプライドの高い人で、前々から僕が新店舗の店長に瀬戸さんではなく野村さんを選んだことを面白くないと思っているような節があった。
「もしかして店長また早退したんですか? 社長、店長ってなんか最近変じゃないですか?」
瀬戸さんは僕を問い詰めるように尋ねた。
派手な彼女からはきつい香水の匂いがした。マッサージオイルの匂いと混ざって不快に思うお客さんもいるから香水はつけないよう店の規則にも書かれているのに彼女はそれを守っていない。爪も短く切るように書いてあるのに、何度言っても長いままだ。
瀬戸さんはいつでも自分が正しいと思っていて、他人の意見を聞き入れないところがある。
「変って何がですか? ……瀬戸さんは店長に何か用事があったんですかね? 僕で良ければ代わりに聞きますよ」
僕はにこっと瀬戸さんに微笑みかけた。
「別に用はないけど、なんか最近、店長サボりがちだなーって思って。こっちは毎日仕事頑張ってるのにちょっと不公平かなーって」
瀬戸さんは疑いの眼差しを僕へ向けた。
彼女が陰で頻繁に「社長がまた野村さんをえこひいきしてるー」と言っているのは、僕もだいぶ前から把握している。瀬戸さんは愚痴っぽい。それと対照的に野村さんは誰かの悪口や仕事への文句など絶対に言わない人なんだけど。
「瀬戸さんも自分の有休は自由に取ってもらって大丈夫ですからね」
とは言っても、周囲のことを考えない瀬戸さんは有休なんてすぐに使ってしまって、もうほとんど残ってないみたいだけど。
身勝手な彼女のせいで店長の野村さんがどれほど苦労してきたか。
「言われなくても自由に使ってまーす」
口を尖らせながら彼女は事務室を出て行った。
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