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第十章 タイムリミット3年の妊活(蓮side)
56.懐妊
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スーパーで食材を買って帰宅した。具合の悪い朋美さんが食べやすいように夕食のメニューは野菜たっぷりのミネストローネとブロッコリーのリゾットにすることにした。
自宅マンションの玄関ドアを開けると、慌てた様子で朋美さんが、
「蓮くん、大変なの!」
と言ってリビングから廊下へ出てきた。普段とてもおっとりしている彼女が、こんなに声を荒げるなんて珍しい。
手にした細長いものを僕に見せた。一瞬体温計かと思ったそれは、妊娠検査薬だった。
「見て、とうとう妊娠したの! 信じられないわっ!」
彼女は嬉しさのあまり涙ぐんでいた。
僕だって嬉しい。今からなら、祖父が言っていた「3年以内」のタイムリミットにも間に合う。
これを機に彼女にその祖父の件を話して喜びを分かち合おうか、とも思ったが、妊娠初期って6~7人に1人の確率で流産するってネットの記事に書いてあったのを思い出した。
油断はできないんだ。祖父が病気だと伝えれば、彼女が万が一流産したときに落ち込んでしまうだろう。
彼女の性格を考えると無事に出産が終わるまで安易に話さない方がいいだろう……。
朋美さんはしばらくの間、つわりで大変そうだった。
一日中寝込んでいるし、一日に何度もトイレで嘔吐していた。
「心配しないで。吐くものがないから胃液しか出ないの」
僕が背中をさすると彼女はそう言って青白い顔で笑った。
「何か少しでも食べた方がいいです」
妊娠すると酸っぱいものが食べたくなるってよく聞くから、梅干しとかレモンのゼリーとかを買って来たり、僕がサバの南蛮漬けを作ったりしたけど、彼女は口にしなかった。
「ごめんなさい、魚は大好きだけど、今はとても食べたいと思えなくて……。せっか作ってくれたのに……」
「気にしないでください。僕が後で食べますから。何か食べれそうなものがあったら、夜中でも構わず僕のこと起こして言ってくださいね」
「そんな……、悪いわ……」
「遠慮する方がよっぽど悪いです」
彼女がプリンやフライドポテトを食べたいと言えば僕はすぐに買いに行った。僕がダッシュで買って帰ってももう彼女がそれらを食べたい気持ちがなくなっていることも何度もあったけど、それでも僕は彼女の役に立ちたくて仕方がなかった。
彼女が家事をすることを禁止して極力僕がやっていたけど、
「蓮くんは仕事で疲れているんだから……。気持ちだけで嬉しいわ」
と言って、僕が帰宅する前に彼女が夕飯を作ってくれていることも多かった。
気持ちが悪いと言いベッドに横たわる彼女の背中を擦ると、
「ごめんなさい、今は触られたくないの、本当にごめんなさい」
と言われてしまうときもあった。
拒絶されたようで僕はちょっとショックだったけど、心底申し訳なさそうな顔の彼女はもっとショックなのだろう。きっと僕には想像もできない苦しさを彼女は抱えているのだ。
そうこうしている間に朋美さんは安定期に入った。
元通り、優しくておっとりした彼女に戻った。
ふっくらとしたお腹へ僕は顔を寄せ、彼女のお腹に僕の子供がいる人体の神秘に酔いしれた。
自宅マンションの玄関ドアを開けると、慌てた様子で朋美さんが、
「蓮くん、大変なの!」
と言ってリビングから廊下へ出てきた。普段とてもおっとりしている彼女が、こんなに声を荒げるなんて珍しい。
手にした細長いものを僕に見せた。一瞬体温計かと思ったそれは、妊娠検査薬だった。
「見て、とうとう妊娠したの! 信じられないわっ!」
彼女は嬉しさのあまり涙ぐんでいた。
僕だって嬉しい。今からなら、祖父が言っていた「3年以内」のタイムリミットにも間に合う。
これを機に彼女にその祖父の件を話して喜びを分かち合おうか、とも思ったが、妊娠初期って6~7人に1人の確率で流産するってネットの記事に書いてあったのを思い出した。
油断はできないんだ。祖父が病気だと伝えれば、彼女が万が一流産したときに落ち込んでしまうだろう。
彼女の性格を考えると無事に出産が終わるまで安易に話さない方がいいだろう……。
朋美さんはしばらくの間、つわりで大変そうだった。
一日中寝込んでいるし、一日に何度もトイレで嘔吐していた。
「心配しないで。吐くものがないから胃液しか出ないの」
僕が背中をさすると彼女はそう言って青白い顔で笑った。
「何か少しでも食べた方がいいです」
妊娠すると酸っぱいものが食べたくなるってよく聞くから、梅干しとかレモンのゼリーとかを買って来たり、僕がサバの南蛮漬けを作ったりしたけど、彼女は口にしなかった。
「ごめんなさい、魚は大好きだけど、今はとても食べたいと思えなくて……。せっか作ってくれたのに……」
「気にしないでください。僕が後で食べますから。何か食べれそうなものがあったら、夜中でも構わず僕のこと起こして言ってくださいね」
「そんな……、悪いわ……」
「遠慮する方がよっぽど悪いです」
彼女がプリンやフライドポテトを食べたいと言えば僕はすぐに買いに行った。僕がダッシュで買って帰ってももう彼女がそれらを食べたい気持ちがなくなっていることも何度もあったけど、それでも僕は彼女の役に立ちたくて仕方がなかった。
彼女が家事をすることを禁止して極力僕がやっていたけど、
「蓮くんは仕事で疲れているんだから……。気持ちだけで嬉しいわ」
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そうこうしている間に朋美さんは安定期に入った。
元通り、優しくておっとりした彼女に戻った。
ふっくらとしたお腹へ僕は顔を寄せ、彼女のお腹に僕の子供がいる人体の神秘に酔いしれた。
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