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第十章 タイムリミット3年の妊活(蓮side)
55.30歳の誕生日
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妊活を始めて1年近く経っても、朋美さんは妊娠しなかった。
「ごめんなさいね、蓮くんは早くパパになりたいって言ってくれているのに。私の年齢のせいかしら……?」
彼女が30歳を迎えた誕生日。自宅マンションのリビングで一緒にワインを飲んでいるとき、朋美さんはポロッとそんなことを口にした。
「そんな、謝らないでください……。挑戦し始めてまだ1年ですし、僕側の問題かもしれませんし……」
「でも蓮くんはまだ25歳だし、子供を作るのってやっぱり若いに越したことないって言うじゃない」
「年齢はあまり関係ないと思いますけど……。焦らず気長にやっていきましょうよ」
僕が微笑みかけると、彼女の硬かった表情がわずかに緩んだ。
やっぱり朋美さんに祖父の病気のことを話していなくて正解だった。話していれば今以上に責任を感じてしまっていただろうから……。
「でも正直に言うと、蓮くんも妊活、疲れてきちゃったでしょう? 私以上に色々なことを調べたり気を使ってくれたりしているの私知っているのよ」
彼女は優しい眼差しで労うように言った。
「朋美さん……」
彼女は飲みかけのワインの残ったグラスをテーブルへ置いて、口元を押さえてゆっくりと椅子から立ち上がった。
「ごめんなさい、……少ししか飲んでないのに、もう酔っちゃったみたい……」
「え、大丈夫ですか?」
「なんだか、めまいがするの……」
普段は僕よりお酒が強い彼女がどうしたのか。僕はベッドまで彼女に付き添った。
僕が子供を急かしたことが、彼女にとって精神的な負担になってしまっているだろうか……。
翌日、僕は彼女が隣で眠るベッドをそっと抜け出して仕事へ向かうために身支度を整えながら、ぼんやりと考えていた。
「ごめんなさい、すぐコーヒー淹れるからね」
壁に片手をつき、だるそうに寝室から出てこようとした朋美さんは、顔色が青白かった。
「朋美さん、寝ていてください。コーヒーは自分で淹れて勝手に飲みますから」
具合が悪いというのに起きてきてくれようとするなんて彼女は本当に優しい。やっぱり大好きだ、と僕はキュンとしながら、彼女をベッドまで連れて行き、今日一日ちゃんと寝ているよう言った。
「病院行くなら僕、仕事を切り上げて帰ってきますから電話してくださいね」
「そんな大げさな……、少し寝てればきっと治るわ」
彼女はふふっと力なく笑った。念のため体温を測ったが熱はなかった。
「夕飯は僕が早く帰ってきて作りますから、何もしちゃダメですよ」
出勤まで時間があったので洗濯機を回している間にサッと風呂掃除を済ませた。少し前まで一人暮らしだったから、家事を苦痛だなんて思わない。コーヒーを飲み、洗濯物を浴室へ干して浴室乾燥機のスイッチを押した。
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「年齢はあまり関係ないと思いますけど……。焦らず気長にやっていきましょうよ」
僕が微笑みかけると、彼女の硬かった表情がわずかに緩んだ。
やっぱり朋美さんに祖父の病気のことを話していなくて正解だった。話していれば今以上に責任を感じてしまっていただろうから……。
「でも正直に言うと、蓮くんも妊活、疲れてきちゃったでしょう? 私以上に色々なことを調べたり気を使ってくれたりしているの私知っているのよ」
彼女は優しい眼差しで労うように言った。
「朋美さん……」
彼女は飲みかけのワインの残ったグラスをテーブルへ置いて、口元を押さえてゆっくりと椅子から立ち上がった。
「ごめんなさい、……少ししか飲んでないのに、もう酔っちゃったみたい……」
「え、大丈夫ですか?」
「なんだか、めまいがするの……」
普段は僕よりお酒が強い彼女がどうしたのか。僕はベッドまで彼女に付き添った。
僕が子供を急かしたことが、彼女にとって精神的な負担になってしまっているだろうか……。
翌日、僕は彼女が隣で眠るベッドをそっと抜け出して仕事へ向かうために身支度を整えながら、ぼんやりと考えていた。
「ごめんなさい、すぐコーヒー淹れるからね」
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