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第九章 彼に釣り合う妻になりたい(朋美side)

51.彼のアドバイス

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 温かなジャグジーの浴槽の中で私は意識を取り戻した。
「気がつきましたか、朋美さん……」
 耳元で蓮くんの甘い声がして、ドキッとした。お湯の中で私の体を背後から蓮くんの太い腕が優しく包んでくれていた。
 私は彼の体へもたれかかった。彼に触れられていることがとても幸せに感じる。

「むちゃさせちゃいましたね……、最近ずっと忙しかった朋美さんにのんびりリラックスしてほしくて、今日ここへ一緒に来てもらったのですが……、結果的に本末転倒でした……」
 彼はちょっと切なそうな顔で私を見ていた。
「ふふ、十分リラックスできたわ……、私、こうやって蓮くんのそばにいられるだけでとても癒されるから……」
 こんな歯の浮くようなセリフは恥ずかしいけど、蓮くんには自分の本心を伝えたかった。彼は嬉しそうに照れ笑いし、目元をぽっと赤く染めた。

「それに忙しいのは私じゃなくて、蓮くんの方じゃない」
 新店舗オープンに向けて彼はいつもに増してここしばらく忙しく働いていたから。
「そうですね、僕ここのところ、朋美さんとの時間があまり確保できていませんでしたね……」

 そう、私たちはあのワンルームマンションの隣同士の部屋に住んでいて蓮くんのマッサージを受けていた頃の方がよっぽど今よりのんびりと過ごす時間が長かったように感じるのだ。それぐらい結婚してからお互い毎日慌ただしかった。

「そのことですが、僕はもう今あるサロンの経営と所有している不動産の家賃収入で生活しようと思っているんです。僕が欲しいのは社会的成功ではなく、朋美さんとのんびり楽しく暮らすことですから」
「えっ……」
 蓮くんはこれからも店舗数を増やして経営者としてバリバリやっていくのだろうと思っていたので、私は彼のこの考えには驚いたし、それにとても嬉しかった。
「そう、とても嬉しいわ。……じゃあ私も。せっかくインフルエンサーになれたけど、料理は蓮くんに作ってあげるのとあとは自分の趣味程度でいいかなって思っているの。もうSNSもやめて、本を出したりテレビに出たりもいいかなって。……そんなことより私も蓮くんとの生活の方が大事だから」

 驚いた顔で彼は、
「……それは朋美さんの本心ですか? もしかして、昨日言っていたSNSに心ないコメントをしてくる人たちのせいでは……?」
 と心配そうに尋ねた。
「それもあるわ。正直、もう疲れちゃって……」
「せっかく築いてきたものを辞めてしまうのはもったいないです……少しの間、お休みしてみたらどうでしょうか?」
 私の成功を誰よりも喜んでくれていた蓮くんにそう言われると頷くしかない。

 確かにほんの一部のアンチのせいでアカウントを閉鎖して、私の投稿を楽しみに見ていてくれていた人や応援してくれていた人たちをがっかりさせたくないと私も思っていた。それに何より本心では辞めたいわけじゃない。

 私は蓮くんに言われた通り一ヶ月ほどSNSへのレシピ投稿をぴたっとやめてみた。
 すると驚くようなダイレクトメールが届いた。

「あなたがレシピをパクっているとコメントを投稿した者です。実は私は裏掲示板である男性に雇われてあなたのSNSにアンチコメントを書くことで金銭的な見返りを受け取っていたのです……。個人的にはあなたがこのまま料理をするのを辞めてしまうのはもったいなく思いまして、この告白と謝罪のためこのメールをお送りしました。もうアンチ辞めますから、あなたは料理を続けてください」

 嘘でしょう、まさか、このアンチを雇った男って、淳士!?
 このメールを私はすぐに蓮くんに見せた。

「よかったですね、これでまたレシピの投稿を再開できますね」
「うん、無理しない程度、蓮くんに迷惑をかけない程度で応援してくれている人たちのためにも楽しく頑張るわ」
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