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第九章 彼に釣り合う妻になりたい(朋美side)

45.味方ばかりじゃない

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 レシピ本は想像以上によく売れた。SNSのフォロワー数もどんどん増え、私は一躍して料理系インフルエンサーの仲間入りを果たした。
 料理雑誌のインタビューを受けたり、テレビの情報番組にもゲスト出演したり、嘘みたいな出来事が続いた。

「テレビ見たよー」
 と学生時代の友達からメッセージが届いた。
 少し前に長女を出産したと連絡をくれた友達だ。
「見てくれたの? ありがとう。テレビめちゃくちゃ緊張して途中から自分でも何言ってるのかわからなくなってたよ」
「ふーん、そうなんだ? それにしてもSNS荒れてるね、大丈夫?」

 実はメディアに露出し始めてからフォロワーが一段と増えて嬉しかったのだけど、その反面、
「よそで見たレシピだけど! パクリやめろって」
 とか、
「これ美味しいと思えるって味覚音痴w」
 とか、ひどいコメントをする人も増えてしまった。
 もちろん温かいコメントやダイレクトメールをくれる人もたくさんいるけど、嬉しいコメント10件よりもたった1件のひどいコメントの方が心に残り、いつまでも頭の中でぐるぐると回ってしまうのだ。


***


「今日仕事で会った人にね、妻が料理研究家なんですって話したら、その人、朋美さんのアカウントずっとフォローしていてファンなんですって言ってましたよ」
 夕食のアクアパッツァを食べながら、蓮くんは嬉しそうにそう語った。
「そんなっ、ふふ、あんまり周りに言っちゃ恥ずかしいわ」

 蓮くんは私が有名になって鼻が高いようだったから、アンチに悩んでいるなんてことを彼に相談するのは気が引けた。
 蓮くん自身もやり手の若い経営者としてビジネス雑誌などのインタビューを度々受けているから、彼にふさわしい妻として私ももっともっと頑張らなければならない。

 彼はまだ24歳、私は29歳。一生縮まることのないこの5歳の差は仕方ないけど、私に魅力を感じなくなったら彼は私と離婚して他の女性の元へ行ってしまうんじゃないかと恐怖を感じている。
 若い実業家である上、ものすごくイケメンの彼がモテないはずないのだから……。

 SNSにレシピを投稿しなきゃ。レシピ本の第二弾用にもレシピを考えないといけないし、アパレルメーカーとコラボしたエプロンの話も進めないといけない。
 彼が仕事へ出かけて一人になったリビングで、私はエプロンをつけてキッチンに立った。

 疲れている日でもサッと作れるように工程を簡略化した酢豚なんてどうだろう。
 野菜を素揚げにして、片栗粉をまぶした肉を揚げて、甘酢あん作って絡めるのって結構な手間だから、レンジで下処理しておいた野菜と肉を焼いたらそのまま甘酢あんを絡めてワンパンで完成っていいんじゃないかな?
 野菜を切ろうとまな板を出したら、急に心がざわざわし始めた。

「……もしかして……」
 スマホでレシピを検索すると似たようなレシピがすぐに見つかった。
「うそ……」
 でもそうだよね、こんなこと誰でも思いつくことだもん。
 危なかった。また「パクリ」って言われるところだった……。
 蓮くんの仕事関係の人も見てるんだもん。もっと斬新なレシピ考えないと……。

 レシピはどんどん思いつく。でも前みたいにすぐに作って投稿することが、今の私には出来なくなってしまった。
 キッチンにいながらも、料理は進まずスマホばかり見て時間が過ぎて行った。

「どうしよう……」
 このままじゃもう何も作れない。
 私はひどく心が追い詰められて、キッチンの床でうずくまり、涙を流した。そのままキッチンの収納扉に寄りかかって眠ってしまったようだった。

 ガチャっとドアが開く音で目を覚ました。
「え、うそ、もうこんな時間……!?」
 時計を見ると夕方だった。
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