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第六章 別れたくない(蓮side)
27.会社での妙な出来事
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翌朝、ゴミ捨て場までごみを出しに行くときに彼女と通路で会った。彼女は僕の顔を見ると慌てて部屋へ戻った。
避けられた? と思ったのに彼女はまたすぐに部屋から出てきた。
「これ、もらったまま、だから……」
彼女は以前、僕があげたマッサージの無料サービスチケットを僕に返そうとしていた。
「そのチケット、最後に、使ってください」
僕は勇気を出して言った。
「え、でも……」
「僕が朋美さんをマッサージしているのは僕が壊したマッサージ器の弁償代わりですから。それを最後に完済ってことにしましょう。逆にもうマッサージ受けたくないなら僕はあの赤いハンディタイプのマッサージ器を急いでネットで探して注文して、朋美さんが引っ越すまでにお返ししないとですね」
彼女はギクッとしていた。
「いいの、もうマッサージは十分よ」
「いいえ、僕の気が済みません。本当は朋美さんの肩こりがなくなるまでやるつもりでしたから」
僕はその場で少々強引に彼女に予約する日時を決めさせた。後で店に電話してなんて言ってもきっと電話しないだろうから。
「明日は残業がない予定だから、明日の夜なら……」
「わかりました。お待ちしています。……最後のマッサージですからいつも以上に心を込めてやらせていただきます」
僕が微笑むと彼女は少し涙ぐみそうになりながら、
「わかった。よろしくね」
と言って自分の部屋へ入って行った。
やっぱり僕のことが嫌いってわけじゃないんだろう。だったらどうして僕を避けて、引っ越しまでするんだろう……? 何かわけがあるんじゃないかな……。
僕はいつもよりも早く自宅を出て仕事前に駅の反対側へ向かった。
「加奈子さんっ……」
子供を預けて保育園から出てきた保護者たちの中に茶髪のボブヘアの女性を見つけて声をかけた。
朋美さんの同僚だと言っていた女性だ。
この前僕に淳士の話をしに来てくれたときに、「子供のお迎えに行かないと」と保育園の名前を言っていたのを思い出したのだ。ネットで調べたら場所はすぐにわかった。
「あら、あなた……」
加奈子さんは僕が来たことに驚きながらも、
「ちょうどよかった。私も今日あたりあなたのところへ行こうと思っていたの」
と言った。
「何かあったんですか?」
「急に朋美が会社を辞めるって言いだしたから……」
「えっ……」
僕は朋美さんが来週にもマンションから引っ越す予定でいることを加奈子さんに話した。
「今回ばかりは私にも何も話してくれないんだけど、どうもこの頃会社の周辺で立て続けに妙なことがあったのと関係があるのかしら」
「妙なこと……?」
加奈子さんが言うにはオフィスの窓ガラスが割られたり、朋美さんと加奈子さんが所属する営業部に脅迫電話が毎日のようにかかってきたりと、嫌がらせが起きているのだという。
「もしかして誰かヤミ金からお金を借りてるんじゃないかって部長は言ってるんだけど、これって、もしかして……」
まさか淳士たちの嫌がらせなのか?
でもそうだとしたら、あのボヤ騒ぎも……?
「数日前に夜中にマンションの駐輪場で朽ち果てていた原付が放火される騒ぎがあったんですよ。実はうちのマンションって大家さんが大のたばこ嫌いで、契約時に喫煙者じゃないか確認されるんです。部屋でもベランダでも絶対にたばこを吸わないでって、しつこいほど言われましたから、たぶん住民のほとんどがたばこを吸わない人間のはずなんですけどね」
僕はそのとき野次馬の中の誰かが呟いていたたばこの銘柄を加奈子さんに言った。
「えっ、それって……!」
加奈子さんは急いでカバンからスマホを取り出し、派手なネイルを施した指先でSNSのアプリを開いて淳士の投稿画像を僕に見せた。そこにはそのたばこを手にクラブで酒を飲むあいつの写真があった。
避けられた? と思ったのに彼女はまたすぐに部屋から出てきた。
「これ、もらったまま、だから……」
彼女は以前、僕があげたマッサージの無料サービスチケットを僕に返そうとしていた。
「そのチケット、最後に、使ってください」
僕は勇気を出して言った。
「え、でも……」
「僕が朋美さんをマッサージしているのは僕が壊したマッサージ器の弁償代わりですから。それを最後に完済ってことにしましょう。逆にもうマッサージ受けたくないなら僕はあの赤いハンディタイプのマッサージ器を急いでネットで探して注文して、朋美さんが引っ越すまでにお返ししないとですね」
彼女はギクッとしていた。
「いいの、もうマッサージは十分よ」
「いいえ、僕の気が済みません。本当は朋美さんの肩こりがなくなるまでやるつもりでしたから」
僕はその場で少々強引に彼女に予約する日時を決めさせた。後で店に電話してなんて言ってもきっと電話しないだろうから。
「明日は残業がない予定だから、明日の夜なら……」
「わかりました。お待ちしています。……最後のマッサージですからいつも以上に心を込めてやらせていただきます」
僕が微笑むと彼女は少し涙ぐみそうになりながら、
「わかった。よろしくね」
と言って自分の部屋へ入って行った。
やっぱり僕のことが嫌いってわけじゃないんだろう。だったらどうして僕を避けて、引っ越しまでするんだろう……? 何かわけがあるんじゃないかな……。
僕はいつもよりも早く自宅を出て仕事前に駅の反対側へ向かった。
「加奈子さんっ……」
子供を預けて保育園から出てきた保護者たちの中に茶髪のボブヘアの女性を見つけて声をかけた。
朋美さんの同僚だと言っていた女性だ。
この前僕に淳士の話をしに来てくれたときに、「子供のお迎えに行かないと」と保育園の名前を言っていたのを思い出したのだ。ネットで調べたら場所はすぐにわかった。
「あら、あなた……」
加奈子さんは僕が来たことに驚きながらも、
「ちょうどよかった。私も今日あたりあなたのところへ行こうと思っていたの」
と言った。
「何かあったんですか?」
「急に朋美が会社を辞めるって言いだしたから……」
「えっ……」
僕は朋美さんが来週にもマンションから引っ越す予定でいることを加奈子さんに話した。
「今回ばかりは私にも何も話してくれないんだけど、どうもこの頃会社の周辺で立て続けに妙なことがあったのと関係があるのかしら」
「妙なこと……?」
加奈子さんが言うにはオフィスの窓ガラスが割られたり、朋美さんと加奈子さんが所属する営業部に脅迫電話が毎日のようにかかってきたりと、嫌がらせが起きているのだという。
「もしかして誰かヤミ金からお金を借りてるんじゃないかって部長は言ってるんだけど、これって、もしかして……」
まさか淳士たちの嫌がらせなのか?
でもそうだとしたら、あのボヤ騒ぎも……?
「数日前に夜中にマンションの駐輪場で朽ち果てていた原付が放火される騒ぎがあったんですよ。実はうちのマンションって大家さんが大のたばこ嫌いで、契約時に喫煙者じゃないか確認されるんです。部屋でもベランダでも絶対にたばこを吸わないでって、しつこいほど言われましたから、たぶん住民のほとんどがたばこを吸わない人間のはずなんですけどね」
僕はそのとき野次馬の中の誰かが呟いていたたばこの銘柄を加奈子さんに言った。
「えっ、それって……!」
加奈子さんは急いでカバンからスマホを取り出し、派手なネイルを施した指先でSNSのアプリを開いて淳士の投稿画像を僕に見せた。そこにはそのたばこを手にクラブで酒を飲むあいつの写真があった。
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