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第五章 通じ合った想い(朋美side)
17.待ち伏せ
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私が避けるような態度を取ったせいで、蓮くんを傷つけてしまったかな……?
蓮くんは何も悪くない。それどころか偶然通りかかって私を助けてくれた。そう、わかっているのに、蓮くんも“あの人”と同じ男性だと思うとなんだか怖くなってしまう。
太くて逞しい腕はきっと簡単に私を押し倒すことができるから……。
高校生の頃、“あの人”に強引に犯されそうになった瞬間の恐怖が脳裏に蘇って私はゾクッと背筋を震わせた。
いや、違う……。蓮くんはいつだって優しい。それにとても誠実な人だ。心の奥底では怖くないってわかっているけど、それでも信用して裏切られたときの方がよっぽど傷つくから、私は蓮くんと距離を置きたいんだ。
“あの人”のときだって私はきっと時間をかけてうまくやっていけるって信じていたんだから。なのに、あんなことになって……。
そう、私は男性を信じることができないんだ……。
仕事帰り、私は駅からマンションへ歩きながら悶々とそんなことを考えていた。
「トモミ……」
公園の前を通りかかったとき、背後から声をかけられた。
この声……まさか……。
振り返ると“あの人”がそこにいた。
整髪料でテカテカの黒髪と趣味の悪い金のネックレス、歩きたばこは禁止なのに平然と紙たばこをふかしている。
「待ってたよ、朋美」
ふぅーっと煙を吐いて、ニヤッと口を歪めた。
「ま、待ってただなんて……、わ、私の方には、用なんてっ……。もう二度と近づかない約束だったはずなのに……」
「はは、そんな高校生の頃の約束なんて、とっくに時効だ」
パイソン柄の靴をカツカツ鳴らして淳士が近づいてきた。
「いや、……こ、来ないでっ……」
「そんなに怯えるなよ、俺たちの仲じゃないか。……それに朋美に一ついいことを教えてあげるよ」
「……いいこと? そんなの聞きたくないわっ」
私は恐怖のあまり体が硬直して逃げることができなかった。
「聞きたくないだって? この前の生意気なガキンチョ、小宮蓮の正体をお前に教えてやろうと思ったのに……」
蓮くんの正体……?
「正体も何も、彼は私の隣人で、マッサージ師で、それだけでしょう」
「はは、朋美は相変わらず人を疑わないなぁ……」
淳士は私をバカにして笑い、ある田舎町の地名を呟いた。
それは私にとってものすごく耳馴染みのある地名だった。生まれて小学校を卒業するまでの12年を私はその地で過ごしたのだから。
「それ、私の生まれ故郷じゃない」
だから何なの? と私は思ったのだが、淳士は意外な言葉を口にした。
「お前の故郷であり、あいつの故郷でもある」
「え……?」
……何を言っているの?
「あいつ、両親が離婚する前は佐藤蓮という名だったらしいな」
佐藤蓮……? うちのすぐ近所に住んでいた、ぽっちゃりと太っていて泣き虫だった男の子の名前だ……。お隣のイケメンの蓮くんとは似ても似つかない。
「うそ……」
「嘘じゃないさ。俺はこの前の一件であの男がどうも気になって、高い金を払って優秀な探偵を雇って調べさせたんだ。あいつはお前のことが忘れられずに大人になってお前を探し出して過去を隠して近づいてきたんだ。とんだストーカー野郎だぜ」
淳士はククッと笑い、私の腕を掴んだ。
「あんな男にもう構うな。……俺のモノになれ、朋美っ!」
「い、いやっ、放してっ」
ガシッと強い力で掴まれ、私は淳士の腕を振りほどけない。
蓮くんは何も悪くない。それどころか偶然通りかかって私を助けてくれた。そう、わかっているのに、蓮くんも“あの人”と同じ男性だと思うとなんだか怖くなってしまう。
太くて逞しい腕はきっと簡単に私を押し倒すことができるから……。
高校生の頃、“あの人”に強引に犯されそうになった瞬間の恐怖が脳裏に蘇って私はゾクッと背筋を震わせた。
いや、違う……。蓮くんはいつだって優しい。それにとても誠実な人だ。心の奥底では怖くないってわかっているけど、それでも信用して裏切られたときの方がよっぽど傷つくから、私は蓮くんと距離を置きたいんだ。
“あの人”のときだって私はきっと時間をかけてうまくやっていけるって信じていたんだから。なのに、あんなことになって……。
そう、私は男性を信じることができないんだ……。
仕事帰り、私は駅からマンションへ歩きながら悶々とそんなことを考えていた。
「トモミ……」
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この声……まさか……。
振り返ると“あの人”がそこにいた。
整髪料でテカテカの黒髪と趣味の悪い金のネックレス、歩きたばこは禁止なのに平然と紙たばこをふかしている。
「待ってたよ、朋美」
ふぅーっと煙を吐いて、ニヤッと口を歪めた。
「ま、待ってただなんて……、わ、私の方には、用なんてっ……。もう二度と近づかない約束だったはずなのに……」
「はは、そんな高校生の頃の約束なんて、とっくに時効だ」
パイソン柄の靴をカツカツ鳴らして淳士が近づいてきた。
「いや、……こ、来ないでっ……」
「そんなに怯えるなよ、俺たちの仲じゃないか。……それに朋美に一ついいことを教えてあげるよ」
「……いいこと? そんなの聞きたくないわっ」
私は恐怖のあまり体が硬直して逃げることができなかった。
「聞きたくないだって? この前の生意気なガキンチョ、小宮蓮の正体をお前に教えてやろうと思ったのに……」
蓮くんの正体……?
「正体も何も、彼は私の隣人で、マッサージ師で、それだけでしょう」
「はは、朋美は相変わらず人を疑わないなぁ……」
淳士は私をバカにして笑い、ある田舎町の地名を呟いた。
それは私にとってものすごく耳馴染みのある地名だった。生まれて小学校を卒業するまでの12年を私はその地で過ごしたのだから。
「それ、私の生まれ故郷じゃない」
だから何なの? と私は思ったのだが、淳士は意外な言葉を口にした。
「お前の故郷であり、あいつの故郷でもある」
「え……?」
……何を言っているの?
「あいつ、両親が離婚する前は佐藤蓮という名だったらしいな」
佐藤蓮……? うちのすぐ近所に住んでいた、ぽっちゃりと太っていて泣き虫だった男の子の名前だ……。お隣のイケメンの蓮くんとは似ても似つかない。
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「嘘じゃないさ。俺はこの前の一件であの男がどうも気になって、高い金を払って優秀な探偵を雇って調べさせたんだ。あいつはお前のことが忘れられずに大人になってお前を探し出して過去を隠して近づいてきたんだ。とんだストーカー野郎だぜ」
淳士はククッと笑い、私の腕を掴んだ。
「あんな男にもう構うな。……俺のモノになれ、朋美っ!」
「い、いやっ、放してっ」
ガシッと強い力で掴まれ、私は淳士の腕を振りほどけない。
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