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第四章 抑えられない僕の気持ち(蓮side)

15.朋美さんの元カレ

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 あの黒い男は何者だったのだろうか……。
 まさか、彼女が男性恐怖症になったことと関係があるのか?
 朋美さんに避けられているから、聞き出すこともできないけれど。

 僕、もうこのままずっと彼女と話すことできないのかな……?
 部屋で一人、ヒザを抱えていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。

 僕がたまたま休みだった平日の午後だった。
「はい……」
 ドアを開けると見たことのない女性が立っていた。
 茶髪のボブヘアに、ピンクのチークとテカテカなグロス、マスカラでまつ毛をバサバサにしている派手な女性だった。
「……えっと、どちら様でしょうか?」
 なんとなくこのマンションの住人じゃないだろうな、と思った。

「突然すみません。朋美のお隣さんの、……蓮くん……ですか?」
「ええ。そうです」
 朋美さんの知り合いか。
「私、朋美の同僚の青山加奈子って言います。……あの、よかったらちょっと朋美のことでお話できませんか?」
 これは現状を打破するためのまたとないチャンスだ。
「もちろんです。よかったらマンションの下のカフェでお話しませんか? 何かご馳走しますよ」
「まあ、嬉しい」
 きっとこの加奈子さんという人は朋美さんに黙ってここへ来ているのだろう。だから僕は後々変な誤解を生まないために部屋に入ってもらわずにカフェで話すことを提案した。

「最近の朋美の様子、変だと思いませんか?」
 二人掛けのテーブルに向かい合って座り、飲み物を注文するなり、彼女は本題に入った。
「ええ。まあ……。アツシって人に駅前で会ってから朋美さんは何か……、ちょっと僕を避けているみたいなんですよね」
「それね、朋美の元カレなの」
「えっ!?」
 元カレ!? あんなガラの悪い男が!?
「そいつのせいで朋美は男性恐怖症になっちゃったんだから」
 やっぱり、そうなんだ……?

「私は朋美と入社以来、毎日二人でお昼食べてるから今まで何回か聞いたことあったんだけど、高校生だった朋美が初めて付き合った彼氏でね……」
 朋美さんより一歳上のその淳士という男は、高校生の頃からチャラい遊び人として校内では有名だったという。
 高校に入学してきた朋美さんを見て「一目惚れした」と猛アタックしてきて、最初は断っていたものの朋美さんも押しに弱いし、自分に好意を抱いてくれている相手を無下にできなくて、とうとう付き合ってしまったのだという。
 優しい朋美さんらしい話だな、と僕は思った。

 淳士は家に親がいない日を狙って朋美さんをしきりに自宅の部屋へ連れ込みたがっていたようだが、ガードが堅い彼女は学生らしい清い交際をしたいと考えていて、決して自宅へは行かなかったのだという。
 それで痺れを切らした淳士は他の女の子を自宅へ連れ込むようになった。そんな浮気はすぐに朋美さんの耳にも入り、学校の非常階段のところで二人は別れ話をすることになった。しかし逆上した淳士は朋美さんをその場で押し倒して、制服を脱がして強引に行為に及ぼうとした。

 偶然、近くを通りかかった淳士のクラスの担任が朋美さんの悲鳴に気づいて、それは未遂に終わった。淳士は学校へ保護者を呼ばれて先生に怒られるし、今後朋美さんに近寄らないことを誓わせられた。無事に縁を切ることはできたのだが、朋美さんの心には男性恐怖症という形で傷が残った……と加奈子さんは教えてくれた。
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