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第三章 踏み出した一歩(朋美side)
10.加奈子のアドバイス
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昼休み、私は同期入社で歳も一緒の加奈子と会社の近くの小さな公園でお弁当を食べていた。
「戻って来てくれてよかった。加奈子が休んでる間、私ずっと一人で自分の机でお弁当食べてて寂しかったんだから」
今日、私は一年半ぶりに育休から復帰した加奈子と再会した。
営業課には加奈子の他に女子社員がいないので、男性が苦手な私にとって彼女の存在は貴重なのだ。
「ふふ、私だって早く復帰したかったよ。毎日毎日、子供と家に二人っきりで気が滅入っちゃってさ。預け先がすんなり決まってよかったよ」
「え、そんなもんなの? 子供のこと心配で早く会いたいんじゃないの?」
「そりゃ子供は可愛いけどさ、子供と一緒じゃこんなふうにゆっくりご飯も食べれないんだよ」
加奈子はお弁当に詰めてきた卵焼きを口に入れ、うっとりと噛みしめた。
「……まあ、それはともかく、なんか朋美きれいになったね? もしや、しばらく会わなかった間に、彼氏でもできた?」
「えっ……」
加奈子は社内の恋愛ゴシップが大好きで、誰と誰は付き合っているとか、不倫してるんじゃないかとか、そういうことに誰よりも早く気づく。
うわ、相変わらず鋭いな、と胸をドキッとさせた私の顔を見て、彼女はニヤニヤ笑い、
「ふふ、……何があったか言いなさいよー?」
とヒジでつついた。
「実はね……」
私は観念して、隣の部屋に感じのいいイケメンのマッサージ師が引っ越してきたこと、その子の部屋にマッサージ器(さすがにアダルトグッズだったとは加奈子にも言いにくくて)が誤配されて、壊されたお詫びにマッサージを受けていることを説明した。
「わー、なにその羨ましいシチュエーションは。……ちなみに、その子って、いくつなの?」
「え、わかんないよ……。名前は蓮くんって言うんだけど……」
「何やってんのよ。マッサージ受けながら色々聞き出さなきゃ。絶好のチャンスだっていうのに」
ため息をつきながら加奈子はマイボトルのお茶を一口飲んだ。
「別に、私そういうつもりじゃ……」
「ガードが堅いあんたが素直にマッサージ受けてるってことは、その蓮くんって子は、それなりに信用できるし好感持ってるってことなんでしょ? だったら付き合う、付き合わないは別として、もう少し仲良くなってみればいいじゃない」
確かにどうしてかわからないけど、蓮くんに対して私が安心のようなものを感じているのは事実だ。
「なんて言うか、昔から知っている人みたいに話しやすいんだよね」
「ははーん、彼は運命の人だって言いたいんだ?」
加奈子はにやにやして私をからかった。
「べ、別にそうじゃないけどっ! なんか私の全てを受け入れてくれるって感じで。私が男性恐怖症だって言ったら、じゃあそれも克服しましょうって……」
「え、めちゃめちゃいい子じゃん」
「でもね……、オイルマッサージだからって理由で、ブラ脱がされて胸見られたし、体触られるんだけど……それって普通かな?」
「マッサージだから当然じゃない? 私、新婚旅行でバリ行ったときエステ受けたけど、普通に胸丸出しに小さい紙パンツだけだったよ。エステだからスタッフは女性だったけど。……なに? 朋美まさかそんなの気にしてたの?」
私は飲んでいたお茶を咽た。結婚して子供までいる加奈子にとっては私の悩みはあまりにちっぽけなことだったのかもしれない。
「そ、そうだよね、蓮くんは何とも思ってなさそうなんだよね。私ばっかりドキドキしてるみたいで……」
ここ数日、ずっと思い悩んでいたことを私は加奈子に打ち明けた。
「まあ相手はプロだから。いちいち興奮してたら仕事にならないだろうからね。一日何人もの人をそうやってマッサージしてるわけだし」
「……そうだよね」
自分のこと特別だって勘違いしていたのが恥ずかしい。
「ねぇ、いつもマッサージしてもらってるからそのお礼って言ってさ、ご飯作ってあげなよ。朋美は料理上手なんだし」
「えっ! 無理、無理」
自分の部屋に蓮くんを招くなんて、私にはできない。
「だめ。これは今週中のノルマね!」
加奈子は冗談半分でそう言い、公園のベンチから立ち上がった。
「えぇーっ、そんなこと言ったって……、蓮くんの好き嫌いもわからないから、何作ればいいのかもわからないし」
私はお弁当と水筒を小さな手提げへ詰め込み、加奈子を追いかけた。
「あたしが決めるよ。メニューはねぇ、ハンバーグ」
「え、ハンバーグ? 嫌いかもしれないし……」
「そうかな? 年寄りならともかく、二十代前半の男の子となると大体ハンバーグ好きだよ。しかも前に朋美の部屋へ行ったときに作ってくれたハンバーグ、お店のみたいに美味しかったし」
「そ、そう?」
「戻って来てくれてよかった。加奈子が休んでる間、私ずっと一人で自分の机でお弁当食べてて寂しかったんだから」
今日、私は一年半ぶりに育休から復帰した加奈子と再会した。
営業課には加奈子の他に女子社員がいないので、男性が苦手な私にとって彼女の存在は貴重なのだ。
「ふふ、私だって早く復帰したかったよ。毎日毎日、子供と家に二人っきりで気が滅入っちゃってさ。預け先がすんなり決まってよかったよ」
「え、そんなもんなの? 子供のこと心配で早く会いたいんじゃないの?」
「そりゃ子供は可愛いけどさ、子供と一緒じゃこんなふうにゆっくりご飯も食べれないんだよ」
加奈子はお弁当に詰めてきた卵焼きを口に入れ、うっとりと噛みしめた。
「……まあ、それはともかく、なんか朋美きれいになったね? もしや、しばらく会わなかった間に、彼氏でもできた?」
「えっ……」
加奈子は社内の恋愛ゴシップが大好きで、誰と誰は付き合っているとか、不倫してるんじゃないかとか、そういうことに誰よりも早く気づく。
うわ、相変わらず鋭いな、と胸をドキッとさせた私の顔を見て、彼女はニヤニヤ笑い、
「ふふ、……何があったか言いなさいよー?」
とヒジでつついた。
「実はね……」
私は観念して、隣の部屋に感じのいいイケメンのマッサージ師が引っ越してきたこと、その子の部屋にマッサージ器(さすがにアダルトグッズだったとは加奈子にも言いにくくて)が誤配されて、壊されたお詫びにマッサージを受けていることを説明した。
「わー、なにその羨ましいシチュエーションは。……ちなみに、その子って、いくつなの?」
「え、わかんないよ……。名前は蓮くんって言うんだけど……」
「何やってんのよ。マッサージ受けながら色々聞き出さなきゃ。絶好のチャンスだっていうのに」
ため息をつきながら加奈子はマイボトルのお茶を一口飲んだ。
「別に、私そういうつもりじゃ……」
「ガードが堅いあんたが素直にマッサージ受けてるってことは、その蓮くんって子は、それなりに信用できるし好感持ってるってことなんでしょ? だったら付き合う、付き合わないは別として、もう少し仲良くなってみればいいじゃない」
確かにどうしてかわからないけど、蓮くんに対して私が安心のようなものを感じているのは事実だ。
「なんて言うか、昔から知っている人みたいに話しやすいんだよね」
「ははーん、彼は運命の人だって言いたいんだ?」
加奈子はにやにやして私をからかった。
「べ、別にそうじゃないけどっ! なんか私の全てを受け入れてくれるって感じで。私が男性恐怖症だって言ったら、じゃあそれも克服しましょうって……」
「え、めちゃめちゃいい子じゃん」
「でもね……、オイルマッサージだからって理由で、ブラ脱がされて胸見られたし、体触られるんだけど……それって普通かな?」
「マッサージだから当然じゃない? 私、新婚旅行でバリ行ったときエステ受けたけど、普通に胸丸出しに小さい紙パンツだけだったよ。エステだからスタッフは女性だったけど。……なに? 朋美まさかそんなの気にしてたの?」
私は飲んでいたお茶を咽た。結婚して子供までいる加奈子にとっては私の悩みはあまりにちっぽけなことだったのかもしれない。
「そ、そうだよね、蓮くんは何とも思ってなさそうなんだよね。私ばっかりドキドキしてるみたいで……」
ここ数日、ずっと思い悩んでいたことを私は加奈子に打ち明けた。
「まあ相手はプロだから。いちいち興奮してたら仕事にならないだろうからね。一日何人もの人をそうやってマッサージしてるわけだし」
「……そうだよね」
自分のこと特別だって勘違いしていたのが恥ずかしい。
「ねぇ、いつもマッサージしてもらってるからそのお礼って言ってさ、ご飯作ってあげなよ。朋美は料理上手なんだし」
「えっ! 無理、無理」
自分の部屋に蓮くんを招くなんて、私にはできない。
「だめ。これは今週中のノルマね!」
加奈子は冗談半分でそう言い、公園のベンチから立ち上がった。
「えぇーっ、そんなこと言ったって……、蓮くんの好き嫌いもわからないから、何作ればいいのかもわからないし」
私はお弁当と水筒を小さな手提げへ詰め込み、加奈子を追いかけた。
「あたしが決めるよ。メニューはねぇ、ハンバーグ」
「え、ハンバーグ? 嫌いかもしれないし……」
「そうかな? 年寄りならともかく、二十代前半の男の子となると大体ハンバーグ好きだよ。しかも前に朋美の部屋へ行ったときに作ってくれたハンバーグ、お店のみたいに美味しかったし」
「そ、そう?」
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