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第二章 まだ明かせない僕の気持ち(蓮side)

6.僕の変貌

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 僕は寂しさのあまり食事が喉を通らなくなり、春休みの間中ずっと家でワーワー泣いて過ごした。
 そんな僕を見かねて、祖父は僕を地元の少年サッカーチームに入れた。
 僕は彼女に会えなくなった悲しみをサッカーの練習へぶつけた。

 内気だった僕の性格はサッカーが上達していくにつれ、みるみるうちに社交的に変わっていった。
 デブでどんくさくて泣き虫だった僕はあっという間に身軽で活発なスポーツ少年へ変貌した。
 女の子にもモテるようになったけど、記憶の中の朋美さんと比べてしまうと同級生の女の子はどうも幼稚で興味が湧かなかった。

 実は僕がマッサージ師になろうと思ったのも、いつか朋美さんの肩をほぐしてあげたいと思ったからだ。
 当時、小学6年生にして彼女の胸はふっくらと膨らんでいた。
 他の6年生の女の子よりも彼女は成長が早かったのだ。
 いつだったか彼女が、肩が凝ると言っていたのを僕は忘れなかった。


 僕はずっと彼女にもう一度会いたくて仕方なかった。
 3年前マッサージ師を目指して専門学校へ通っていた頃に、僕は勇気を出してSNSで彼女の本名を検索してみた。残念ながら彼女のアカウントは存在しなかったが、そんな簡単には諦められなかった。

 その年、成人式だった僕は式の後に地元の小学校の同窓会へ参加した。
 そのときに5歳上つまり彼女と同学年の兄か姉のいる人を探し、卒業アルバムを借りることに成功した。

 彼女と仲が良かった同級生の名前をSNSで片っ端から検索していったら、何人かが本名でのアカウントを持っていた。そこから同窓会や結婚式の写真へコメントしている人物のアカウントをしらみつぶしに調べて行って、とうとう朋美さんと思われる人物のアカウントを探し出したのだ。

 彼女はクマのぬいぐるみが大好きで、子供の頃に行った彼女の部屋にはテディベアがたくさん飾ってあったのだ。
 クマのぬいぐるみのプロフィール画像のそのアカウントは、ずいぶん前に投稿されたテディベアミュージアムに行ったときの写真や会社の近くで食べたランチの写真、住んでいるマンションの前にいた野良猫の写真なんかが数枚あるだけで新規の投稿はほとんどなかった。けれど、会社や住所を特定するにはそれで十分な情報量だった。

 そうして僕は彼女の住んでいる場所を突き止め、隣に引っ越してきたのだ。
 念願の再会を果たした彼女は、僕の脳内の小学六年生の頃の彼女のまま相変わらずおっとりとした美人だった。濁りのないきれいな黒目で僕を見つめ、小首を傾げたその表情に胸が熱くなった。やっぱり僕は彼女が好きだと痛感した。

 僕は高校を卒業したタイミングで両親の離婚によって当時の佐藤という名字から小宮に変わっているし、外見が昔と全然違うから、彼女は僕だと気がつかなくて当然だ。一歩間違えればストーカーだと解釈されてしまう危険性もあるから、僕が佐藤蓮だと打ち明けるタイミングは慎重に見極めなければならない。

***

 彼女の元へ届いた箱の中身、これアダルトグッズじゃん……。
 乳首とかクリトリスとか吸うやつ……。
 どうしよう大変なものを開けちゃった。これで彼女との関係が悪くなったら元も子もない。
 でも、これを僕がいかがわしくない普通のマッサージ器だと勘違いしているように装って話を進めれば、お詫びと称して彼女をマッサージする流れにできるのではないか。
 これはピンチであると同時にまたとないチャンスじゃないか。

 僕は箱の中に入っていた緩衝材をゴミ箱へ捨て、業者がずさんな梱包で送ってきたから落としただけで品物が壊れたように見せかけた。そしてアダルトグッズをタイルへ叩きつけた。パキンと音がしてローズレッド色のプラスチックの持ち手にひびが入った。
 彼女に疑われないよう入念に頭の中でセリフをリハーサルして、彼女の部屋のチャイムを押した。
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