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第十三章 現実逃避のバカンス

131.逃走

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 翌朝、日の出前の朝焼けに、水平線に近い空がオレンジ色に染まっていた。
 お灸を据えられて腫れていた胸の先へ恐る恐る指を這わせる。昨日はヒリヒリしていた乳輪や乳頭に触れても痛みや違和感がない。ルークが丹念に薬を塗り込んでくれていたおかげだろうか。

 部屋の中は薄暗いので明かりをつけて鏡の前に立つと、乳首とクリトリスがすっかり元に戻っていた。
 よかった。元々透き通るほど肌が白いせいで不自然に赤くなっていた両胸は目立って仕方がなく、外を歩くのに気が引けていたのだ。

「シュライフェ様、おはようございます」
 使用人の控室のドアが開いて、ルークが部屋に入ってきた。
「すぐに朝食の支度を……」

「いや、朝食などいい。それより早く」
 俺はルークの手を引いてコテージを出た。

 日の出前でまだ他の利用者は寝ているのだろう、辺りは静まり返っている。数棟のコテージを繋ぐ桟橋を足早に歩いて浜辺を目指した。

「一体どうしたというのです?」
 ルークは戸惑いながらも俺に手を引かれながら歩いていた。

「今日もまた島民が迎えに来て、癒しだ健康だと妙なことをさせられるだろう? その前に逃げるんだっ!」
 連日、ほとんど丸裸の格好でヨガだのお灸だのさせられて、もうこりごりだった。

「逃げるって、そんなことをして怒られないでしょうか?」
 島民たちは言うことを聞かないと全裸ではりつけにすると脅かしてくるが、ヨガやお灸をさせられ人が見ているという中で局部丸出しにしておしっこを漏らしたり潮を吹いたりと痴態を晒す方がよっぽど恥ずかしい。
「全裸ではりつけの刑なら、そっちのがマシだっ!」

 桟橋を渡り切り、浜辺へ着いた。早朝だというのに散歩や体操をしている人たちがちらほらといる。みんな前掛け一枚の格好でよくくつろいで過ごせるものだ。

 辺りはどんどん明るくなる。水平線から太陽が出始めた。よかったこれなら林へ入り込める。

 ルークの手を引いて、草木の生い茂る林の中を進んだ。岩壁にぽっかりと開いた洞窟があって、俺たちはそこへ隠れた。
「ふぅ……、ここなら見つかるまい」

 近くには滝があり、周囲の木々には南国らしい果物が実っている。水や食べ物に困ることもないだろう。

 ルークを振り返ると、照れてはにかんだような、妙な表情をしていた。
「なんだよ、その顔は?」

「いえ、私も連れてきてくださったことが嬉しくて……」

 ああ、そうか。逃げるならとっとと一人で逃げればよかったのか。ルークに言われてから気がついた。
「……別に、深い意味はないっ、使用人がいないと不便だからだっ!」
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