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15.跡取り息子
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彼の夢精を目撃した日から三日が経った。
スチュアートがお父様に言いつけかれた用事があるからと部屋を出て行って、代わりにメイドのモニカが部屋にやってきた。
私は彼女に髪を編み上げてもらいながら、
「なんでスチュアートって、いつもあんなにツンツンしているのかしらね?」
と尋ねた。
彼女は困ったように笑った。
「スチュアートさんは私たちと違い上級使用人ですから、色々と大変なのだと思います」
「兄のエドワードはおっとりしていて優しいのに、双子でもあんなにも違うなんてねぇ」
私は豪華なドレッサーの鏡越しに、スルスルと髪を編み上げる彼女の器用な指先をぼんやり見ながら言った。
「エドワードさんとスチュアートさんはローズブラッド家に代々使用人としてお仕えしてきたカフティフ家の跡取りですから」
彼らのどちらかが父親のアルフレッドの後を継いで屋敷の使用人の長である家令になるのだとモニカは教えてくれた。
二人は幼い頃から父である厳格な家令のアルフレッドより執事としての教育を徹底され、恋人を作ることも禁じられて仕事一筋に生きてきたのだという。
「使用人の間ではアルフレッドさんがもうすぐ二人のうちのどちらを後継者にするか最終決定するらしいとの噂が立っているのです」
「それでスチュアートは尚更ピリピリしているのね」
なるほど、彼はもうすぐ人生をかけて目指してきた家令が決まる大事な時期に、主人のお付きから娘の世話係に回されて焦っているのか。
これはいいことを知った、と私はふふっと笑みを浮かべた。
「ええ、エドワードさんはともかくスチュアートさんはそういうことにこだわるタイプですから」
モニカは花の飾りを私の髪へあしらいながら、
「そういえばずいぶん前に不思議な話を聞いたのです。今はもういない年寄りの庭師が、幼い頃はエドワードさんとスチュアートさんの性格が今とはまるで逆だったと言っていたんです」
「逆って……?」
「決して笑わないのがエドワードさんで、いつも朗らかなのがスチュアートさんだったと……」
それはどういうことだろう、と詳しく聞こうとした時、部屋のドアがノックされ入って来たのが他でもないスチュアートだったので、モニカはギクッと肩をすくめた。
彼女は私のヘアセットをてきぱきと仕上げると、スチュアートと交代し部屋を出て行った。
「お嬢様、お茶になさいますか?」
「そうね」
淡々と紅茶を淹れる彼の凛々しい横顔を見ていると、夢精していた先日の夜のことが嘘のようだ。
高貴なカップの取っ手を指先で持ち、香りのよい紅茶を一口飲み、
「ねえ、スチュアート」
と斜め後ろに立っている美しい姿勢の彼に話しかけた。
「はい、お嬢様」
スチュアートがお父様に言いつけかれた用事があるからと部屋を出て行って、代わりにメイドのモニカが部屋にやってきた。
私は彼女に髪を編み上げてもらいながら、
「なんでスチュアートって、いつもあんなにツンツンしているのかしらね?」
と尋ねた。
彼女は困ったように笑った。
「スチュアートさんは私たちと違い上級使用人ですから、色々と大変なのだと思います」
「兄のエドワードはおっとりしていて優しいのに、双子でもあんなにも違うなんてねぇ」
私は豪華なドレッサーの鏡越しに、スルスルと髪を編み上げる彼女の器用な指先をぼんやり見ながら言った。
「エドワードさんとスチュアートさんはローズブラッド家に代々使用人としてお仕えしてきたカフティフ家の跡取りですから」
彼らのどちらかが父親のアルフレッドの後を継いで屋敷の使用人の長である家令になるのだとモニカは教えてくれた。
二人は幼い頃から父である厳格な家令のアルフレッドより執事としての教育を徹底され、恋人を作ることも禁じられて仕事一筋に生きてきたのだという。
「使用人の間ではアルフレッドさんがもうすぐ二人のうちのどちらを後継者にするか最終決定するらしいとの噂が立っているのです」
「それでスチュアートは尚更ピリピリしているのね」
なるほど、彼はもうすぐ人生をかけて目指してきた家令が決まる大事な時期に、主人のお付きから娘の世話係に回されて焦っているのか。
これはいいことを知った、と私はふふっと笑みを浮かべた。
「ええ、エドワードさんはともかくスチュアートさんはそういうことにこだわるタイプですから」
モニカは花の飾りを私の髪へあしらいながら、
「そういえばずいぶん前に不思議な話を聞いたのです。今はもういない年寄りの庭師が、幼い頃はエドワードさんとスチュアートさんの性格が今とはまるで逆だったと言っていたんです」
「逆って……?」
「決して笑わないのがエドワードさんで、いつも朗らかなのがスチュアートさんだったと……」
それはどういうことだろう、と詳しく聞こうとした時、部屋のドアがノックされ入って来たのが他でもないスチュアートだったので、モニカはギクッと肩をすくめた。
彼女は私のヘアセットをてきぱきと仕上げると、スチュアートと交代し部屋を出て行った。
「お嬢様、お茶になさいますか?」
「そうね」
淡々と紅茶を淹れる彼の凛々しい横顔を見ていると、夢精していた先日の夜のことが嘘のようだ。
高貴なカップの取っ手を指先で持ち、香りのよい紅茶を一口飲み、
「ねえ、スチュアート」
と斜め後ろに立っている美しい姿勢の彼に話しかけた。
「はい、お嬢様」
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