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8.バラの名前

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 それから私は眉間にしわばかり寄せているスチュアートの隙を見てエドワードを誘惑したが、私がどれだけアピールしてもエドワードはのらりくらりとかわした。

 もしかしてこの世界では執事は攻略出来ないキャラクターなのか。
 そう思って私はエドワードの攻略を諦めかけていた。

 転生して数日経ち、マリアンヌとしての生活にも慣れてきたある日の午後だった。
 庭のテーブルへスチュアートに紅茶とスイーツを持ってこさせ、私はアフタヌーンティーを楽しんでいた。

 スチュアートの淹れる紅茶はとても美味しいし、庭は色とりどりのバラが咲き乱れていてとても美しい。
 贅沢なひと時にうっとりしながら私は、

「バラがきれいね、スチュアート」

 と紅茶のお代わりをカップへ注いでくれているスチュアートに話しかけた。

「はい、その通りでございますね。お嬢様はどのバラが一番お好みでございましょうか」

 彼が雑談するなんて珍しいなと思いながら、私は近くに生えていた、赤紫のふわふわとしたバラを指差した。

「そうねぇ、これなんか可愛いわね」

「そちらはオンブレ・パルフェという品種で、色調変化の美しい品種でございます」

 私は彼の勤勉さに驚いた。

 先日、彼と庭を散歩していた時に私が何気なく、

「このバラなんていう種類かしらね?」

 と言ったから、彼は庭に植わっている100種類近いバラの品種を全て調べて覚えてしまったのだという。

 私は椅子から立ち上がって、

「じゃあ、こっちのは?」

 と違う白いバラを指差した。

「そちらは香りのよい、マダム・ゾイットマンでございます」

 彼は誇らしそうに答えた。

「へー、確かにいい匂い」

 私は面白くなって彼に庭中のバラの名前を聞いて回った。

「ねえ、これは?」

「そちらは、」

 彼が答えようとした時、葉っぱの陰から大きな蜂が飛び出して来た。

「きゃあっ!」

と私は驚いて後ろによろめき、

「お嬢様!」

とスチュアートの厚い胸板に抱きとめられたのだが、その時ハイヒールのかかとで彼の足を踏みつけてしまった。

「あら、ごめんなさい!」

 すぐに足を退けて下を向く彼の顔を見た。彼は痛がっているというよりも困ったような顔をしていた。

 前世、伝説のS嬢とまで言われていた私は、この時ほんの一瞬だけ彼の瞳の奥に性的興奮の色が走ったのを見逃さなかった。

 ピカピカに磨き上げられていた彼の靴には、私に踏まれたヒールの跡がしっかりと残っているのに、彼は痛がりもせず、

「……お嬢様、お怪我はございませんか」

 と私の心配をした。

 私は自分の心に湧き上がった可能性を信じて、彼の革靴へ靴を履いたままの足を乗せて、彼と目を合わせたまま体重をかけた。

「あっ……」

 私に踏まれるのがあまりに心地がよかったのか、彼は甘い声を上げ、とろけるような表情を浮かべた。

 彼はどうにか私に見られまいと白手袋の両手で顔を隠そうとしたが、私はしっかりとそれを見てしまった。

 自ら金を払って虐められるために店にやって来る男にはない「苦悩」を彼の中に感じて、私はめまいがするほどのときめきを彼に感じた。
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