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6.私の世話係

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「マリアンヌ、ただいま! 元気になったんだね、お父様はとっても心配だったんだよ」

 ハンサムでダンディなお父様は駆け寄って私を抱きしめ、

「はい、お土産ね。マリアンヌの大好物だ」

 と隣国のお菓子を渡してくれた。

「わー、お父様、ありがとう」

 お父様の外出に同行していた執事のエドワードが私たちのすぐ近くに立ってにこにこと微笑んでいた。

 エドワードの笑顔を見て私は、なんて素敵なんだろうと、胸がキュンキュンときめいた。
 美男子な上に性格も最高によさそうだ。
 彼はスチュアートよりも色素の薄い髪と瞳を私の部屋のシャンデリアの明かりでキラキラと輝かせていた。



 代々この屋敷の使用人として仕えるカフティフ家の双子の執事、エドワードとスチュアートはどちらもすらりとした高身長で、稀に見るほど顔が整っているが、性格は正反対だった。

 兄のエドワードは明るく朗らかなムードメーカーで、弟のスチュアートはまじめでプライドの高い仕事人間だ。
 ざっくりと説明するなら、エドワードが明るく地上を照らす太陽ならばスチュアートは暗闇で凛と輝く月という印象を私は持った。

「そういえばマリアンヌはお父様にお願いしたいことがあるって言っていたね? 帰ったら聞いてあげると約束したけど、なんだろう?」

 お父様に言われて私はハッとした。

 たぶん小説の流れではここでカルロスとの縁談を持ちかけるようお願いしたはずだが、刺されて死ぬバッドエンドを回避するため別のことを頼まなければ。

「えっと、お父様……」

 私は困ってしまった。
 小説を読んだ限りではマリアンヌにはカルロスの他には、この二人の執事以外にいい男性との出会いなんてないなのだ。
 国一番の美貌の持ち主なのに、それ以上にわがまま放題で気が強いと悪名高いマリアンヌは全くモテないのだった。

「何でも言ってごらん、マリアンヌ」

 カルロスを略奪するルートへ向かわないためには、目の前の忠実なイケメン執事と恋に落ちるしかない。

 もちろん厳しいスチュアートではなく、優しいエドワードと。

「お父様の二人の執事のうちの一人を私の世話係にしてほしいの」

 エドワードを是非。彼と近づければ私は彼を攻略して、いつまでも続く幸せなハッピーエンドを迎えてみせる。

 お父様は少し困った顔をしたけど、

「そうかい、ならば……」

 エドワードを、と私が言うより一瞬早く、

「スチュアートをつけてあげよう」

 と言った。

「ち、違う、お父様、私はエドワードが」

「エドワード? それは困るよ。今回の外出の件で、彼には大事な仕事を任せているから。スチュアートもとっても優秀な執事だよ? いいじゃないか、スチュアートで」

「えええーー、そんなはずじゃあ……」

 やっぱり私って転生しても男運が悪いんだ、とがっかりした。

 二人の執事に目をやると、エドワードは困ように笑い、スチュアートはムッとした顔で私を見ていた。

 スチュアートの前でこれ以上エドワードがいいと言えなかった。それぐらい彼は怖いのだ。

「というわけだからスチュアート、マリアンヌのお世話よろしくね」

「かしこまりました」

 と彼は美しく微笑んでお父様にお辞儀をした。私に対する時と全然態度が違うじゃない、と私は心の中で思った。

 お父様はエドワードを連れて部屋を出て行ってしまった。
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