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2-5.暴露本
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王太子妃になったシャルロッテは近隣諸国にまでその存在を知られることとなった。
美人で性格のいい彼女はたちまち大きな人気を得て、一大ブームを巻き起こした。雑誌は特別号を発行して俺たちの挙式や彼女の生い立ちを競うように特集し、彼女の写真集や人形などのグッズが次々と発売された。
城には連日のように彼女に向け男からファンレターが届き、公務の際にはストーカーのように付きまとってくる者もいた。
表面上は余裕の顔をしていながら、俺の心に湧いていた彼女への独占欲が沸騰寸前の状態となっていた。
自分がこんなにも器の小さな男だとは俺自身も知らなかった。
そんな人気絶頂の中、シャルロッテに関するある書籍が出版された。
それは学生時代からルイス王子との婚約破棄までを綴った暴露本だった。著者はあのビアンカであった。
「公爵家の一人娘として生まれた彼女は学生時代から親の財力にものを言わせ、ほしいものは他人から奪ってでも何でも手に入れないと気が済まない性格の悪いわがまま令嬢だった」
「ルイス王子のフィアンセになるため、恋のライバルである令嬢たちの食事に毒を盛って殺した残虐な殺人鬼」
「悪女であることを見抜かれてルイス王子に婚約破棄されるとすぐに森の中でこっそり生きていると知ったアレクサンダー王子にターゲットを切り替えた尻軽女」
暴露内容はこの三つだった。
二つ目までは事実であるが、ルイスに婚約破棄された直後に転生してきたという彼女には身に覚えのないことばかりだろう。
三つ目はビアンカがでっち上げた内容だ。
彼女はシュヴァルツと名乗って仮面をつけて暮らしていた俺をアレクサンダー王子だと知るはずがなかった。
そもそもあのときシャルロッテが俺の暮らす森の屋敷に来ることになったのはビアンカが彼女を売り飛ばし、俺が買ったからだ。彼女にはあざとい考えなんて全くない。
この本が出回ったことをきっかけに、いつも太陽のように明るく楽しそうに暮らしていたシャルロッテは、すっかりふさぎ込んで部屋にこもるようになってしまった。
俺だって5年ぶりに王太子として復活したことを一部の人間からは面白くないと思われた。
5年前と比較する写真を雑誌に載せられ、
「顔つきが全く違う。蘇った王子は偽者だ」
「陰謀によって生み出された影武者だ。王家が乗っ取られる」
と面白おかしく書かれた。
十八歳だった俺は5年経って二十三歳になった。多少顔つきも大人びたし、毎日森で馬にばかり乗って過ごしていたから体も引き締まった。
少し考えればわかるだろっ! それを別人だと言うなんてバカかっ!
と内心イラっとしながらもあえて反応しなかった。記者や一般人など相手にしても仕方がないと子供の頃から教育を受けていたからだ。
考えてみれば、そういう教育なしに王家に嫁にやって来るって大変なことだ……。
国王である父上に呼ばれ、城の中を歩きながら俺はそんなことを考えていた。
美人で性格のいい彼女はたちまち大きな人気を得て、一大ブームを巻き起こした。雑誌は特別号を発行して俺たちの挙式や彼女の生い立ちを競うように特集し、彼女の写真集や人形などのグッズが次々と発売された。
城には連日のように彼女に向け男からファンレターが届き、公務の際にはストーカーのように付きまとってくる者もいた。
表面上は余裕の顔をしていながら、俺の心に湧いていた彼女への独占欲が沸騰寸前の状態となっていた。
自分がこんなにも器の小さな男だとは俺自身も知らなかった。
そんな人気絶頂の中、シャルロッテに関するある書籍が出版された。
それは学生時代からルイス王子との婚約破棄までを綴った暴露本だった。著者はあのビアンカであった。
「公爵家の一人娘として生まれた彼女は学生時代から親の財力にものを言わせ、ほしいものは他人から奪ってでも何でも手に入れないと気が済まない性格の悪いわがまま令嬢だった」
「ルイス王子のフィアンセになるため、恋のライバルである令嬢たちの食事に毒を盛って殺した残虐な殺人鬼」
「悪女であることを見抜かれてルイス王子に婚約破棄されるとすぐに森の中でこっそり生きていると知ったアレクサンダー王子にターゲットを切り替えた尻軽女」
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二つ目までは事実であるが、ルイスに婚約破棄された直後に転生してきたという彼女には身に覚えのないことばかりだろう。
三つ目はビアンカがでっち上げた内容だ。
彼女はシュヴァルツと名乗って仮面をつけて暮らしていた俺をアレクサンダー王子だと知るはずがなかった。
そもそもあのときシャルロッテが俺の暮らす森の屋敷に来ることになったのはビアンカが彼女を売り飛ばし、俺が買ったからだ。彼女にはあざとい考えなんて全くない。
この本が出回ったことをきっかけに、いつも太陽のように明るく楽しそうに暮らしていたシャルロッテは、すっかりふさぎ込んで部屋にこもるようになってしまった。
俺だって5年ぶりに王太子として復活したことを一部の人間からは面白くないと思われた。
5年前と比較する写真を雑誌に載せられ、
「顔つきが全く違う。蘇った王子は偽者だ」
「陰謀によって生み出された影武者だ。王家が乗っ取られる」
と面白おかしく書かれた。
十八歳だった俺は5年経って二十三歳になった。多少顔つきも大人びたし、毎日森で馬にばかり乗って過ごしていたから体も引き締まった。
少し考えればわかるだろっ! それを別人だと言うなんてバカかっ!
と内心イラっとしながらもあえて反応しなかった。記者や一般人など相手にしても仕方がないと子供の頃から教育を受けていたからだ。
考えてみれば、そういう教育なしに王家に嫁にやって来るって大変なことだ……。
国王である父上に呼ばれ、城の中を歩きながら俺はそんなことを考えていた。
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