上 下
32 / 43

32.明らかになった真実

しおりを挟む
「わしがベンジャミンからこのことを告白されたのは数日前のことじゃった。死んだものとばかり思っていたアレクサンダーが生きているのは喜ばしいことだったが、まさか愛していた王妃がわしの息子を殺そうとしただなんて信じられなかった」

 国王は王妃に鎌をかけることにした。

「ルイスはどうも性格が穏やかで優しすぎて国王という器ではない。王位継承順位通りではないが、わしの弟の息子であるジョージは精悍で頼もしい青年だ。わしは以前から彼こそ王に相応しいと思っておる」

 と王妃に言ったのだ。
 激怒した王妃は再びベンジャミンに国王の食事に薬を混ぜて暗殺するよう命令した。
 彼女はアレクサンダー王子の殺害が成功したと信じてベンジャミンをすっかり信用していたのだ。

 しかしベンジャミンは王妃が国王暗殺を命令してきたことを国王に告げた。
 国王はベンジャミンにアレクサンダー王子に飲ませた仮死状態になる薬物を用意させ、それを飲んで倒れた。

「わしは朦朧とする意識の中で確かに聞いたぞ。よくやったわ、ベンジャミンと、お前がベンジャミンを褒める声をっ!」

 兵士に取り押さえられた王妃は、アレクサンダー王子と国王の殺害を命令したこと、そして金銭でメイドを買収しアレクサンダー王子の母である前王妃の食事へ毒を混ぜて殺害したことも認めた。

 国王は王妃を打ち首にしようと考えているとその場で言ったが、ルイス王子にしてみればそれはショックなことだった。

「父上、母上は僕のために兄と父上の暗殺を計画しました。母上のしたことは許されないこととは承知の上です。ですから母上を打ち首にするのなら僕も同じ刑を受けます」

 と優しいルイス王子が国王陛下の前に跪いて懇願した。
 結局、ルイス王子に免じて国王は王妃を国外追放で許してやることにした。

 死んだはずの国王が生き返り、王位継承順位が上の兄まで戻ってきてしまって、国王への即位寸前だったルイス王子にしてみれば残念なことのような気もしたが、彼はただ単に父と兄の生還を心から喜んでいた。

 国王が戻った。アレクサンダー王子も戻って来た。
 国民は喜びに沸いた。

 国王即位の式典はアレクサンダー王子に王太子の冠が再び授与される式に切り替わった。
 国王陛下から頭上に冠を授与されたアレクサンダー王子を見て、私は安堵すると共に少しだけ寂しい気持ちで見つめた。

 森の屋敷で一緒に暮らした彼が遠い世界の人になってしまったんだと思ってぽろっと涙が零れた。
 彼が私のピンチに駆けつけて、クレーエに乗せてくれることももう二度とないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

奪われたはずの婚約者に激しく求められています?

ROSE
恋愛
「せめてもの情けだ。王子であるこの俺の手で投獄してやろう」 状況が読み込めない。 恥ずかしい秘密を隠すために、主治医から処方薬を受け取ろうとしたシャロンは、なぜか反逆罪で投獄されてしまう。婚約者のジャスティン王子の手によって。 これはなにかの間違いでは? シャロンの言葉は彼には届いていないようだった。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです

鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。 十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。 そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり────── ※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。 ※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

男主人公の御都合彼女をやらなかった結果

お好み焼き
恋愛
伯爵令嬢のドロテア・ジューンは不意に前世と、そのとき読んだ小説を思い出した。ここは前世で読んだあの青春ファンタジーものの小説の世界に酷似していると。そしてドロテアである自分が男主人公ネイサンの幼馴染み兼ご都合彼女的な存在で、常日頃から身と心を捧げて尽くしても、結局は「お前は幼馴染みだろ!」とかわされ最後は女主人公ティアラと結ばれ自分はこっぴどく捨てられる存在なのを、思い出した。 こうしちゃいれんと、ドロテアは入学式真っ只中で逃げ出し、親を味方につけ、優良物件と婚約などをして原作回避にいそしむのだった(性描写は結婚後)

処理中です...