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26.親の決めた結婚

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 それから数日が経ったある日の夕食のとき、

「シャルロッテ、ちょっとお話があるの」

 とお母様はいつにも増してにっこりと笑った。

「何ですか?」

「ほら、先日の航海の途中でね、私たちはある国の大商人の息子さんを紹介されてね。とてもいい条件の相手なの。でもそのときはシャルロッテに婚約者がいたものだから、断ってしまったのだけど、改めて手紙を送ってみたら是非にですって」

「ええっ! そんなお話、私はお受けできません。……申し訳ありませんが、お断りください」

 私は今でもシュヴァルツ様が好きだ。シュヴァルツ様をこのまま放っておいて他の男性との交際するなんて考えられない。隙を見てどうにか森の屋敷へ行くことばかり考えていたというのに。

「そうはいかないわ。もう手紙では話が進んでしまっていますもの」

「ええっ!?」

「いいじゃないか、会えば気に入るさ。モーリスの何がそんなに嫌なんだ? ルイス王子と結婚するよりずっといいじゃないか。大きな船をたくさん所有している貿易商の跡取りなんだ、金もたんまり持っているぞ」

「モーリス?」

「そう、名前はモーリスと言うのよ、年齢はあなたより二回り上でお坊ちゃまらしく丸々と太っているの」

「二回り上? 丸々と……!?」

「そうよ、結婚後少し辛抱すれば相手はすぐに死んでしまうでしょう。そうしたら莫大な遺産で悠々自適に暮らせるわ、ほらそういう結婚が理想だって前に言っていたじゃない」

 開いた口が塞がらなかった。完全に財産目当ての結婚じゃないか。

「とにかく婚約破棄されたことを思い出して部屋で落ち込んでばかりいるのはお前らしくないからな。新たな相手と結婚すれば元気が出るぞ」

 シュヴァルツ様のことが心配で元気がない私を、両親は未だにルイス王子に婚約破棄されたことに傷心しているのだと勘違いしてしまっているらしかった。

 彼らは大事な一人娘を元気づけたい一心でこの話を進めているようだった。

「結婚式の日取りは一ヶ月後よ。それまでに色々と準備しましょう。何せ異国へお嫁に行くのですから。必要なものがたくさんあるでしょう」

「ああ、そうだ。忙しくなるぞ」

 お父様もお母様も大張り切りだった。

「ええっ!? ちょっと待ってください、いきなり結婚だなんてっ!? ……それも一度も会ったこともない相手と?」

 私は二人の話についていけていなかった。

「何をそんなに驚いているの? 結婚なんてものは親同士の話し合いで決めてしまって当然でしょう。それにあなたの悪い噂がモーリスの耳に入る前にはやく挙式してしまった方がいいじゃない」

 ルイス王子に婚約破棄されたことを踏まえ、お母様はとにかく急いで私を結婚させてしまおうと思っているらしかった。

「でも私は……、遠い異国で暮らすのなんて嫌です」

 異国に行けばもう二度とシュヴァルツ様に会えないだろう。

「そりゃお父様だって寂しい。大事な一人娘のシャルロッテになかなか会えなくなるなんてな。でもこんなに条件のいい相手は滅多にいないんだぞ。全てはお前のためだ……」

 お父様は残念そうに言った。
 ちらりと窓の方へ目をやり、お母様は声を潜めた。

「なにやら最近、黒いローブに身を包んだ怪しい男が時々この屋敷を見ているって使用人たちが言っているのよ。モーリスのご両親があなたのことを調べさせるのに雇った者かもしれないわ。だからわがまま言わないで、破談になる前に早くモーリスと結婚しなさい。お父様とお母様を困らせないでちょうだい」

 お父様も大きく頷いた。
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