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21.もう一度会いたい
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そうしているうちに、ふわふわと雪が舞い始めてきた。
ただでさえ寒いしお腹が減っているのに、濡れたら余計に体力を消耗してしまいそうだ。
薄手の上着を一枚羽織っているだけで傘なんて持っていなかった。
雪の中を少し歩いて、運よく近くに洞窟を見つけて入り込んだ。
すぐに止んでくれるといいな、と思いながら空を見るが止む気配はない。
それどころか雪の粒は大きくなり、しんしんと降り積もって森の中は真っ白な世界に姿を変えていく。
どうしよう、このまま雪が止むのを待っていたら日が暮れてしまう。
この森にはオオカミがいるから、ここで夜を明かすのは危ない。
方角はわからないけどとりあえず歩くしかない。私は覚悟を決めて雪の中を歩き出した。
寒くて凍えそうだった。足元だって普通のパンプスだ。冷えてしまった爪先に感覚はなくなっていた。
お腹は空いたし、体力も限界だった。
歩いても歩いても屋敷は見えてこない。完全にルートを外れて深い森の方へ来てしまったのだろう。
私はとうとう雪の上へ倒れ込んだ。
私また死んでしまうのかな。シュヴァルツ様にもう一度会いたかったな。
たとえシュヴァルツ様が私のことが大嫌いで復讐のために雇ったと言っていても、それでも私は好きだって伝えればよかった。
まぶたが重くて、目を閉じた。体が氷のように冷たくなって雪と一体化していく気がした。
小説にはよく仮死状態になる薬なんかが出てくるけれど、それを飲むとこんな感じかしら、と思った。
仮死……? そうか、葬儀で神父様が見たアレクサンダー王子の肉体も仮死状態だったのかも……。
私は遠くなっていく意識の中で、雪の上を大きな動物がこちらに向かって走ってくる音を聞いた。
オオカミかもしれない。
「おい、貴様。目を覚ませっ!」
凛とした声で怒鳴りつけられた。
はっと目を開けると、黒い仮面越しの黒い瞳と目が合った。
「シュヴァルツ様っ!」
「どうしてこんなところで倒れている? どこか具合でも悪いのか?」
私は彼に抱き起されていた。その後ろでクレーエがフン、と白い息を吐いている。
「いえ、お腹が空いて……、あと寒くて……」
「なにぃ?」
彼は私を抱き上げてクレーエの背中に乗せて、自分も乗った。
「こんな薄着で出かける奴があるか」
と自分の黒いローブの前を開いて、私を包み込んだ。
彼の匂いと体温にドキドキしてしまう。
すごく近い彼の顔を見上げて私は尋ねた。
「私のことを探しに来てくれたのですか?」
彼は耳元を赤くして、
「勘違いするなっ! こうして森を見回るのは仕事だからだ。たまたま倒れているお前を見つけたから連れて帰るだけだ」
もしかしてシュヴァルツ様って照れ屋なのか。仮面で表情が見えないから今まで気が付かなかったけど。
屋敷へ戻るとマリーが心配して待っていた。
「よかったわ。この屋敷が嫌になって、もう戻ってきてくれないんじゃないかと思っていたの」
キッチンで私に温かいスープをよそってくれながら彼女は言った。
「そんなことないです。神父様に会いたくなって教会まで行ってきたのですが、帰りに道に迷ってしまって。偶然、森を見回りしていたシュヴァルツ様に助けられて命拾いしました」
「ふふ、偶然なものですか。今朝あなたがいないと知ってから、あの方は何度も森へ探しに行ったのですよ」
ただでさえ寒いしお腹が減っているのに、濡れたら余計に体力を消耗してしまいそうだ。
薄手の上着を一枚羽織っているだけで傘なんて持っていなかった。
雪の中を少し歩いて、運よく近くに洞窟を見つけて入り込んだ。
すぐに止んでくれるといいな、と思いながら空を見るが止む気配はない。
それどころか雪の粒は大きくなり、しんしんと降り積もって森の中は真っ白な世界に姿を変えていく。
どうしよう、このまま雪が止むのを待っていたら日が暮れてしまう。
この森にはオオカミがいるから、ここで夜を明かすのは危ない。
方角はわからないけどとりあえず歩くしかない。私は覚悟を決めて雪の中を歩き出した。
寒くて凍えそうだった。足元だって普通のパンプスだ。冷えてしまった爪先に感覚はなくなっていた。
お腹は空いたし、体力も限界だった。
歩いても歩いても屋敷は見えてこない。完全にルートを外れて深い森の方へ来てしまったのだろう。
私はとうとう雪の上へ倒れ込んだ。
私また死んでしまうのかな。シュヴァルツ様にもう一度会いたかったな。
たとえシュヴァルツ様が私のことが大嫌いで復讐のために雇ったと言っていても、それでも私は好きだって伝えればよかった。
まぶたが重くて、目を閉じた。体が氷のように冷たくなって雪と一体化していく気がした。
小説にはよく仮死状態になる薬なんかが出てくるけれど、それを飲むとこんな感じかしら、と思った。
仮死……? そうか、葬儀で神父様が見たアレクサンダー王子の肉体も仮死状態だったのかも……。
私は遠くなっていく意識の中で、雪の上を大きな動物がこちらに向かって走ってくる音を聞いた。
オオカミかもしれない。
「おい、貴様。目を覚ませっ!」
凛とした声で怒鳴りつけられた。
はっと目を開けると、黒い仮面越しの黒い瞳と目が合った。
「シュヴァルツ様っ!」
「どうしてこんなところで倒れている? どこか具合でも悪いのか?」
私は彼に抱き起されていた。その後ろでクレーエがフン、と白い息を吐いている。
「いえ、お腹が空いて……、あと寒くて……」
「なにぃ?」
彼は私を抱き上げてクレーエの背中に乗せて、自分も乗った。
「こんな薄着で出かける奴があるか」
と自分の黒いローブの前を開いて、私を包み込んだ。
彼の匂いと体温にドキドキしてしまう。
すごく近い彼の顔を見上げて私は尋ねた。
「私のことを探しに来てくれたのですか?」
彼は耳元を赤くして、
「勘違いするなっ! こうして森を見回るのは仕事だからだ。たまたま倒れているお前を見つけたから連れて帰るだけだ」
もしかしてシュヴァルツ様って照れ屋なのか。仮面で表情が見えないから今まで気が付かなかったけど。
屋敷へ戻るとマリーが心配して待っていた。
「よかったわ。この屋敷が嫌になって、もう戻ってきてくれないんじゃないかと思っていたの」
キッチンで私に温かいスープをよそってくれながら彼女は言った。
「そんなことないです。神父様に会いたくなって教会まで行ってきたのですが、帰りに道に迷ってしまって。偶然、森を見回りしていたシュヴァルツ様に助けられて命拾いしました」
「ふふ、偶然なものですか。今朝あなたがいないと知ってから、あの方は何度も森へ探しに行ったのですよ」
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