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20.ビアンカたちにも再び……
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私はシュヴァルツ様の元へ帰ろうと森へ向かって町を歩いていた。
すると向こうから見覚えのある三人組の女性が歩いて来た。ビアンカとその取り巻きだ。
「あらぁ? シャルロッテじゃない」
「よくもまあ、街中なんか歩けたものねぇ」
何がそんなに面白いのか、取り巻きたちが私を見てクスクス笑っている。
「うふふ、……皆さんごきげんよう」
私は挨拶だけして足を止めずに通り過ぎようとした。
「ねぇ、最近めっきり見かけなかったけど、どこかの屋敷の使用人になったって噂は本当なの?」
ビアンカが私に尋ねた。
「ええ、よく知っているわね」
一瞬どう答えようか迷ったが嘘をついても仕方がないので正直に答えることにした。
「まあまあ、自慢と言えば親の爵位と財産だったあなたが?」
「公爵令嬢がよくもそこまで落ちぶれたものね」
取り巻きたちがゲラゲラと笑ってバカにした。
「でも私、幸せよ。屋敷の主人はとても素敵な人ですもの」
これだけは言っておきたくて、私は三人ににっこりと笑って堂々と言った。
ビアンカが私を睨みつけた。
「使用人が屋敷の主人に恋したって意味ないわ。素敵な人ならなおさら、相手にされるわけないでしょう。まさかまだご令嬢気分でいるんじゃないでしょうね。身分をわきまえなさいよ」
行きましょう、と三人は去っていった。
そう言われてしまうと確かにビアンカの言う通りな気がしてきた。
私はただの使用人で、シュヴァルツ様は屋敷の主人。おまけにアレクサンダー王子かもしれないお方。今の私にはとても遠い身分の人だ。
ふと、今朝何も言わずに屋敷を出て来てしまったことを思い出した。
シュヴァルツ様もマリーも急にいなくなった私のことを心配しているだろうか。
もしかして、ろくに家事もできず役に立たない私がいなくなって清々しているだろうか。
神父様はシュヴァルツ様に秘密を打ち明けろと言っていたけど、もし相手にされなかったらどうしよう……。
ビアンカの言う通り、彼は私のことなんてなんとも思っていないかもしれない。
***
私は落ち葉を踏んで森をのんびりと歩いた。
考えみれば、シュヴァルツ様に相手にされなくたって私はずいぶん幸せだ。
前世の私は歩くことも走ることも働くことも恋することもできなかった。ただ病院のベッドの上で恋愛小説を読んでいただけ。
私は今、その頃の自分が憧れていた小説の世界の中で、自由に動き回ることのできる健康な体を手にして生きているんだ。素敵な人に恋している。この状況を楽しまなくてどうするんだ。
はっと思いついた。
私は異世界転生ものの恋愛小説の世界に転生した。
ルイス王子に婚約破棄され、使用人として不気味な噂の森の屋敷で働かされる酷遇を受けた。でも最初の婚約者よりもずっと素敵な男性であるシュヴァルツ様と恋に落ちた。これってこの手の小説のお決まりパターンじゃないか。
ということは、ここから先もお決まり王道パターンが待っているってわけだ。
きっとシュヴァルツ様と一緒にルイス王子とビアンカに復讐するんだろう。シュヴァルツ様はきっと私のことをすきに決まっている。だからもっと私は強気に出ていいんだ。
今までシュヴァルツ様に一度も好きだと伝えたことがなかった。彼に大嫌いだとか、復讐するために雇ったとか言われてそれを真に受けすぎていたんだ。
どうして今まで気が付かなかったのだろう。そうとわかれば、屋敷まで早く帰ろう。
そう思ったのに、さっきから同じ景色の場所ばかり回っていると気が付いた。
考え事をしすぎて、どっちから来てどっちへ歩いていたのか全くわからない。
この森の地図やコンパスなんてもちろん持っていない。
太陽の位置をヒントに……、と思ったが上を見ても高い木々の先に見える空はどんよりと曇っていた。教会にいたときは晴れてとてもいい天気だったのに。一気に寒くなって来た。
おまけに朝も昼もご飯抜きでずっと歩いて来たから、強烈な空腹に襲われてしまった。
町で何か食べてくればよかった。ビアンカたちに会ってしまい、ショックなことを言われてご飯どころじゃなかったけど。
私は切り株に座って途方に暮れた。
すると向こうから見覚えのある三人組の女性が歩いて来た。ビアンカとその取り巻きだ。
「あらぁ? シャルロッテじゃない」
「よくもまあ、街中なんか歩けたものねぇ」
何がそんなに面白いのか、取り巻きたちが私を見てクスクス笑っている。
「うふふ、……皆さんごきげんよう」
私は挨拶だけして足を止めずに通り過ぎようとした。
「ねぇ、最近めっきり見かけなかったけど、どこかの屋敷の使用人になったって噂は本当なの?」
ビアンカが私に尋ねた。
「ええ、よく知っているわね」
一瞬どう答えようか迷ったが嘘をついても仕方がないので正直に答えることにした。
「まあまあ、自慢と言えば親の爵位と財産だったあなたが?」
「公爵令嬢がよくもそこまで落ちぶれたものね」
取り巻きたちがゲラゲラと笑ってバカにした。
「でも私、幸せよ。屋敷の主人はとても素敵な人ですもの」
これだけは言っておきたくて、私は三人ににっこりと笑って堂々と言った。
ビアンカが私を睨みつけた。
「使用人が屋敷の主人に恋したって意味ないわ。素敵な人ならなおさら、相手にされるわけないでしょう。まさかまだご令嬢気分でいるんじゃないでしょうね。身分をわきまえなさいよ」
行きましょう、と三人は去っていった。
そう言われてしまうと確かにビアンカの言う通りな気がしてきた。
私はただの使用人で、シュヴァルツ様は屋敷の主人。おまけにアレクサンダー王子かもしれないお方。今の私にはとても遠い身分の人だ。
ふと、今朝何も言わずに屋敷を出て来てしまったことを思い出した。
シュヴァルツ様もマリーも急にいなくなった私のことを心配しているだろうか。
もしかして、ろくに家事もできず役に立たない私がいなくなって清々しているだろうか。
神父様はシュヴァルツ様に秘密を打ち明けろと言っていたけど、もし相手にされなかったらどうしよう……。
ビアンカの言う通り、彼は私のことなんてなんとも思っていないかもしれない。
***
私は落ち葉を踏んで森をのんびりと歩いた。
考えみれば、シュヴァルツ様に相手にされなくたって私はずいぶん幸せだ。
前世の私は歩くことも走ることも働くことも恋することもできなかった。ただ病院のベッドの上で恋愛小説を読んでいただけ。
私は今、その頃の自分が憧れていた小説の世界の中で、自由に動き回ることのできる健康な体を手にして生きているんだ。素敵な人に恋している。この状況を楽しまなくてどうするんだ。
はっと思いついた。
私は異世界転生ものの恋愛小説の世界に転生した。
ルイス王子に婚約破棄され、使用人として不気味な噂の森の屋敷で働かされる酷遇を受けた。でも最初の婚約者よりもずっと素敵な男性であるシュヴァルツ様と恋に落ちた。これってこの手の小説のお決まりパターンじゃないか。
ということは、ここから先もお決まり王道パターンが待っているってわけだ。
きっとシュヴァルツ様と一緒にルイス王子とビアンカに復讐するんだろう。シュヴァルツ様はきっと私のことをすきに決まっている。だからもっと私は強気に出ていいんだ。
今までシュヴァルツ様に一度も好きだと伝えたことがなかった。彼に大嫌いだとか、復讐するために雇ったとか言われてそれを真に受けすぎていたんだ。
どうして今まで気が付かなかったのだろう。そうとわかれば、屋敷まで早く帰ろう。
そう思ったのに、さっきから同じ景色の場所ばかり回っていると気が付いた。
考え事をしすぎて、どっちから来てどっちへ歩いていたのか全くわからない。
この森の地図やコンパスなんてもちろん持っていない。
太陽の位置をヒントに……、と思ったが上を見ても高い木々の先に見える空はどんよりと曇っていた。教会にいたときは晴れてとてもいい天気だったのに。一気に寒くなって来た。
おまけに朝も昼もご飯抜きでずっと歩いて来たから、強烈な空腹に襲われてしまった。
町で何か食べてくればよかった。ビアンカたちに会ってしまい、ショックなことを言われてご飯どころじゃなかったけど。
私は切り株に座って途方に暮れた。
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