【R-18】念願の健康を手に入れた転生令嬢にとって婚約破棄も酷遇もどうってことありません。私を恨んでいた仮面騎士に溺愛されて幸せです。

衣草 薫

文字の大きさ
上 下
20 / 43

20.ビアンカたちにも再び……

しおりを挟む
 私はシュヴァルツ様の元へ帰ろうと森へ向かって町を歩いていた。

 すると向こうから見覚えのある三人組の女性が歩いて来た。ビアンカとその取り巻きだ。

「あらぁ? シャルロッテじゃない」

「よくもまあ、街中なんか歩けたものねぇ」

 何がそんなに面白いのか、取り巻きたちが私を見てクスクス笑っている。

「うふふ、……皆さんごきげんよう」

 私は挨拶だけして足を止めずに通り過ぎようとした。

「ねぇ、最近めっきり見かけなかったけど、どこかの屋敷の使用人になったって噂は本当なの?」

 ビアンカが私に尋ねた。

「ええ、よく知っているわね」

 一瞬どう答えようか迷ったが嘘をついても仕方がないので正直に答えることにした。

「まあまあ、自慢と言えば親の爵位と財産だったあなたが?」

「公爵令嬢がよくもそこまで落ちぶれたものね」

 取り巻きたちがゲラゲラと笑ってバカにした。

「でも私、幸せよ。屋敷の主人はとても素敵な人ですもの」

 これだけは言っておきたくて、私は三人ににっこりと笑って堂々と言った。
 ビアンカが私を睨みつけた。

「使用人が屋敷の主人に恋したって意味ないわ。素敵な人ならなおさら、相手にされるわけないでしょう。まさかまだご令嬢気分でいるんじゃないでしょうね。身分をわきまえなさいよ」

 行きましょう、と三人は去っていった。

 そう言われてしまうと確かにビアンカの言う通りな気がしてきた。
 私はただの使用人で、シュヴァルツ様は屋敷の主人。おまけにアレクサンダー王子かもしれないお方。今の私にはとても遠い身分の人だ。

 ふと、今朝何も言わずに屋敷を出て来てしまったことを思い出した。

 シュヴァルツ様もマリーも急にいなくなった私のことを心配しているだろうか。
 もしかして、ろくに家事もできず役に立たない私がいなくなって清々しているだろうか。

 神父様はシュヴァルツ様に秘密を打ち明けろと言っていたけど、もし相手にされなかったらどうしよう……。
 ビアンカの言う通り、彼は私のことなんてなんとも思っていないかもしれない。


***


 私は落ち葉を踏んで森をのんびりと歩いた。

 考えみれば、シュヴァルツ様に相手にされなくたって私はずいぶん幸せだ。
 前世の私は歩くことも走ることも働くことも恋することもできなかった。ただ病院のベッドの上で恋愛小説を読んでいただけ。

 私は今、その頃の自分が憧れていた小説の世界の中で、自由に動き回ることのできる健康な体を手にして生きているんだ。素敵な人に恋している。この状況を楽しまなくてどうするんだ。

 はっと思いついた。

 私は異世界転生ものの恋愛小説の世界に転生した。
 ルイス王子に婚約破棄され、使用人として不気味な噂の森の屋敷で働かされる酷遇を受けた。でも最初の婚約者よりもずっと素敵な男性であるシュヴァルツ様と恋に落ちた。これってこの手の小説のお決まりパターンじゃないか。

 ということは、ここから先もお決まり王道パターンが待っているってわけだ。
 きっとシュヴァルツ様と一緒にルイス王子とビアンカに復讐するんだろう。シュヴァルツ様はきっと私のことをすきに決まっている。だからもっと私は強気に出ていいんだ。

 今までシュヴァルツ様に一度も好きだと伝えたことがなかった。彼に大嫌いだとか、復讐するために雇ったとか言われてそれを真に受けすぎていたんだ。

 どうして今まで気が付かなかったのだろう。そうとわかれば、屋敷まで早く帰ろう。
 そう思ったのに、さっきから同じ景色の場所ばかり回っていると気が付いた。

 考え事をしすぎて、どっちから来てどっちへ歩いていたのか全くわからない。
 この森の地図やコンパスなんてもちろん持っていない。
 太陽の位置をヒントに……、と思ったが上を見ても高い木々の先に見える空はどんよりと曇っていた。教会にいたときは晴れてとてもいい天気だったのに。一気に寒くなって来た。

 おまけに朝も昼もご飯抜きでずっと歩いて来たから、強烈な空腹に襲われてしまった。
 町で何か食べてくればよかった。ビアンカたちに会ってしまい、ショックなことを言われてご飯どころじゃなかったけど。

 私は切り株に座って途方に暮れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...