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9.彼との再会
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二人きりになった玄関で私はおばあさんに丁寧に挨拶した。
「はじめまして、シャルロッテです。今日からお世話になります」
家を追い出され使用人として売られてきた身分の自分が、公爵令嬢としての長い名前を語るのは違う気がして、シンプルに自己紹介してみた。
「まあ、ようこそ。お待ちしておりました。私はここの主人の乳母のマリーでございます」
血の気を感じない白い顔でにっこりと笑った。
玄関ホールで黒いローブを脱ぐと、彼女は白い髪を後ろでお団子にまとめた頭にエプロンをつけた普通の使用人の姿なった。
玄関へ出てきたとき背中を丸めていたのは演技だったのか、背筋をピンと伸ばした細い体で音を立てずに廊下を歩き、屋敷の中を案内してくれた。
曲がった腰や痩せた頬を見て、さっきはおばあさんだと思ったが、そんなにお年寄りではないみたいだ。
広い屋敷は隅々まできれいに磨き上げられていた。
「ここにはお屋敷のご主人とマリーさんだけで住んでいらっしゃるのですか?」
「ええ、そうです。私のことはマリーと気軽に呼んでくださって結構ですよ」
私がこれから自由に使っていい部屋だと言って、彼女は個室のドアを開けた。
そこは四畳半ほどの広さでベッドとクローゼットがあるだけのシンプルな部屋だった。
「必要なものはこちらに揃えてあります」
クローゼットを開けてマリーは白いエプロンドレスを取り出し、私のワンピースの上につけてくれた。
私はクローゼットの扉の内側についている鏡に映ったその姿を見た。
「ふふ、可愛いエプロン」
「よくお似合いです」
マリーは微笑んだ。
「それではこの屋敷の主人の元へ参りましょうか」
「はい、早くご挨拶したいです」
私はドキドキしながら、マリーの後に続いて階段を登り二階にある書斎へ向かった。
机に向かって書き物をしていた男性が、私たちが来たことに気付いて羽ペンを置いた。
やっぱりあの人だ。
オオカミに襲われそうなところを助けてもらったときと同じように黒い仮面で顔の上半分を覆っている。
こちらを見つめる黒い瞳もあのときと同じだ。
「あの、先日は森の中で助けてくださり、ありがとうございました。おまけに借金で困っている私をまたこうして助けてくださり、本当にどれだけ感謝してもしきれません」
再会できた喜びを噛みしめながら、深々と頭を下げた。
本当に優しい人。このお方は私の救世主だ。しっかりお仕えしなくては、と心に決めた。
「フン、やっぱり貴様がワイザー公爵家の一人娘シャルロッテだったのか。お前のような無能な箱入りお嬢様を雇ってやるのだから感謝しろ」
仮面をつけているシュヴァルツ様の表情はいまいちわからない。
「はい、その通りです。今まで働きに出たこともなければ、家事もしたことがありません。でもこれから精一杯頑張ってできるようになりますので、どうかよろしくお願いいたします、ご主人様」
顔を上げてにっこり笑うと、
「ご主人様と呼ぶのはよしてくれ」
と腕を組まれた。
「え? では何とお呼びすれば? ……あの、お名前は?」
「……俺の名前はシュヴァルツだ」
「シュヴァルツ様……」
愛しい方の名前を知れて、舞い上がるような気持ちだった。私はうっとりとその名を口にした。
「とりあえず、お前には俺の書斎の隣にある物置部屋の片づけをしてもらう。いいな?」
「はいっ」
私はしっかり頑張ろうと元気よく返事した。
「はじめまして、シャルロッテです。今日からお世話になります」
家を追い出され使用人として売られてきた身分の自分が、公爵令嬢としての長い名前を語るのは違う気がして、シンプルに自己紹介してみた。
「まあ、ようこそ。お待ちしておりました。私はここの主人の乳母のマリーでございます」
血の気を感じない白い顔でにっこりと笑った。
玄関ホールで黒いローブを脱ぐと、彼女は白い髪を後ろでお団子にまとめた頭にエプロンをつけた普通の使用人の姿なった。
玄関へ出てきたとき背中を丸めていたのは演技だったのか、背筋をピンと伸ばした細い体で音を立てずに廊下を歩き、屋敷の中を案内してくれた。
曲がった腰や痩せた頬を見て、さっきはおばあさんだと思ったが、そんなにお年寄りではないみたいだ。
広い屋敷は隅々まできれいに磨き上げられていた。
「ここにはお屋敷のご主人とマリーさんだけで住んでいらっしゃるのですか?」
「ええ、そうです。私のことはマリーと気軽に呼んでくださって結構ですよ」
私がこれから自由に使っていい部屋だと言って、彼女は個室のドアを開けた。
そこは四畳半ほどの広さでベッドとクローゼットがあるだけのシンプルな部屋だった。
「必要なものはこちらに揃えてあります」
クローゼットを開けてマリーは白いエプロンドレスを取り出し、私のワンピースの上につけてくれた。
私はクローゼットの扉の内側についている鏡に映ったその姿を見た。
「ふふ、可愛いエプロン」
「よくお似合いです」
マリーは微笑んだ。
「それではこの屋敷の主人の元へ参りましょうか」
「はい、早くご挨拶したいです」
私はドキドキしながら、マリーの後に続いて階段を登り二階にある書斎へ向かった。
机に向かって書き物をしていた男性が、私たちが来たことに気付いて羽ペンを置いた。
やっぱりあの人だ。
オオカミに襲われそうなところを助けてもらったときと同じように黒い仮面で顔の上半分を覆っている。
こちらを見つめる黒い瞳もあのときと同じだ。
「あの、先日は森の中で助けてくださり、ありがとうございました。おまけに借金で困っている私をまたこうして助けてくださり、本当にどれだけ感謝してもしきれません」
再会できた喜びを噛みしめながら、深々と頭を下げた。
本当に優しい人。このお方は私の救世主だ。しっかりお仕えしなくては、と心に決めた。
「フン、やっぱり貴様がワイザー公爵家の一人娘シャルロッテだったのか。お前のような無能な箱入りお嬢様を雇ってやるのだから感謝しろ」
仮面をつけているシュヴァルツ様の表情はいまいちわからない。
「はい、その通りです。今まで働きに出たこともなければ、家事もしたことがありません。でもこれから精一杯頑張ってできるようになりますので、どうかよろしくお願いいたします、ご主人様」
顔を上げてにっこり笑うと、
「ご主人様と呼ぶのはよしてくれ」
と腕を組まれた。
「え? では何とお呼びすれば? ……あの、お名前は?」
「……俺の名前はシュヴァルツだ」
「シュヴァルツ様……」
愛しい方の名前を知れて、舞い上がるような気持ちだった。私はうっとりとその名を口にした。
「とりあえず、お前には俺の書斎の隣にある物置部屋の片づけをしてもらう。いいな?」
「はいっ」
私はしっかり頑張ろうと元気よく返事した。
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