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完結
【エピローグ】二人はこれから
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それから私は修道院の小屋を出ていくことを決めた。
修道院の部屋からこの小屋に移るときに持ってきた数冊の本はエマにあげることにした。
本を取りに来たエマに、
「ねえ、会えなくなるなんて寂しいわ。神殿で働かなくてもいいのなら、修道院に戻ればいいのに」
と名残惜しまれた。
聖女になったら国の神殿で仕事をしなければならないと思っていたのに、それは昔の話で今は職業選択の自由があるから困ったときに力を借りるために呼び出されるかもしれないが、普段は好きに生活していいと賢者様が教えてくれた。
あの賢者様は実は旅の人ではなく、神殿に所属する聖女担当者だったのだ。
「ううん、私はもうここを出て行くことに決めたのよ」
困ったようにエマに言うと、
「ふふ、じゃあ説得は無駄ね。アイネは案外頑固だから、一度決めたら曲げないから」
と彼女は言った。
「ねえ、新しい司祭様はどう?」
荷造りをしながら、私はエマに尋ねた。
「とってもお優しい方よ。前の司祭様がまさか闇の教団の大司教、つまり幹部だったなんて、今でも信じられないわ。結局、アイネに命を助けられてそれからやっと傷が治って、私たちに改心を誓った直後に森の中の崖から落ちて事故死してしまったのは、残念だったけどね。闇の教団によって抹殺されたって噂は本当かしら」
「さあ、わからないわね」
賢者様が教えてくれた話によると、闇の教団は本気で魔王復活させ世界を闇に包むことを目論んでいる恐ろしい組織だという。教団には大司教がもう一人とさらにトップに闇の法皇が存在するという。
「ジュリエッタは逃げるみたいに修道女を辞めて実家へ戻って行ったけど、無事かしら。何やらマザーヘレンによって修道院から追放されたって噂もあるけど、彼女は何をしたのかしらね」
とエマは笑った。
***
シエラの呪いが解けた夜、眠りにつこうとしている時シエラが私の部屋へやってきた。
「アイネ、ありがとう。……その、体を張って俺の呪いを解いてくれて、本当に感謝しているんだ」
彼ははにかみながらお礼を言った。
ううん、実はたまたまなの。本当は私、シエラとセックスしたかっただけなの……、なんて本心を言ったら、シエラは透き通った青い瞳に動揺の色を浮かべるだろうか。
そう思いながらも私は、
「ううん、聖女として当然のことをしたまでよ」
と微笑みを浮かべた。
「……俺ね、もう冒険へ出ようと思うんだ。やっぱり両親を殺した闇の教団を許せないから、この手で教団を壊滅させたいんだ」
不思議なことに呪いは解かれてもシエラの魔力は残った。つまりシエラの人並外れた剣術や魔術の能力は悪魔の呪いによる能力ではなく、彼が元々生まれ持ったものだったのだ。
「そう……」
彼がここを出て行ってしまうことが寂しくて、私は肩を落とした。
やっぱり彼は呪いを解いてほしくて、私に近づいただけだったんだ。
私だけが彼に恋していただけ。
私は頭が真っ白でなんて声をかけていいかわからなかったが、
「ふふ、元気でね」
とどうにか笑顔を作って見せた。
「いや、あの、そうじゃなくって……」
シエラは顔を真っ赤にして、
「アイネに一緒に来てほしいんだ」
と目を泳がせて言った。
「だめかな……?」
驚きのあまり口元に手を添えて何も言えない私に、彼が尋ねたが、
「ど、どうして?」
と私は驚いて質問を返してしまった。
「俺、この修道院に聖女のうつわがいるって噂を聞いて、すぐにどんな人か見に来たんだ。そしたら聖堂で一人祈るアイネの姿を目にして、なんて凛々しくて美しい人なんだろうと忘れられなくなって……それからずっと好きなんだ」
私は嬉しくて泣いてしまいそうだった。
「俺と一緒に来てくれるよね?」
「もちろんよ……」
彼は私の肩へ手を置いて、優しく唇を重ねた。
修道院の部屋からこの小屋に移るときに持ってきた数冊の本はエマにあげることにした。
本を取りに来たエマに、
「ねえ、会えなくなるなんて寂しいわ。神殿で働かなくてもいいのなら、修道院に戻ればいいのに」
と名残惜しまれた。
聖女になったら国の神殿で仕事をしなければならないと思っていたのに、それは昔の話で今は職業選択の自由があるから困ったときに力を借りるために呼び出されるかもしれないが、普段は好きに生活していいと賢者様が教えてくれた。
あの賢者様は実は旅の人ではなく、神殿に所属する聖女担当者だったのだ。
「ううん、私はもうここを出て行くことに決めたのよ」
困ったようにエマに言うと、
「ふふ、じゃあ説得は無駄ね。アイネは案外頑固だから、一度決めたら曲げないから」
と彼女は言った。
「ねえ、新しい司祭様はどう?」
荷造りをしながら、私はエマに尋ねた。
「とってもお優しい方よ。前の司祭様がまさか闇の教団の大司教、つまり幹部だったなんて、今でも信じられないわ。結局、アイネに命を助けられてそれからやっと傷が治って、私たちに改心を誓った直後に森の中の崖から落ちて事故死してしまったのは、残念だったけどね。闇の教団によって抹殺されたって噂は本当かしら」
「さあ、わからないわね」
賢者様が教えてくれた話によると、闇の教団は本気で魔王復活させ世界を闇に包むことを目論んでいる恐ろしい組織だという。教団には大司教がもう一人とさらにトップに闇の法皇が存在するという。
「ジュリエッタは逃げるみたいに修道女を辞めて実家へ戻って行ったけど、無事かしら。何やらマザーヘレンによって修道院から追放されたって噂もあるけど、彼女は何をしたのかしらね」
とエマは笑った。
***
シエラの呪いが解けた夜、眠りにつこうとしている時シエラが私の部屋へやってきた。
「アイネ、ありがとう。……その、体を張って俺の呪いを解いてくれて、本当に感謝しているんだ」
彼ははにかみながらお礼を言った。
ううん、実はたまたまなの。本当は私、シエラとセックスしたかっただけなの……、なんて本心を言ったら、シエラは透き通った青い瞳に動揺の色を浮かべるだろうか。
そう思いながらも私は、
「ううん、聖女として当然のことをしたまでよ」
と微笑みを浮かべた。
「……俺ね、もう冒険へ出ようと思うんだ。やっぱり両親を殺した闇の教団を許せないから、この手で教団を壊滅させたいんだ」
不思議なことに呪いは解かれてもシエラの魔力は残った。つまりシエラの人並外れた剣術や魔術の能力は悪魔の呪いによる能力ではなく、彼が元々生まれ持ったものだったのだ。
「そう……」
彼がここを出て行ってしまうことが寂しくて、私は肩を落とした。
やっぱり彼は呪いを解いてほしくて、私に近づいただけだったんだ。
私だけが彼に恋していただけ。
私は頭が真っ白でなんて声をかけていいかわからなかったが、
「ふふ、元気でね」
とどうにか笑顔を作って見せた。
「いや、あの、そうじゃなくって……」
シエラは顔を真っ赤にして、
「アイネに一緒に来てほしいんだ」
と目を泳がせて言った。
「だめかな……?」
驚きのあまり口元に手を添えて何も言えない私に、彼が尋ねたが、
「ど、どうして?」
と私は驚いて質問を返してしまった。
「俺、この修道院に聖女のうつわがいるって噂を聞いて、すぐにどんな人か見に来たんだ。そしたら聖堂で一人祈るアイネの姿を目にして、なんて凛々しくて美しい人なんだろうと忘れられなくなって……それからずっと好きなんだ」
私は嬉しくて泣いてしまいそうだった。
「俺と一緒に来てくれるよね?」
「もちろんよ……」
彼は私の肩へ手を置いて、優しく唇を重ねた。
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