【R-18】聖女は悪魔の呪いで一生童貞なイケメン勇者を救いたい【完結】

衣草 薫

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第一章 彼の母代わり

4.泉で見た光景

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 引っ越した小屋は少し古いけれど暮らすには十分だった。
 私とシエラそれぞれの個室と共用のダイニングキッチンがあり、食器など最低限の必要なものは何でも揃っていた。

 一時的に修道院の外へ出たものの、修道女として在籍し教会の敷地内で暮らしているのだから慎ましく生活し、シエラに愛情を注ぐ勤めを果たさなければならない。



 私たちの荷物は少なく、すぐに引っ越し作業は終わったので、

「シエラ、少しお散歩へ行きませんか」

 と誘い、教会の近くの森の中を二人で歩いた。



 小鳥のさえずりが聞こえ、木々の間をリスたちが走って行く。
 長身で細身のシエラが少し猫背で気だるそうに歩く様子に何とも言えない色気を感じた。

 司祭様が言った通り彼は勉強が好きなまじめな男の子だった。
 聖書もよく読んでいて私たちは好きな聖書の言葉について話し合い、すぐに打ち解けることができた。



 彼は孤児院の他の子と同様に、町の冒険者学校へ通っていると司祭様が先日言っていたので、私はそのことを聞いてみた。

「シエラは冒険者学校へ通っているんでしょう、将来は冒険者になりたいの?」

「ええ、できれば勇者になりたいんです」

「すごいわ、自分の体を張って人を助けたいなんて立派ね」

 彼は頬を赤くして急に年相応のあどけない表情でもじもじした。

「アイネさんも立派じゃないですか。僕は他の町にいる時からあなたの噂を聞いていました。聖女になるうつわのシスターだって、しかもその人は孤児院で育った捨て子だって。その話に僕がどれほど励まされたか」

「聖女になるうつわだなんて、そんな。私はただのシスターよ。私のことはアイネって気軽に呼んでね」

 歩いているうちに森の中の泉に出た。
 女神様が泉のふちに腰かけて、ハープを奏でている。

 心地の良い風が吹いて水面がなびき、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえた。
 泉の対岸の木陰で母親が泣いている乳飲み子を抱いていた。

 森の木こりの奥さんとその子供だろう。
 自分の体ごと左右に揺れながら甘い声で子守唄を口ずさみ優しく背中を叩きあやしている。
 なんと微笑ましい光景か。

「ふふ、赤ちゃん。可愛いわね」

 同意を求めてシエラを見ると、闇のような瞳をさらに曇らせて悲しそうな顔でうつむいていた。



 小屋へ帰り一緒に食事をしている間も何だか元気がない。
 孤児院や修道院と変わらずパンとスープとサラダだけの質素な夕食にがっかりしたのだろうか。
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