【BL】カント執事~魔族の主人にアソコを女の子にされて~

衣草 薫

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第六章 連れ去らわれて

37.不気味な乳母車

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 一日中屋敷の中で仕事をしているので、こうやって外に出て、竹ぼうきでザッ、ザッ、ザッ、と無心で落ち葉を掃くのは心地良い。風が吹くたび近くの木々が揺れて、掃いているそばから落ち葉が落ちてくる。
 
「ふぎゃあ……、ふぎゃあぁ……」
 風に乗って赤ん坊の泣き声のようなものが聞こえてきた。

 俺はほうきを動かす手を止めて、声が聞こえた森の方を見た。
 誰もいない。

 辺りはもう暗くなりかけている。
 こんな森の中で赤ん坊の声がするなんておかしい。配達の業者や客人が来ることは時々あるが、赤ん坊を連れた人がわざわざこの屋敷を訪れるなんて俺の知る限りでは今までなかった。

 空耳だろうか? もしかしたら鳥の声だったかもしれない。
 ほうきを動かして門の前の落ち葉を掃いていると、再び赤ん坊の声が聞こえた。

「ふぎゃあ……、おぎゃああ……」
 間違いない。やっぱり人間の赤ん坊がこの付近にいるのだろう。

 俺は門のところへ竹ぼうきを立てかけて、声のする方向へ歩いて行ってみることにした。

 屋敷の門のところには明かりがあるけれど、森の中には街灯はない。
 薄暗くて不気味だ。けれど、俺は気になってこのまま屋敷に引き返そうとは思わなかった。

 赤ん坊の泣き声を頼りに森の小道を歩いて行く。周囲に人の気配はない。けれど赤ん坊の声は確かに聞こえる。
「んぎゃあ……、ふぎゃあ……」

 大きな根っこが張り出した大木の根元に、乳母車が置いてあった。
 鳴き声はあの中から聞こえている。

 どうしてこんな森の中に乳母車が!?
 周りを見るけれど、親らしき人物の姿はどこにもない。
 乳母車だけがぽつんとあるのだ。

 もしかして、誰かが子供をそっと捨てて行ったのだろうか……?
 放っておくわけにもいかず、俺は乳母車の方へ歩いた。

 乳母車は大部分を日よけのホロで覆われていて、離れた位置からは中の様子が見えない。

「ふぎゃああ……、おぎゃああ……」
 乳母車の正面に回り込んで中を覗いた。

「え……?」
 そこに赤ん坊の姿はなかった。クッションの上に小型の無線機がポンと置かれているだけだった。

 誰かのいたずらか!? 一体何の目的で!?
 そう思った瞬間、後ろから何者かに羽交い締めにされた。

「……っ!?」
 叫ぼうとしたが、口元に濡れた布を押し当てられて声が出せない。おまけにその布からは薬みたいな妙なにおいがして、頭がクラッとしたと思った次の瞬間には、俺は意識を失ってしまっていた。
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