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第一章 ダークファントム辺境伯
5.フランシス様からの手紙
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メアリーが俺に代わってトムの銀食器磨きを手伝ってくれたので、俺は誰もいない食堂へ行って手紙の封を開けた。
「ローレンス・ボビンズへ
拝啓 突然お前が屋敷を出て行ったことに、僕は強い憤りと悲しみを感じている。
すぐに呼び戻すようお父様に頼んでいるが、一向に手配をしてくれないから僕がお前に直接手紙を出した次第だ。お前の新しい主人であるダークファントム辺境伯は人食いのバケモノだ。一刻も早くその屋敷から逃げ出して帰って来てくれ。
お前のぬくもりがないと夜も眠れないんだ。
無事に戻って来てくれ。恋しい、愛おしい、僕のローレンス。
敬具
フランシス・ウェルズリー」
ああ、思った通りの展開だ。
体が弱いせいで学校へ通ったり社交の場へ出たりすることができないフランシス様にはご友人が少なく、その寂しさを紛らわすように俺にべったりだったのだ。
フランソワ様は16歳だが、毎晩眠りにつくまでそばにいてほしいと言い、俺はベッドの脇の椅子に座ってフランソワ様が眠るまでその細く白い手を握っていた。
なので急に俺がいなくなって喪失感に苦しむのではないかと心配してはいたのだが……。
激しく苛立ちながらこの手紙を書いているフランソワ様のご様子が、荒々しい筆跡からうかがい知れる。
チリン、チリン……。
吹き抜けの上階の方からベルの音が聞こえた。
書斎でドグマ様が俺を呼んでいるのだ。
手紙を封筒へ戻し、ズボンの後ろポケットへねじ込んで、俺はすぐさま階段を上がってドグマ様の元へ向かった。
「ドグマ様、お呼びでしょうか?」
寝間着のガウンを羽織ったドグマ様がソファーに座っていた。
「こんな時間に呼び立ててすまないね、ローレンス」
「いえ、とんでもないことでございます」
「ワインをもう一本、地下から持ってきてくれるかい?」
先ほど俺が持ってきておいたワインボトルが空になっていた。
「かしこまりました」
空いた瓶を下げつつ、すぐさま地下のワインセラーへ向かった。
階段を降りながら頭に浮かぶのは先ほどの手紙のことだ。
ダークファントム辺境伯は人食いなんかじゃない。優しくていい主人で、ここで楽しく働いているので気にしないでくれと、返事を書いてもフランシス様の性格を考えると納得するはずもなく、また手紙を送って来るだろう。
かといって手紙を返さずにいたら、さらに怒らせることになるだろう。
どうしたものか……。
もう一度文章を読んでみようとズボンのポケットへ手を伸ばした。
しかし先ほど確かにねじ込んだはずの手紙がなくなっていた。
あれ……。おかしいな。
ジャケットの内ポケットやサイドのポケットも全て調べたが、やっぱりない。
「ローレンス・ボビンズへ
拝啓 突然お前が屋敷を出て行ったことに、僕は強い憤りと悲しみを感じている。
すぐに呼び戻すようお父様に頼んでいるが、一向に手配をしてくれないから僕がお前に直接手紙を出した次第だ。お前の新しい主人であるダークファントム辺境伯は人食いのバケモノだ。一刻も早くその屋敷から逃げ出して帰って来てくれ。
お前のぬくもりがないと夜も眠れないんだ。
無事に戻って来てくれ。恋しい、愛おしい、僕のローレンス。
敬具
フランシス・ウェルズリー」
ああ、思った通りの展開だ。
体が弱いせいで学校へ通ったり社交の場へ出たりすることができないフランシス様にはご友人が少なく、その寂しさを紛らわすように俺にべったりだったのだ。
フランソワ様は16歳だが、毎晩眠りにつくまでそばにいてほしいと言い、俺はベッドの脇の椅子に座ってフランソワ様が眠るまでその細く白い手を握っていた。
なので急に俺がいなくなって喪失感に苦しむのではないかと心配してはいたのだが……。
激しく苛立ちながらこの手紙を書いているフランソワ様のご様子が、荒々しい筆跡からうかがい知れる。
チリン、チリン……。
吹き抜けの上階の方からベルの音が聞こえた。
書斎でドグマ様が俺を呼んでいるのだ。
手紙を封筒へ戻し、ズボンの後ろポケットへねじ込んで、俺はすぐさま階段を上がってドグマ様の元へ向かった。
「ドグマ様、お呼びでしょうか?」
寝間着のガウンを羽織ったドグマ様がソファーに座っていた。
「こんな時間に呼び立ててすまないね、ローレンス」
「いえ、とんでもないことでございます」
「ワインをもう一本、地下から持ってきてくれるかい?」
先ほど俺が持ってきておいたワインボトルが空になっていた。
「かしこまりました」
空いた瓶を下げつつ、すぐさま地下のワインセラーへ向かった。
階段を降りながら頭に浮かぶのは先ほどの手紙のことだ。
ダークファントム辺境伯は人食いなんかじゃない。優しくていい主人で、ここで楽しく働いているので気にしないでくれと、返事を書いてもフランシス様の性格を考えると納得するはずもなく、また手紙を送って来るだろう。
かといって手紙を返さずにいたら、さらに怒らせることになるだろう。
どうしたものか……。
もう一度文章を読んでみようとズボンのポケットへ手を伸ばした。
しかし先ほど確かにねじ込んだはずの手紙がなくなっていた。
あれ……。おかしいな。
ジャケットの内ポケットやサイドのポケットも全て調べたが、やっぱりない。
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