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第一章 ダークファントム辺境伯
4.優しい主人
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ダークファントム家の屋敷での俺の仕事はドグマ様のスケジュール管理と書斎の整理整頓、それに他の使用人たちの管理・監督といったところで、他の屋敷の執事の仕事と何も変わらなかった。
ドグマ様はワインがお好きということもあり、地下のワインセラーにはたくさんの高級ワインが保管されていて、そこの管理も任されることになった。
見た目も怖いしなにより魔族ということもあって、俺は書斎にいるドグマ様と二人っきりで一日のほとんどを過ごさなければならないことに最初こそビクビクしていた。
顔には出さないようにしていたが、何かヘマをすればひどい目に遭わされるのではないかと心の底では思って常に細心の注意を払って過ごしていたのだ。
しかし数日もしないうちにドグマ様への恐怖心はすっかりなくなった。ドグマ様は俺が紅茶をお出ししたり、書類を整理したりすりと、その都度丁寧にお礼を言ってくれた。
「ありがとう、ローレンスは気が利くな」
お茶出しや片づけは使用人がして当然の仕事だ。そんなことでお礼を言ってくれる主人には今まで出会ったことがなかった。前の屋敷でも粗相があればすぐに叱責されたが、どんなに完璧にこなしても褒められることも感謝されることも一度もなかった。だから俺はドグマ様の振る舞いに感激し、こんなに優しい主人なら一生お仕えしたいとさえ思った。
***
夜になって仕事が一段落すると、俺はキッチンの隅で銀食器を磨いているトムの仕事を手伝いながら話をするのが日課になっていた。
俺は正直にドグマ様が優しい主人でよかったとトムに話した。
「僕も最初は怖いと思ったんだ、あんなに背が高いし、魔族なんて見たこともなかったからね。大変な屋敷に来ちゃったって思ったでしょう?」
「うん、まあね」
「でも人間の主人よりずっといいよ。ドグマ様はいつもおおらかで、イライラして八つ当たりすることもないからね。僕は前の屋敷でひどい目にあっていたから、それに比べたらここは天国だよ」
この屋敷の使用人たちの感じがいいのは、ストレスがなくのびのびと働いているからなのだろう。
「あっ、ローレンスさん、こちらにいらしたんですね」
キッチンにやって来たメアリーが俺の顔を見て近づいてきた。
「お手紙が来ていますよ」
「手紙? 誰からだろう……?」
渡された封筒には俺の名前が書かれているだけで差出人の名前はなかった。
しかし裏返して、赤い封蝋印の紋章を見るとすぐにフランシス様からの手紙だとわかった。
一体何の用だろうか。
なんだか胸騒ぎがする。
ドグマ様はワインがお好きということもあり、地下のワインセラーにはたくさんの高級ワインが保管されていて、そこの管理も任されることになった。
見た目も怖いしなにより魔族ということもあって、俺は書斎にいるドグマ様と二人っきりで一日のほとんどを過ごさなければならないことに最初こそビクビクしていた。
顔には出さないようにしていたが、何かヘマをすればひどい目に遭わされるのではないかと心の底では思って常に細心の注意を払って過ごしていたのだ。
しかし数日もしないうちにドグマ様への恐怖心はすっかりなくなった。ドグマ様は俺が紅茶をお出ししたり、書類を整理したりすりと、その都度丁寧にお礼を言ってくれた。
「ありがとう、ローレンスは気が利くな」
お茶出しや片づけは使用人がして当然の仕事だ。そんなことでお礼を言ってくれる主人には今まで出会ったことがなかった。前の屋敷でも粗相があればすぐに叱責されたが、どんなに完璧にこなしても褒められることも感謝されることも一度もなかった。だから俺はドグマ様の振る舞いに感激し、こんなに優しい主人なら一生お仕えしたいとさえ思った。
***
夜になって仕事が一段落すると、俺はキッチンの隅で銀食器を磨いているトムの仕事を手伝いながら話をするのが日課になっていた。
俺は正直にドグマ様が優しい主人でよかったとトムに話した。
「僕も最初は怖いと思ったんだ、あんなに背が高いし、魔族なんて見たこともなかったからね。大変な屋敷に来ちゃったって思ったでしょう?」
「うん、まあね」
「でも人間の主人よりずっといいよ。ドグマ様はいつもおおらかで、イライラして八つ当たりすることもないからね。僕は前の屋敷でひどい目にあっていたから、それに比べたらここは天国だよ」
この屋敷の使用人たちの感じがいいのは、ストレスがなくのびのびと働いているからなのだろう。
「あっ、ローレンスさん、こちらにいらしたんですね」
キッチンにやって来たメアリーが俺の顔を見て近づいてきた。
「お手紙が来ていますよ」
「手紙? 誰からだろう……?」
渡された封筒には俺の名前が書かれているだけで差出人の名前はなかった。
しかし裏返して、赤い封蝋印の紋章を見るとすぐにフランシス様からの手紙だとわかった。
一体何の用だろうか。
なんだか胸騒ぎがする。
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