4 / 42
第一章 ダークファントム辺境伯
4.優しい主人
しおりを挟む
ダークファントム家の屋敷での俺の仕事はドグマ様のスケジュール管理と書斎の整理整頓、それに他の使用人たちの管理・監督といったところで、他の屋敷の執事の仕事と何も変わらなかった。
ドグマ様はワインがお好きということもあり、地下のワインセラーにはたくさんの高級ワインが保管されていて、そこの管理も任されることになった。
見た目も怖いしなにより魔族ということもあって、俺は書斎にいるドグマ様と二人っきりで一日のほとんどを過ごさなければならないことに最初こそビクビクしていた。
顔には出さないようにしていたが、何かヘマをすればひどい目に遭わされるのではないかと心の底では思って常に細心の注意を払って過ごしていたのだ。
しかし数日もしないうちにドグマ様への恐怖心はすっかりなくなった。ドグマ様は俺が紅茶をお出ししたり、書類を整理したりすりと、その都度丁寧にお礼を言ってくれた。
「ありがとう、ローレンスは気が利くな」
お茶出しや片づけは使用人がして当然の仕事だ。そんなことでお礼を言ってくれる主人には今まで出会ったことがなかった。前の屋敷でも粗相があればすぐに叱責されたが、どんなに完璧にこなしても褒められることも感謝されることも一度もなかった。だから俺はドグマ様の振る舞いに感激し、こんなに優しい主人なら一生お仕えしたいとさえ思った。
***
夜になって仕事が一段落すると、俺はキッチンの隅で銀食器を磨いているトムの仕事を手伝いながら話をするのが日課になっていた。
俺は正直にドグマ様が優しい主人でよかったとトムに話した。
「僕も最初は怖いと思ったんだ、あんなに背が高いし、魔族なんて見たこともなかったからね。大変な屋敷に来ちゃったって思ったでしょう?」
「うん、まあね」
「でも人間の主人よりずっといいよ。ドグマ様はいつもおおらかで、イライラして八つ当たりすることもないからね。僕は前の屋敷でひどい目にあっていたから、それに比べたらここは天国だよ」
この屋敷の使用人たちの感じがいいのは、ストレスがなくのびのびと働いているからなのだろう。
「あっ、ローレンスさん、こちらにいらしたんですね」
キッチンにやって来たメアリーが俺の顔を見て近づいてきた。
「お手紙が来ていますよ」
「手紙? 誰からだろう……?」
渡された封筒には俺の名前が書かれているだけで差出人の名前はなかった。
しかし裏返して、赤い封蝋印の紋章を見るとすぐにフランシス様からの手紙だとわかった。
一体何の用だろうか。
なんだか胸騒ぎがする。
ドグマ様はワインがお好きということもあり、地下のワインセラーにはたくさんの高級ワインが保管されていて、そこの管理も任されることになった。
見た目も怖いしなにより魔族ということもあって、俺は書斎にいるドグマ様と二人っきりで一日のほとんどを過ごさなければならないことに最初こそビクビクしていた。
顔には出さないようにしていたが、何かヘマをすればひどい目に遭わされるのではないかと心の底では思って常に細心の注意を払って過ごしていたのだ。
しかし数日もしないうちにドグマ様への恐怖心はすっかりなくなった。ドグマ様は俺が紅茶をお出ししたり、書類を整理したりすりと、その都度丁寧にお礼を言ってくれた。
「ありがとう、ローレンスは気が利くな」
お茶出しや片づけは使用人がして当然の仕事だ。そんなことでお礼を言ってくれる主人には今まで出会ったことがなかった。前の屋敷でも粗相があればすぐに叱責されたが、どんなに完璧にこなしても褒められることも感謝されることも一度もなかった。だから俺はドグマ様の振る舞いに感激し、こんなに優しい主人なら一生お仕えしたいとさえ思った。
***
夜になって仕事が一段落すると、俺はキッチンの隅で銀食器を磨いているトムの仕事を手伝いながら話をするのが日課になっていた。
俺は正直にドグマ様が優しい主人でよかったとトムに話した。
「僕も最初は怖いと思ったんだ、あんなに背が高いし、魔族なんて見たこともなかったからね。大変な屋敷に来ちゃったって思ったでしょう?」
「うん、まあね」
「でも人間の主人よりずっといいよ。ドグマ様はいつもおおらかで、イライラして八つ当たりすることもないからね。僕は前の屋敷でひどい目にあっていたから、それに比べたらここは天国だよ」
この屋敷の使用人たちの感じがいいのは、ストレスがなくのびのびと働いているからなのだろう。
「あっ、ローレンスさん、こちらにいらしたんですね」
キッチンにやって来たメアリーが俺の顔を見て近づいてきた。
「お手紙が来ていますよ」
「手紙? 誰からだろう……?」
渡された封筒には俺の名前が書かれているだけで差出人の名前はなかった。
しかし裏返して、赤い封蝋印の紋章を見るとすぐにフランシス様からの手紙だとわかった。
一体何の用だろうか。
なんだか胸騒ぎがする。
92
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?



転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる