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第一章 ダークファントム辺境伯
3.ヴァイオリン
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「ドグマ様は一人でこの屋敷に暮らしているのかい?」
部屋で荷解きを手伝ってくれているトムに尋ねた。
「うん、ドグマ様は修行のために魔界からこちらにいらしているんだ。屋敷の中の者以外と会うときは魔法で人間の姿になっているからドグマ様が魔族ということは内緒なんだよ」
「魔法!? ドグマ様は魔法が使えるのかい!?」
「そりゃ、魔族だからね」
魔界に魔族に魔法と、なんとも現実離れした言葉にめまいを感じる。
隙を見てここから逃げてしまおうか。けれど、使用人として屋敷から逃げ出すのはあってはならないことだ。ここから逃げたところでウェルズリー伯爵の屋敷へ戻ることなんて許されないし、別の貴族の元で執事として働くこともできないだろう。
その夜、メイドのメアリーが中心となって、屋敷の使用人を集めてキッチンのテーブルで俺の歓迎会を開いてくれた。シェフのモーガンが「ダークファントム辺境伯の屋敷へようこそ」と書かれたケーキまで用意してくれていたのだ。
庭師や料理人たち、それにメイドたちも、この屋敷の使用人はみんな感じがよく、俺のことを心から歓迎してくれていた。
俺は感激して、なにかお礼をしたいと思った。屋敷の廊下に飾られていたヴァイオリンを借りてもいいかとメアリーに許可をもらって、みんなの前で一曲弾いてみせた。
曲が終わると全員で拍手してくれた。心から俺の演奏を楽しんでくれたようで嬉しかった。
「すごいや。古い飾り物のヴァイオリンがこんなにいい音色を出すなんて……」
トムがキラキラした目で俺を見つめていた。
「とてもお上手。ヴァイオリンもバトラーアカデミーで習われたんですか?」
メアリーも俺に笑顔を向けていた。
「いえ、以前お仕えしていたお屋敷のお坊ちゃまが習われているのを、おそばで見ているうちに覚えてしまって」
「まぁ、器用なのね」
そう、ヴァイオリンを習われていたのはウェルズリー伯爵家の一番末のご子息であるフランシス様だった。
ウェルズリー家で執事をしている間はフランシス様に気に入られ、俺は常にフランシス様の一番おそばでお世話をしていた。
生まれつき体が弱く一日中ベッドで寝ていることも多かったフランシス様は貴族学校も休みがちで、屋敷に家庭教師を招いて勉強されたりヴァイオリンを習われたりしていたのだ。
フランシス様は今頃どうしているだろうか……。
急にお屋敷を出ることになってしまい、最後に挨拶もせずに来てしまったことを少しだけ後悔している。
部屋で荷解きを手伝ってくれているトムに尋ねた。
「うん、ドグマ様は修行のために魔界からこちらにいらしているんだ。屋敷の中の者以外と会うときは魔法で人間の姿になっているからドグマ様が魔族ということは内緒なんだよ」
「魔法!? ドグマ様は魔法が使えるのかい!?」
「そりゃ、魔族だからね」
魔界に魔族に魔法と、なんとも現実離れした言葉にめまいを感じる。
隙を見てここから逃げてしまおうか。けれど、使用人として屋敷から逃げ出すのはあってはならないことだ。ここから逃げたところでウェルズリー伯爵の屋敷へ戻ることなんて許されないし、別の貴族の元で執事として働くこともできないだろう。
その夜、メイドのメアリーが中心となって、屋敷の使用人を集めてキッチンのテーブルで俺の歓迎会を開いてくれた。シェフのモーガンが「ダークファントム辺境伯の屋敷へようこそ」と書かれたケーキまで用意してくれていたのだ。
庭師や料理人たち、それにメイドたちも、この屋敷の使用人はみんな感じがよく、俺のことを心から歓迎してくれていた。
俺は感激して、なにかお礼をしたいと思った。屋敷の廊下に飾られていたヴァイオリンを借りてもいいかとメアリーに許可をもらって、みんなの前で一曲弾いてみせた。
曲が終わると全員で拍手してくれた。心から俺の演奏を楽しんでくれたようで嬉しかった。
「すごいや。古い飾り物のヴァイオリンがこんなにいい音色を出すなんて……」
トムがキラキラした目で俺を見つめていた。
「とてもお上手。ヴァイオリンもバトラーアカデミーで習われたんですか?」
メアリーも俺に笑顔を向けていた。
「いえ、以前お仕えしていたお屋敷のお坊ちゃまが習われているのを、おそばで見ているうちに覚えてしまって」
「まぁ、器用なのね」
そう、ヴァイオリンを習われていたのはウェルズリー伯爵家の一番末のご子息であるフランシス様だった。
ウェルズリー家で執事をしている間はフランシス様に気に入られ、俺は常にフランシス様の一番おそばでお世話をしていた。
生まれつき体が弱く一日中ベッドで寝ていることも多かったフランシス様は貴族学校も休みがちで、屋敷に家庭教師を招いて勉強されたりヴァイオリンを習われたりしていたのだ。
フランシス様は今頃どうしているだろうか……。
急にお屋敷を出ることになってしまい、最後に挨拶もせずに来てしまったことを少しだけ後悔している。
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