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2.呪われた王子
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翌朝、辺りが明るくなると昨日あれだけ道に迷っていたことが嘘のように難なく国境を越え、昼頃には目的のレイバーン王国へ到着した。
私たちはまず食堂でシチューとパンを食べ、宿屋が立ち並ぶ路地で滞在する宿を予約した。
「俺は聖剣を探すために洞窟へ行くけど、アイネはどうする?」
「そうね、私はこの国の教会へ行ってみようかしら」
シエラの付き添いで旅に出ることを賢者様に相談したら、それなら各地の教会を巡って、悩める人々の力になるといいとアドバイスをされたのだ。
夕暮れまでに宿へ帰ることを約束して、シエラは地図を持って町外れの方向へ歩いて行った。私は町の中の教会を探して歩いてみることにした。
「あの、失礼ですがっ!……」
どこからか走って来たのであろう、切らした息を整えながら身なりのきれいな初老の男性が話しかけてきた。
「もしかしてあなたは、聖女様ではございませんか?」
「え? ええ。私はアイネと申します」
「やっぱりそうでしたか。お噂はかねがね聞いておりまして。この国にはあなた様のお力が必要なお方がいるのです」
彼は私が関所を通る際に聖女だと知った役人から連絡をもらい、急いで私を探しに来たのだという。
「わたくしはある家の召し使いでオリバーと申します」
オリバーがあまりに必死に頼むので、私は彼についていくことにした。歩きながら尋ねると、私の力を必要としているのはオリバーの仕える家の長男だという。
「その方はご病気か何かですか?」
オリバーは明言を避け、
「とにかく一緒に来てください。詳しい説明は後程いたします」
と言った。
私はオリバーに案内された家を見て驚いてしまった。
「え、ここって!?」
それはレイバーン王国の国王一家の暮らすお城だった。
「ってことは、ご長男ってもしかして?」
「はい、この国の王太子であります、ダニエル王子でございます」
どうして今まで気が付かなかったのか、よく見るとオリバーの服の胸元には王国のエンブレムが入っている。
甲冑を着た守衛のいる立派な門をくぐり、よく手入れされた広い庭を通った。孤児だった私がこんなきらびやかな場所に入るなんて初めてで、少し緊張しながらオリバーに連れられお城の中へ足を踏み入れた。
玄関の間を抜け、絨毯敷きの大階段を上がり、一室のドアの前で立ち止まったオリバーは、その扉をノックした。
「ダニエル様、オリバーでございます。聖女様をお連れ致しました」
「うん、入れば?」
中から返事が聞こえドアを開けると、高級そうな家具の並ぶ豪華な部屋の中に一人の背の高い青年がいた。
金髪の長い髪を後ろで束ね、絵の具で汚れた生成りのエプロンをかけ、美しい絨毯が汚れるのも構わずキャンバスに向かって夢中で筆を走らせている。
「坊ちゃん、お客様ですと申しておるのですがっ!」
オリバーが大声で言うと、やっと青年はキャンバスからこちらへ視線を向けた。
「坊ちゃんって呼ぶなって言ってるじゃん。俺、もういい大人だぜ?」
暗い陰の入った緑の瞳が私を捉えた。
その瞳を見た瞬間、私は出会った頃のシエラを思い出した。
……もしかして、この人も呪われている?
「誰この子? 女の子がこの部屋に来るなんて珍しいや。俺の絵のモデルになってよ!」
青年はニコニコしながら寄って来た。
私たちはまず食堂でシチューとパンを食べ、宿屋が立ち並ぶ路地で滞在する宿を予約した。
「俺は聖剣を探すために洞窟へ行くけど、アイネはどうする?」
「そうね、私はこの国の教会へ行ってみようかしら」
シエラの付き添いで旅に出ることを賢者様に相談したら、それなら各地の教会を巡って、悩める人々の力になるといいとアドバイスをされたのだ。
夕暮れまでに宿へ帰ることを約束して、シエラは地図を持って町外れの方向へ歩いて行った。私は町の中の教会を探して歩いてみることにした。
「あの、失礼ですがっ!……」
どこからか走って来たのであろう、切らした息を整えながら身なりのきれいな初老の男性が話しかけてきた。
「もしかしてあなたは、聖女様ではございませんか?」
「え? ええ。私はアイネと申します」
「やっぱりそうでしたか。お噂はかねがね聞いておりまして。この国にはあなた様のお力が必要なお方がいるのです」
彼は私が関所を通る際に聖女だと知った役人から連絡をもらい、急いで私を探しに来たのだという。
「わたくしはある家の召し使いでオリバーと申します」
オリバーがあまりに必死に頼むので、私は彼についていくことにした。歩きながら尋ねると、私の力を必要としているのはオリバーの仕える家の長男だという。
「その方はご病気か何かですか?」
オリバーは明言を避け、
「とにかく一緒に来てください。詳しい説明は後程いたします」
と言った。
私はオリバーに案内された家を見て驚いてしまった。
「え、ここって!?」
それはレイバーン王国の国王一家の暮らすお城だった。
「ってことは、ご長男ってもしかして?」
「はい、この国の王太子であります、ダニエル王子でございます」
どうして今まで気が付かなかったのか、よく見るとオリバーの服の胸元には王国のエンブレムが入っている。
甲冑を着た守衛のいる立派な門をくぐり、よく手入れされた広い庭を通った。孤児だった私がこんなきらびやかな場所に入るなんて初めてで、少し緊張しながらオリバーに連れられお城の中へ足を踏み入れた。
玄関の間を抜け、絨毯敷きの大階段を上がり、一室のドアの前で立ち止まったオリバーは、その扉をノックした。
「ダニエル様、オリバーでございます。聖女様をお連れ致しました」
「うん、入れば?」
中から返事が聞こえドアを開けると、高級そうな家具の並ぶ豪華な部屋の中に一人の背の高い青年がいた。
金髪の長い髪を後ろで束ね、絵の具で汚れた生成りのエプロンをかけ、美しい絨毯が汚れるのも構わずキャンバスに向かって夢中で筆を走らせている。
「坊ちゃん、お客様ですと申しておるのですがっ!」
オリバーが大声で言うと、やっと青年はキャンバスからこちらへ視線を向けた。
「坊ちゃんって呼ぶなって言ってるじゃん。俺、もういい大人だぜ?」
暗い陰の入った緑の瞳が私を捉えた。
その瞳を見た瞬間、私は出会った頃のシエラを思い出した。
……もしかして、この人も呪われている?
「誰この子? 女の子がこの部屋に来るなんて珍しいや。俺の絵のモデルになってよ!」
青年はニコニコしながら寄って来た。
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