【R-18】僕のえっちな狼さん

衣草 薫

文字の大きさ
上 下
47 / 48
第六章 本音

47.信頼

しおりを挟む
 気がついたら、僕は白い部屋のベッドで寝ていた。どうやらここは病院のようだ。
 よかった、生きているんだ。シャンは!?

 そう思って周囲を見回すと、すぐ近くの椅子に座って壁に寄りかかるシャンの姿があった。うとうとと眠っている顔は、目から下を布で覆っているいつもの豚人のシャンだった。

「あ、気がついたんですね」
 看護師さんが声をかけてきて、シャンもはっと目を開けてこちらを見た。

「タクヤッ! よかった……」
「シャン、無事だったの!? クレス卿は!?」

「周りにいた人が、取り押さえてくれたんだ。俺たちはあれから病院に運ばれて、俺はすぐに回復したんだけど、タクヤが3日も目を覚まさないからずいぶん心配したんだよ」
「すっとそばにいてくれたんだね……」
 よかった、僕もシャンも無事で。


 それから数日して、僕は退院した。シャンと共に森の家へ歩いて帰った。
 歩きながらシャンはクレス卿が殺人未遂の罪で捕らえられたと教えてくれた。穏やかなこの世界では殺人事件なんて滅多に起こらないから、殺人未遂はとんでもなく罪が重いらしい。

「クレス卿は島流しの刑になることが決まったんだよ。たぶんもうこの町に戻ってくることはないよ」
 これでもうシャンが危険な目に遭うことはないと思うと安心だ。
 でも神様が本当は僕がクレス卿の妻になる運命だったと言っていたことを思い出して僕の心はチクリと痛んだ。なんだかクレス卿に悪いことをした気分だ。

「タクヤ……、俺なんかのためにけがをさせてしまって……」
「俺なんかなんて言わないで。僕はシャンが大事だから、あのとき夢中で……」
 シャンが刺されてしまうと思ったとき体が勝手に動いていたんだ。

「……ありがとう」
 シャンは照れくさそうに頬を赤くして僕にそう言った。僕はやっぱりシャンが好きだ。

 僕は服の上からお腹の短剣が刺さった部分に触れた。
「痛むの?」
「ううん、もうほとんど大丈夫だよ」

 もちろんまだ完全には治っていないけど日常生活には支障がないほど回復している。こっちへ転生した当初よりは痩せてきたとはいえ、まだまだ僕のお腹はぽってりと贅肉がついている。その分厚い脂肪の層のおかげで僕は生きていられたのだから太っていたことに感謝だ。

 あ、と何かを思い出してシャンが言った。
「そういえばクレス卿は俺のことをグレゴリーさんの鶏を襲った犯人だとして警官たちをうちへ連れて来たことがあったじゃない?」
「うん、そんなこともあったね」

「実はあの夜、グレゴリーさんの鶏を襲ったのはクレス卿だったんだ」
「え、それってシャンに罪をなすり付けようとしたってこと?」
「うん、クレス卿が獄中で激白したんだ」

 やっぱりとんでもない男だ。けど、僕はシャンが犯人じゃないって確信していなかった。
 何があってもシャンの味方でいようとは思っていたけど、僕は今までシャンを心から信じていなかったんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。 どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。 そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。 ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。 スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。 ※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!

処理中です...