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第六章 本音
44.劇場の火事
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天井を見ながらはあはあ息を整えていた。激しい絶頂の余韻で頭がぼーっとしていたところに、外からサイレンの音が聞こえた。
シャンがホテルの部屋のカーテンを開けて外を見た。
外はもう暗かった。闇の中ですぐ近くの劇場から炎が上がっているのがベッドで寝転ぶ僕にも見えた。火事だ。
「放して、まだ中に子供がっ!」
悲鳴が聞こえてきた。
「消防車呼んだのかな?」
心配になって僕はシャンに尋ねた
「こんな細い道に消防車なんて入って来られるもんか」
狼のままのシャンが急いで服を着ている。
「え、どうしたの? どこへ行くの?」
「うるせえ、俺の勝手だ」
もしかしてこのホテルにも燃え移ると大変だから逃げる準備だろうか。
僕も服を着ておこう……ともたもたシャツのボタンをかけている間にもシャンは勢いよく部屋の外へ飛び出した。
「待って、シャン、そんな格好で外へ出ちゃまずいんじゃない」
豚人が暮らす町に狼が出たらきっと大変な騒ぎになるだろう。この前だってクレス卿が警官を引きつれて鶏を襲った犯人として狼の姿のシャンを捕えに来たのだから。この町では狼が悪者なんだろう。
どんくさい僕は服を着るのに手間取っていて、仕方なく窓から外を見た。シャンを追いかけるためにどっちへ行ったか知っておく必要があった。
火事の騒ぎで集まった野次馬たちがシャンを見て、
「狼人だ」
「醜いバケモノがいるぞ」
と石を投げつけた。
シャンは彼らに構わず、通りの井戸で水を汲み上げ、服を着たまま頭からバシャンッと水をかぶった。
まさか……と思っているうちに彼はためらうことなく燃え盛る建物の中へ入って行った。
「嘘……っ!?」
周りでシャンを罵倒して石を投げつけていた小太りたちは呆気に取られていた。
ようやく服を着られた僕がホテルの外に出た頃に、消防隊が到着して炎の上がる劇場の建物へホースで放水を始めた。
「中に人がいるんです! 早く助けてください」
僕は隊員へ訴えた。
「うちの子もっ!」
さっきから叫んでいる人も隊員に泣きついた。
「助けることなんてない。中に入ったのは人じゃなくてバケモンだ」
誰かが後ろでそう言った。
ひどい。シャンは子供を助けるために自ら火の中へ飛び込んで行ったのに。
「むしろ出口を塞いでバケモノを焼き殺せ」
「な、なんてことを! 彼はバケモノなんかじゃないっ!」
心ない一言にカチンときて、僕は大声で叫んだ。
彼は子供を助けに行っているというのに。結局、世の中は見た目で人を判断するばかりだ。
周りの人々は僕から目を背けて黙り込んだ。
「なんでもいいから、とにかく、うちの子を助けてっ!」
シャンがホテルの部屋のカーテンを開けて外を見た。
外はもう暗かった。闇の中ですぐ近くの劇場から炎が上がっているのがベッドで寝転ぶ僕にも見えた。火事だ。
「放して、まだ中に子供がっ!」
悲鳴が聞こえてきた。
「消防車呼んだのかな?」
心配になって僕はシャンに尋ねた
「こんな細い道に消防車なんて入って来られるもんか」
狼のままのシャンが急いで服を着ている。
「え、どうしたの? どこへ行くの?」
「うるせえ、俺の勝手だ」
もしかしてこのホテルにも燃え移ると大変だから逃げる準備だろうか。
僕も服を着ておこう……ともたもたシャツのボタンをかけている間にもシャンは勢いよく部屋の外へ飛び出した。
「待って、シャン、そんな格好で外へ出ちゃまずいんじゃない」
豚人が暮らす町に狼が出たらきっと大変な騒ぎになるだろう。この前だってクレス卿が警官を引きつれて鶏を襲った犯人として狼の姿のシャンを捕えに来たのだから。この町では狼が悪者なんだろう。
どんくさい僕は服を着るのに手間取っていて、仕方なく窓から外を見た。シャンを追いかけるためにどっちへ行ったか知っておく必要があった。
火事の騒ぎで集まった野次馬たちがシャンを見て、
「狼人だ」
「醜いバケモノがいるぞ」
と石を投げつけた。
シャンは彼らに構わず、通りの井戸で水を汲み上げ、服を着たまま頭からバシャンッと水をかぶった。
まさか……と思っているうちに彼はためらうことなく燃え盛る建物の中へ入って行った。
「嘘……っ!?」
周りでシャンを罵倒して石を投げつけていた小太りたちは呆気に取られていた。
ようやく服を着られた僕がホテルの外に出た頃に、消防隊が到着して炎の上がる劇場の建物へホースで放水を始めた。
「中に人がいるんです! 早く助けてください」
僕は隊員へ訴えた。
「うちの子もっ!」
さっきから叫んでいる人も隊員に泣きついた。
「助けることなんてない。中に入ったのは人じゃなくてバケモンだ」
誰かが後ろでそう言った。
ひどい。シャンは子供を助けるために自ら火の中へ飛び込んで行ったのに。
「むしろ出口を塞いでバケモノを焼き殺せ」
「な、なんてことを! 彼はバケモノなんかじゃないっ!」
心ない一言にカチンときて、僕は大声で叫んだ。
彼は子供を助けに行っているというのに。結局、世の中は見た目で人を判断するばかりだ。
周りの人々は僕から目を背けて黙り込んだ。
「なんでもいいから、とにかく、うちの子を助けてっ!」
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