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第四章 再びの満月
35.シャンのピンチ
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シャンを助けなきゃ。警官たちを止めたいのに、クレス卿は僕の腕を掴んで放してくれない。
「放してっ!」
「嫌だよ、俺はやっとバケモノにさらわれた姫を助けに来られたんだから」
暗い部屋の中を僕のつけたランタンの明かりが灯っているベッドの方へ向かって警官たちが進んで行く。
彼らは十分に警戒しながら慎重にベッドの両脇を取り囲んで、目で合図し合い、シャンの被っているタオルケットをバッとめくった。
「ダ、ダメッ……!」
狼の姿のシャンを見られたら撃ち殺される。僕は叫んだ。
身構えたのに、いつまで経っても銃声は響かない。
警官たちは玄関の外へ出てきた。シャンを連れている様子はない。
「バケモノはっ!? なぜ、捕まえないんですっ!」
僕より先にクレス卿が取り乱して叫んだ。
警官二人が目を合わせて肩を落とした。
「……バケモノじゃないじゃないですか?」
「え、そんなはずは……俺が窓から覗き見たとき、奴は噂通り恐ろしいバケモノと化していたのに……」
「バケモノ? 確かに風変わりな見てくれですが、それで逮捕はできませんよ。あなたがこの家に住む者が肉食獣だと言うから我々は来たのに……とんだ無駄足でした」
一体どうなっているのか。クレス卿と僕は家の中のベッドへ近づいた。
すうすう眠っているシャンは、狼人ではなく豚人のシャンだった。寝ている間に普段の姿に戻ったのか。
「うぐぐ……憎きこいつを牢屋へぶち込んでハニーを取り戻すチャンスだったのに……。仕方ない、また機会を狙おう……」
ポケットからクッキーを取り出してガリガリ、むしゃむしゃ食べながらクレス卿が呟いた。
「じゃあ我々はこれで」
「捜査に協力ありがとうございました」
警官二人は帰って行こうとした。
「待ってください、お巡りさんっ! 覗き見の容疑でこの人を捕まえてくださいっ!」
僕はクレス卿の腕を掴んだ。
「な、なんだって!? なんてこと言うんだい、マイハニー」
さっきクレス卿は自分から僕たちの家を覗き見ていたと言っていた。僕はその事実にゾッとしたのだ。
「僕の大事な恋人をバケモノ呼ばわりしたし、うちを覗くし、気持ち悪いんです、このおっさん!」
勇気を振り絞って警官たちに訴えた。
「我々が聞いてきた話と違いますね」
「えっと、あなたはこのクレス卿の許婚では……?」
「許婚……!? 冗談じゃありません! 僕には家の中のベッドで寝ているシャンという恋人がいますからっ!」
警官に疑いの眼差しを向けられたクレス卿はまずい……と苦笑いした。
目を覚ましたシャンがズボンを穿いて、眠そうに目を擦りながら家の外へ出てきた。
「タクヤ……、何の騒ぎだい?」
ガシャンと手錠をかけられてクレス卿が警官たちに連れて行かれた。
「そんなブサイクで瘦せっぽちな男を好きだなんてどうかしているよ、ハニー。目を覚ましてっ! 俺は君を諦めないよっ!」
クレス卿がシャンを捕まえてほしいと警官を連れて来たけど、説明の途中でクレス卿がうちを覗いていたという墓穴を掘ったことをシャンに説明した。
「実は途中から聞いていたんだ」
シャンはニヤニヤと照れ笑っていた。
「えっ、どこから聞いていたの?」
みんながシャンのことをバケモノ呼ばわりしていたのがシャンに聞こえてしまったのかと僕はヒヤヒヤした。
「タクヤが俺のことを、大事な恋人って言ってくれたところから……」
僕はかあぁっと全身が熱くなり、汗が噴き出した。
「嬉しかったなぁ……」
シャンが心底幸せそうに、愛らしい笑みを浮かべた。
「放してっ!」
「嫌だよ、俺はやっとバケモノにさらわれた姫を助けに来られたんだから」
暗い部屋の中を僕のつけたランタンの明かりが灯っているベッドの方へ向かって警官たちが進んで行く。
彼らは十分に警戒しながら慎重にベッドの両脇を取り囲んで、目で合図し合い、シャンの被っているタオルケットをバッとめくった。
「ダ、ダメッ……!」
狼の姿のシャンを見られたら撃ち殺される。僕は叫んだ。
身構えたのに、いつまで経っても銃声は響かない。
警官たちは玄関の外へ出てきた。シャンを連れている様子はない。
「バケモノはっ!? なぜ、捕まえないんですっ!」
僕より先にクレス卿が取り乱して叫んだ。
警官二人が目を合わせて肩を落とした。
「……バケモノじゃないじゃないですか?」
「え、そんなはずは……俺が窓から覗き見たとき、奴は噂通り恐ろしいバケモノと化していたのに……」
「バケモノ? 確かに風変わりな見てくれですが、それで逮捕はできませんよ。あなたがこの家に住む者が肉食獣だと言うから我々は来たのに……とんだ無駄足でした」
一体どうなっているのか。クレス卿と僕は家の中のベッドへ近づいた。
すうすう眠っているシャンは、狼人ではなく豚人のシャンだった。寝ている間に普段の姿に戻ったのか。
「うぐぐ……憎きこいつを牢屋へぶち込んでハニーを取り戻すチャンスだったのに……。仕方ない、また機会を狙おう……」
ポケットからクッキーを取り出してガリガリ、むしゃむしゃ食べながらクレス卿が呟いた。
「じゃあ我々はこれで」
「捜査に協力ありがとうございました」
警官二人は帰って行こうとした。
「待ってください、お巡りさんっ! 覗き見の容疑でこの人を捕まえてくださいっ!」
僕はクレス卿の腕を掴んだ。
「な、なんだって!? なんてこと言うんだい、マイハニー」
さっきクレス卿は自分から僕たちの家を覗き見ていたと言っていた。僕はその事実にゾッとしたのだ。
「僕の大事な恋人をバケモノ呼ばわりしたし、うちを覗くし、気持ち悪いんです、このおっさん!」
勇気を振り絞って警官たちに訴えた。
「我々が聞いてきた話と違いますね」
「えっと、あなたはこのクレス卿の許婚では……?」
「許婚……!? 冗談じゃありません! 僕には家の中のベッドで寝ているシャンという恋人がいますからっ!」
警官に疑いの眼差しを向けられたクレス卿はまずい……と苦笑いした。
目を覚ましたシャンがズボンを穿いて、眠そうに目を擦りながら家の外へ出てきた。
「タクヤ……、何の騒ぎだい?」
ガシャンと手錠をかけられてクレス卿が警官たちに連れて行かれた。
「そんなブサイクで瘦せっぽちな男を好きだなんてどうかしているよ、ハニー。目を覚ましてっ! 俺は君を諦めないよっ!」
クレス卿がシャンを捕まえてほしいと警官を連れて来たけど、説明の途中でクレス卿がうちを覗いていたという墓穴を掘ったことをシャンに説明した。
「実は途中から聞いていたんだ」
シャンはニヤニヤと照れ笑っていた。
「えっ、どこから聞いていたの?」
みんながシャンのことをバケモノ呼ばわりしていたのがシャンに聞こえてしまったのかと僕はヒヤヒヤした。
「タクヤが俺のことを、大事な恋人って言ってくれたところから……」
僕はかあぁっと全身が熱くなり、汗が噴き出した。
「嬉しかったなぁ……」
シャンが心底幸せそうに、愛らしい笑みを浮かべた。
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