【R-18】僕のえっちな狼さん

第四章 再びの満月

２９．一人の夜

　考えてみれば、こっちの世界に来てから夜、一人で過ごすなんて初めてだ。
　いつもそばにシャンがいてくれたから。

　シャンはどうしているだろう……。

　豚人のシャンは僕とイチャイチャするけど、挿入はしない。だから僕はシャンとセックスできるこの夜を楽しみにしていたのだけど……。
　シャンはそんなこと思っていないのだろうか。

　そもそも僕のことなんて愛していないんじゃないだろうか。
　だって、彼のようなイケメンとデブの僕が結ばれるなんて、どう考えてもおかしい。
　もしかして相思相愛だと思ったのは僕の勘違いなんじゃないだろうか。

　前の世界で桜庭先輩から罰ゲームで告白されたときのことを思い出して、心が凍り付いた。

　ああ、変なこと思い出しちゃった……。暗い天井を見ているとどんどんネガティブな気持ちになってくる。

　過去の嫌だったことを考えるのはもうやめよう。前の世界とこっちの世界では全然価値観が違うんだ。僕はこっちの世界ではモテモテなんだ。

　シャンだって僕のことを大事に思ってくれているし、愛してくれている。僕のことを大事に思っているからこそ、朝まで出かけることにしたのだろう。

　わかっているけど、なんかそれって寂しい。
　僕はいつだってシャンのそばにいたいのに……。シャンはそうじゃないのかな？

　このままシャンがどこか遠くへ行ってもう二度と会えなくなってしまうんじゃないか。
　僕はシャンから信頼されてないのかも……。

　シャンが僕のそばにいてくれるのって、バラの求婚男クレス卿から追われていた僕を連れ去るようにここへ連れて来てしまった義務感のようなものだったりして。
　前の世界で両親が僕のことを嫌いながらも、仕方なく養育してくれていたように……。

　ああ、また嫌なこと思い出しちゃった。


　翌朝早く、家の外の落ち葉を踏む足音が聞こえてきて、僕は目を覚ました。
　寝ている僕に気を使ってくれているのだろう、静かにゆっくりと玄関のドアが開いた音がした。

「……シャンッ！？」
　ベッドから飛び起きて、玄関を見た。
　やっぱりシャンだ。よかった、無事に帰ってきてくれて。

「ごめん、起こしちゃった？」
　僕は何も言わずに、その体へ抱きついた。

「タクヤ……」
　少し驚いていたシャンも僕の背中へ腕を回して、僕を強く抱きしめてくれた。

　肩口に顔を埋めて彼の爽やかな匂いを嗅いだら、昨夜あれだけ悩んでいたのが嘘のようにすっきりした気持ちになった。自分は信頼されていないんじゃないかとか、シャンが僕と一緒にいるのは義務としてなんじゃないかとか、そういうモヤモヤがさっぱり消えた。

　僕がシャンと一緒にいたいからいる。それだけでいいじゃないかと思える。

「……帰って来てくれてよかった」