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第四章 再びの満月

28.クマの正体

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「なんだ、お前さん、シャンのとこのべっぴんさんかい……」
 クマの雄たけびではなく、聞いたことのある声がした。

「えっ……?」
 目を凝らしてよく見ると、茂みから出てきたのはクマではなく以前シャンが掛金を譲ってもらっていた大男だった。

「アルバートさん……」
 安堵して僕は情けない声を出した。
 それと同時に腰を抜かして地べたにへたり込んでいた僕の股がじっとりと湿った。
「あっ……」
 極度の緊張から一気に脱力したので、僕はおしっこを漏らしてしまったのだ。

 いくら僕がどんくさい人間とはいえ、いい歳してお漏らししたなんて恥ずかしい。
 そう思いながらも暗くてバレないだろうと、ゆっくり立ち上がった。
「……こんなところで何をしているんですか?」

 アルバートさんの手にしているカゴの網目から緑の光が見える。
「何って、夜光茸採りに決まってらぁ。町で高く売れるからよ」
 彼はカゴの中から光るキノコを取り出して見せてくれた。

「うわ……、きれい……」
 傘の開いた細いキノコの全体が緑の光を放っている。
 この森にはまだまだ僕の知らないたくさんの種類の珍しいキノコが生えているようだ。

「ところでお前さんこそ一人で何してんだ?」
 僕はアルバートさんにシャンが出ていってしまったことを話した。

「シャンの行き先に心当たりとかありませんか?」
「探してやるなよ。明日の朝には戻って来るってんじゃいいじゃねえか」
 アルバートさんはたばこに火をつけた。

「……バケモノになるのを見られたくないんだろ。お前さんを襲いかねねえし」
 シャンからすれば、そうだろう。人に見られたくないものを無理に暴くのは良くないってわかっている。

 僕だって前の世界では健康診断の結果、特に体重の欄をクラスメイトに覗き見されてクラス中にバラされたときは本当に恥ずかしかったし、なんて酷いことをするんだろうって悲しかった。

 この前の満月の夜も、シャンは狼化しないように、例えしたとしても僕に危害を加えないように、南京錠で物置へ閉じ込めてほしいと言っていたのに、僕が知らずに月を見せたのが悪かったのだ。

 ちょっと怖いイケメンにオラオラ抱かれたいって僕は思っているけど、シャンの方は嫌なのかもしれない。僕にとっては痺れるほど格好いい狼の姿のシャンは、こっちの世界の基準では気味の悪いバケモノでしかないのだろうから。

「家まで送ってやろう。お前さんみたいな美人が一人で暗い森を歩くのは危ねえから」
 アルバートさんに送ってもらって僕は家に帰った。

 シャワーを浴びるついでにお漏らしした下着とズボンを洗って干し、一人でベッドに潜り込んだ。
 せっかく今夜狼になったシャンとのセックスを楽しみにしていたのに、それどころじゃなくなった……。
 シャンは今頃、一人で暗い森の中にいるのだろうか。
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