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第二章 満月の夜
17.美しい満月
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夕食のシチューはシャンが作ってくれたから、食べたあとの食器は僕が洗った。
「終わったよ」
きれいになった鍋を水切りかごへ置いて、部屋の中にいるシャンに声をかけた。
「ああ、ありがとう」
彼は壁に貼られたカレンダーを見ていた。そういえばシャンはよくカレンダーを見ているけど、何か近々楽しみな予定でもあるのだろうか?
「あのさあ、タクヤ」
シャンが真剣な表情で僕の名前を呼んだ。
「なに?」
「実は、お願いがあるんだけど……いいかな?」
「どうしたの、改まって」
「俺は今夜、物置で寝るから、俺が中に入ったら外から掛金をかけて南京錠でしっかりカギをかけてほしいんだ」
「……え?」
何を言っているのかわからなかった。どうして物置なんかで寝るの? おまけになんでカギなんかが必要なの?
「俺がどんなに暴れたり騒いだりしても朝になるまで絶対にカギを開けないでほしいんだ。お願いだよ」
「なんで……?」
昨日は長椅子で毛布に包まって寝ていたじゃないか。今日もそれでいいと思うけど。まさか、僕のいびきがうるさかった?
「とにかく俺は物置で毛布に包まって寝るから、夜が明けるまでは絶対に開けないで」
「どうして?」
「どうしても。とにかくそうしないと危ないんだ、今夜は万が一ってことがあるから」
「今夜? 何かあるの?」
いくら聞いても理由は言いたくないみたいで答えてくれない。
アルバートさんの言っていたこととは逆で、これじゃ僕がシャンを監禁することになるじゃないか。どんな理由があろうと暗い倉庫に一晩閉じ込めるなんてそんなこと僕にはできない。
もしかして、一人になりたい気分なのかな? 僕も前の世界では学校でいじめられたときとか、弟との差を目の当たりにして惨めな気持ちになったときとかには一人で暗い部屋の中で泣いていたからそういう気持ちはわかるけど……。
「じゃあしっかりカギをかけてね。約束通り絶対に朝になるまで開けちゃダメだよ」
そう言いながら毛布を抱えてシャンは真っ暗な物置に入って行こうとした。
もし彼が今、つらい気持ちになっているとしたら、シャンを元気づけたい。無理に打ち明けてくれなくても、そばにいて寄り添いたいと思った。
昨日の夜、過去のことを夢に見て泣いていた僕にシャンもそうしてくれたように。今日は僕の番だ。そう思って部屋のカーテンを開けた。
「ねえ、見てよ、シャン。今夜は月がとてもきれいだよ」
カーテン越しにも明るい夜だと思っていたが、空にはまん丸で美しい見事な満月が輝いていた。こんなきれいな月を見たらシャンも喜ぶんじゃないかと思った。
「だ、……だめっ!!!」
叫びながらシャンが両手で目を覆って、しゃがみ込んだ。
「閉めてっ、カーテン、早く閉めてっ!!」
何が起きたかわからず、僕は呆気に取られてカーテンを閉めたのはシャンが叫んでから数秒経ってからだった。
「ぐああああ……っ」
普段のシャンの声とは違う太くて低い叫び声が上がった。少しの沈黙の後、彼はむくりと顔を上げた。
「終わったよ」
きれいになった鍋を水切りかごへ置いて、部屋の中にいるシャンに声をかけた。
「ああ、ありがとう」
彼は壁に貼られたカレンダーを見ていた。そういえばシャンはよくカレンダーを見ているけど、何か近々楽しみな予定でもあるのだろうか?
「あのさあ、タクヤ」
シャンが真剣な表情で僕の名前を呼んだ。
「なに?」
「実は、お願いがあるんだけど……いいかな?」
「どうしたの、改まって」
「俺は今夜、物置で寝るから、俺が中に入ったら外から掛金をかけて南京錠でしっかりカギをかけてほしいんだ」
「……え?」
何を言っているのかわからなかった。どうして物置なんかで寝るの? おまけになんでカギなんかが必要なの?
「俺がどんなに暴れたり騒いだりしても朝になるまで絶対にカギを開けないでほしいんだ。お願いだよ」
「なんで……?」
昨日は長椅子で毛布に包まって寝ていたじゃないか。今日もそれでいいと思うけど。まさか、僕のいびきがうるさかった?
「とにかく俺は物置で毛布に包まって寝るから、夜が明けるまでは絶対に開けないで」
「どうして?」
「どうしても。とにかくそうしないと危ないんだ、今夜は万が一ってことがあるから」
「今夜? 何かあるの?」
いくら聞いても理由は言いたくないみたいで答えてくれない。
アルバートさんの言っていたこととは逆で、これじゃ僕がシャンを監禁することになるじゃないか。どんな理由があろうと暗い倉庫に一晩閉じ込めるなんてそんなこと僕にはできない。
もしかして、一人になりたい気分なのかな? 僕も前の世界では学校でいじめられたときとか、弟との差を目の当たりにして惨めな気持ちになったときとかには一人で暗い部屋の中で泣いていたからそういう気持ちはわかるけど……。
「じゃあしっかりカギをかけてね。約束通り絶対に朝になるまで開けちゃダメだよ」
そう言いながら毛布を抱えてシャンは真っ暗な物置に入って行こうとした。
もし彼が今、つらい気持ちになっているとしたら、シャンを元気づけたい。無理に打ち明けてくれなくても、そばにいて寄り添いたいと思った。
昨日の夜、過去のことを夢に見て泣いていた僕にシャンもそうしてくれたように。今日は僕の番だ。そう思って部屋のカーテンを開けた。
「ねえ、見てよ、シャン。今夜は月がとてもきれいだよ」
カーテン越しにも明るい夜だと思っていたが、空にはまん丸で美しい見事な満月が輝いていた。こんなきれいな月を見たらシャンも喜ぶんじゃないかと思った。
「だ、……だめっ!!!」
叫びながらシャンが両手で目を覆って、しゃがみ込んだ。
「閉めてっ、カーテン、早く閉めてっ!!」
何が起きたかわからず、僕は呆気に取られてカーテンを閉めたのはシャンが叫んでから数秒経ってからだった。
「ぐああああ……っ」
普段のシャンの声とは違う太くて低い叫び声が上がった。少しの沈黙の後、彼はむくりと顔を上げた。
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