【R-18】僕のえっちな狼さん

衣草 薫

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第二章 満月の夜

16.物置につけたカギ

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 言われた言葉にピンと来なくて、ぽかんと口を開けている僕にアルバートさんが続けた。
「あのシャンって奴は2、3年前にどっかの町から逃げてきてこの森に住みついたんだが、どうも普通じゃねぇぞ。体は痩せこけているし、すばしっこく動くし。……いつも布を巻いて隠している奴の素顔を見たことがあるか? 言葉じゃ言い表せねえほど奇妙な顔をしてやがるんだ」

 豚人から見たらシャンの引き締まった体やしゅっとしたきれいな顔は妙だと思うんだろう。デブの僕をべっぴんさんと呼んでいたし。この世界は美的感覚がおかしいんだ。
 アルバートさんのお腹に視線をやると、デニムのオーバーオール越しにもわかるほどぼってり出ている。立派なビールっ腹はここでの標準的な体系、もしくは魅力的な体系なんだろう。

「それに……」
 アルバートさんが何かを言いかけたけど、倉庫からシャンが小走りで戻って来た。
「あったよ、アルバートさん。掛金も南京錠も」

「ああ、そうかい。じゃあ両方合わせて3000ギーでいいぜ」
「ありがとう」
 シャンは懐から袋を出してアルバートさんに金貨を払って、僕らは来た道を引き返した。


 帰宅するとシャンは慣れた手つきでくぎを打ち、家の中の物置のドアにアルバートさんから購入してきた掛金と南京錠を取り付けた。
 シャンの家の間取りはLDK一間だけで、その他には1畳ほどの広さの物置があるだけだった。そこへカギをつけているのだ。何か僕には触られたくないものでも入れて置く気なのだろうか。

「夜になるまでに仕上げないといけないんだ、悪いけどお昼ご飯はあるもの何でも好きに食べて」

 手が離せないという様子なので、僕がサンドイッチを作ることにした。もちろんシャンの分も。

 家の横には畑があって、色々な野菜が植わっている。そこからリーフレタスやトマト、ラディッシュなどを積んできて、よく洗って細かく切り、台所にあったオリーブオイル、酢、砂糖、塩コショウ、などであえた。
 何か他にサンドイッチに合いそうな具材はないかなと物色していると、台所のカゴの中に黒い丸いものを見つけた。

「ねえ、シャン! これってもしかして!?」
「ああ、それはトリュフだよ。この森にはトリュフがたくさん生えていて、それを集めて町で売ってお金にしているんだ」
 なるほど、こんな森で半自給自足の生活をしているとはいえ、どうやって収入を得ているのかと気になっていたのだ。

「すごい! ねえ、売り物だって言ったけど少しだけ使ってもいい?」
「もちろんだよ。好きなだけ使って」
 スライサーで薄く削ったトリュフも加えて、パンに味付けした野菜類を挟んだ。

「できたよー、お昼にしよう」
「え、俺の分までタクヤが作ってくれたの!? ありがとう」

 シャンはすぐに手を洗ってテーブルについた。火の付け方がわからなかったからパンもあぶっていない簡単なサンドイッチなのに、美味しい、美味しいと感激しながら食べてくれた。その嬉しそうな顔にきゅんとしてしまう。

 アルバートさんが「食われちまわねえうちに、さっさと逃げろよな」と言っていたけど、僕はシャンが悪い人だとは思えない。
 むしろ外見がみんなと少し違うだけでそこまで周囲から疎まれているシャンに同情してしまう。
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