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第一章 異世界転生
11.町から森へ
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デカい豚鼻とタコのような唇が迫る。万事休す、と思った瞬間。
「うほおっ! な、なんだ!!」
目の前にいたはずの求婚男が奇声を上げて道へ突っ伏していた。
代わりに目の前にはシャンがいる。シャンが男を突き飛ばしたのだ。
「シャン……来てくれたんだね」
嬉しかった。彼も目元で微笑んだ。
男が巨体を起こそうとすぐ脇の酒屋の裏口に積み上げられていた酒樽へ手をつくが、運悪くその樽は空っぽだったようでバランスを崩して樽と一緒に再びドカンッと道へ転んでしまった。
「おおおっ……うわあっ」
どういうわけか、転んだ拍子に男の上半身が樽にすっぽりとはまって太い腹回りが引っかかって抜けなくなってしまっている。
「うおお、どうなってんだ、ハニー引っ張って助けてくれ。ハニー? そこにいるんだろう?」
「今のうちに逃げようっ!」
男がパニックになっている間に、僕たちは逃げた。
路地裏の小道を抜けると、酒屋の脇にワインの絵の描かれたトラックが停まっていた。シャンが酒樽や瓶の入った木箱が積まれている荷台にひょいと飛び乗った。
「タクヤ、急いで」
「え、僕も乗るの!? どうやって?」
僕の足はそんなに高く上がらないし、荷台のふちに両手を突いて体重を支えて跨ぐなんてこともできない。ほら、体育はどれも苦手だけど跳び箱とか鉄棒とかは特に苦手だったから。
「どうしよう、僕にはできない……」
もたもたしているうちにトラックのエンジンがかかった。そしてゆっくり動き出してしまった。
「掴まって、早く」
シャンが荷台から僕に向かって手を伸ばしている。
デブの僕が彼の手を掴んだら二人ともトラックから落ちてしまわないか不安だった。
「早く掴んで、俺を信じて」
ここでシャンと離れたらもう会えない気がした。余計なこと考えている場合じゃない。トラックは加速して僕の足じゃ追いつかなくなってきている。おまけに僕は長く走れないし。
勇気を出してシャンの手を掴んだ。彼が僕の重たい体を引き上げてくれた。
「ふはあっ、……やれやれ、これで一安心だ」
「はあ、怖かった……」
僕らの乗ったトラックは店や民家の立ち並ぶ町の中心からどんどん遠ざかっていく。どこへ向かっているのだろう?
それに勝手に乗り込んでしまったけど、運転手にバレて怒られやしないかと僕はハラハラしていた。
周囲は畑ばかりののどかな風景になっていく。トラックがブドウ園のゲートの前で停まり、僕たちはバレないように急いで降りた。
「よしよし、うまくいったね」
「シャンはいつもこうやって移動してるの?」
「ううん、いつもは自分の足で歩いているけど街で買った荷物が重いときなんかに、たまに」
長く歩いたり走ったりできない僕を気遣ってくれたんだ。優しいなぁ……。
「もうすぐ僕の家だよ、もう少しだけ歩ける?」
シャンの家に連れて行ってくれるんだ!?
「うん、大丈夫」
歩いている道の先には大きな森が見えていた。どうやらそこに向かっているようだった。
僕らは森の中へ足を踏み入れた。そこは前の世界で学校の遠足なんかで出かけた山や林とは全然違う、ファンタジーのゲームなんかで見る幻想的で明るい森だった。
木漏れ日の中で紫の蝶がひらひらと舞っている。
「さあ着いたよ、ここなんだけど」
周囲の苔だらけの古木と同様にこれまた屋根が苔に覆われ壁の全面にツタが張り巡っている小屋をシャンが指差した。森と一体化している家だった。
「わあ、すごく素敵……」
僕はわくわくしてたまらなかった。異世界転生のスローライフ小説を読んで森で自給自足する生活には憧れていし、何より前の世界ではいじめられて人間社会にうんざりしていたから街で暮らすよりこういう生活が嬉しい。
家の中もシャンが作ったのか手作り感あふれる木の椅子やテーブルがあって、まるでおとぎ話の小人の家みたいだと思った。
「お腹ペコペコでしょう? すぐに夕食にしよう」
シャンはこの森で採ったという色々な種類のキノコをたっぷりと入れたクリームパスタを作ってくれた。
「うほおっ! な、なんだ!!」
目の前にいたはずの求婚男が奇声を上げて道へ突っ伏していた。
代わりに目の前にはシャンがいる。シャンが男を突き飛ばしたのだ。
「シャン……来てくれたんだね」
嬉しかった。彼も目元で微笑んだ。
男が巨体を起こそうとすぐ脇の酒屋の裏口に積み上げられていた酒樽へ手をつくが、運悪くその樽は空っぽだったようでバランスを崩して樽と一緒に再びドカンッと道へ転んでしまった。
「おおおっ……うわあっ」
どういうわけか、転んだ拍子に男の上半身が樽にすっぽりとはまって太い腹回りが引っかかって抜けなくなってしまっている。
「うおお、どうなってんだ、ハニー引っ張って助けてくれ。ハニー? そこにいるんだろう?」
「今のうちに逃げようっ!」
男がパニックになっている間に、僕たちは逃げた。
路地裏の小道を抜けると、酒屋の脇にワインの絵の描かれたトラックが停まっていた。シャンが酒樽や瓶の入った木箱が積まれている荷台にひょいと飛び乗った。
「タクヤ、急いで」
「え、僕も乗るの!? どうやって?」
僕の足はそんなに高く上がらないし、荷台のふちに両手を突いて体重を支えて跨ぐなんてこともできない。ほら、体育はどれも苦手だけど跳び箱とか鉄棒とかは特に苦手だったから。
「どうしよう、僕にはできない……」
もたもたしているうちにトラックのエンジンがかかった。そしてゆっくり動き出してしまった。
「掴まって、早く」
シャンが荷台から僕に向かって手を伸ばしている。
デブの僕が彼の手を掴んだら二人ともトラックから落ちてしまわないか不安だった。
「早く掴んで、俺を信じて」
ここでシャンと離れたらもう会えない気がした。余計なこと考えている場合じゃない。トラックは加速して僕の足じゃ追いつかなくなってきている。おまけに僕は長く走れないし。
勇気を出してシャンの手を掴んだ。彼が僕の重たい体を引き上げてくれた。
「ふはあっ、……やれやれ、これで一安心だ」
「はあ、怖かった……」
僕らの乗ったトラックは店や民家の立ち並ぶ町の中心からどんどん遠ざかっていく。どこへ向かっているのだろう?
それに勝手に乗り込んでしまったけど、運転手にバレて怒られやしないかと僕はハラハラしていた。
周囲は畑ばかりののどかな風景になっていく。トラックがブドウ園のゲートの前で停まり、僕たちはバレないように急いで降りた。
「よしよし、うまくいったね」
「シャンはいつもこうやって移動してるの?」
「ううん、いつもは自分の足で歩いているけど街で買った荷物が重いときなんかに、たまに」
長く歩いたり走ったりできない僕を気遣ってくれたんだ。優しいなぁ……。
「もうすぐ僕の家だよ、もう少しだけ歩ける?」
シャンの家に連れて行ってくれるんだ!?
「うん、大丈夫」
歩いている道の先には大きな森が見えていた。どうやらそこに向かっているようだった。
僕らは森の中へ足を踏み入れた。そこは前の世界で学校の遠足なんかで出かけた山や林とは全然違う、ファンタジーのゲームなんかで見る幻想的で明るい森だった。
木漏れ日の中で紫の蝶がひらひらと舞っている。
「さあ着いたよ、ここなんだけど」
周囲の苔だらけの古木と同様にこれまた屋根が苔に覆われ壁の全面にツタが張り巡っている小屋をシャンが指差した。森と一体化している家だった。
「わあ、すごく素敵……」
僕はわくわくしてたまらなかった。異世界転生のスローライフ小説を読んで森で自給自足する生活には憧れていし、何より前の世界ではいじめられて人間社会にうんざりしていたから街で暮らすよりこういう生活が嬉しい。
家の中もシャンが作ったのか手作り感あふれる木の椅子やテーブルがあって、まるでおとぎ話の小人の家みたいだと思った。
「お腹ペコペコでしょう? すぐに夕食にしよう」
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