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第一章 異世界転生
10.さよなら
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「君はそのお金でいいレストランで美味しいものを食べて宿屋へ泊まると良いよ」
シャンも一緒じゃないの? と思ったけど聞けない。
さっきの首飾りの持ち主のようにシャンがこの辺りのみんなから嫌われているとしたら、たくさん人が集まるレストランへなんて行きたくないのだろう。その気持ちは痛いほどわかる、僕も前の世界ではいじめっ子たちがよく溜まっている駅前のファストフード店やゲームセンターなんかには近づけなかったから。
「君ならすぐにでもいい人と巡り会うよ……いや、君ほどの美貌ならこの国の王子に会いに行くのもいいかもしれないな。なにしろ許嫁が流行病で亡くなって王子は花嫁を探しているところだから」
冗談じゃない。豚人の国の王子のところへなんか行くもんか。僕は豚にモテたいわけじゃない。
シャンがきれいなアッシュ色の髪と獣耳、顔の目から下を布ですっぽり覆い直した。
「じゃあ、さよなら。君のことは一生忘れないよ」
え、行っちゃうの……? こんなドタイプのイケメン、おまけに控えめで穏やかなこんないい人、僕はもっとずっとそばにいたいと思ったんだけど……。
「会えて嬉しかった」
そんなこと誰かに言われるなんて初めてだ。
彼はくるりと背を向けて路地裏の細い道を歩き出した。その後ろ姿はすごく寂しそうだった。
シャンを追いかけたい。……でも、なんて言えばいいんだろう?
僕の頭の中でバスケ部の人に言われた「どんだけ迷惑だと思ってんだよ」って言葉が、急にフラッシュバックした。
いくら僕みたいなのがモテる世界だとはいえども、やっぱり僕なんかに好意を寄せられては迷惑なんじゃないかという不安を捨てきれない。
「お! 見つけた! こんなところにいたのか、俺の花嫁!!」
背後から声が聞こえた。振り返るとさっきバラの花束を持って求婚してきた小太りの男がいた。彼は猛スピードでこちらに突進してくるところだった。
「うああっ!」
必死で逃げるが男はどんどん迫っているようだ。
小道の先にシャンの姿はもう見えなくなっていた。
「さあ、捕まえた。ぐふふ、もう放さないよマイハニー」
バラの男が僕の手を掴んだ。
「嫌だ、放してっ……」
「嫌がることないだろ、俺は最高の結婚相手だよ。お金持ちだし、おまけになかなかいい男だろ。うちへお嫁に来て悪いことはないよ」
「お嫁にって、僕は男だよ」
「何を言っている、男以外に何がいる?」
え、そういうこと? さっきから妙だと思っていたけど、この世界は男しかいない世界なんだ!?
言われてみれば、こっちに来てから女性の姿を全然見ていない。
求婚男の握力は強くて、その手を振り払うことができない。
「さあ、愛の証に熱いキッスでもしようじゃないか」
デカい豚鼻とタコのように尖らせた唇が目の前へ迫る。
「ぎゃああっ! シャン、助けてっ!」
太っている僕が言うのもなんだけど、こんな豚みたいな男と結ばれるために転生したんじゃない。僕はシャンみたいなイケメンと恋がしたいんだ。その一心でシャンの名前を叫んだ。
シャンも一緒じゃないの? と思ったけど聞けない。
さっきの首飾りの持ち主のようにシャンがこの辺りのみんなから嫌われているとしたら、たくさん人が集まるレストランへなんて行きたくないのだろう。その気持ちは痛いほどわかる、僕も前の世界ではいじめっ子たちがよく溜まっている駅前のファストフード店やゲームセンターなんかには近づけなかったから。
「君ならすぐにでもいい人と巡り会うよ……いや、君ほどの美貌ならこの国の王子に会いに行くのもいいかもしれないな。なにしろ許嫁が流行病で亡くなって王子は花嫁を探しているところだから」
冗談じゃない。豚人の国の王子のところへなんか行くもんか。僕は豚にモテたいわけじゃない。
シャンがきれいなアッシュ色の髪と獣耳、顔の目から下を布ですっぽり覆い直した。
「じゃあ、さよなら。君のことは一生忘れないよ」
え、行っちゃうの……? こんなドタイプのイケメン、おまけに控えめで穏やかなこんないい人、僕はもっとずっとそばにいたいと思ったんだけど……。
「会えて嬉しかった」
そんなこと誰かに言われるなんて初めてだ。
彼はくるりと背を向けて路地裏の細い道を歩き出した。その後ろ姿はすごく寂しそうだった。
シャンを追いかけたい。……でも、なんて言えばいいんだろう?
僕の頭の中でバスケ部の人に言われた「どんだけ迷惑だと思ってんだよ」って言葉が、急にフラッシュバックした。
いくら僕みたいなのがモテる世界だとはいえども、やっぱり僕なんかに好意を寄せられては迷惑なんじゃないかという不安を捨てきれない。
「お! 見つけた! こんなところにいたのか、俺の花嫁!!」
背後から声が聞こえた。振り返るとさっきバラの花束を持って求婚してきた小太りの男がいた。彼は猛スピードでこちらに突進してくるところだった。
「うああっ!」
必死で逃げるが男はどんどん迫っているようだ。
小道の先にシャンの姿はもう見えなくなっていた。
「さあ、捕まえた。ぐふふ、もう放さないよマイハニー」
バラの男が僕の手を掴んだ。
「嫌だ、放してっ……」
「嫌がることないだろ、俺は最高の結婚相手だよ。お金持ちだし、おまけになかなかいい男だろ。うちへお嫁に来て悪いことはないよ」
「お嫁にって、僕は男だよ」
「何を言っている、男以外に何がいる?」
え、そういうこと? さっきから妙だと思っていたけど、この世界は男しかいない世界なんだ!?
言われてみれば、こっちに来てから女性の姿を全然見ていない。
求婚男の握力は強くて、その手を振り払うことができない。
「さあ、愛の証に熱いキッスでもしようじゃないか」
デカい豚鼻とタコのように尖らせた唇が目の前へ迫る。
「ぎゃああっ! シャン、助けてっ!」
太っている僕が言うのもなんだけど、こんな豚みたいな男と結ばれるために転生したんじゃない。僕はシャンみたいなイケメンと恋がしたいんだ。その一心でシャンの名前を叫んだ。
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